第7話 王都サンクタリア
『王都サンクタリア。王都サンクタリア。終点です。この列車は折り返し王国領アーバン行きになります。』
――プルルルル! プシュゥゥゥ……――
キャノピーが天を覆う広いホームに、フォルティナたちが乗った列車が停車した。
列車を降りて人々の賑わいを見て思う。
さすが王都……フロンタイタス並みに人が多い! しかもみんなノーラみたいな綺麗な服着てる!
行き交う人々の綺麗な服装と自分の服装を見比べてしまう。
フロンタイタスで買った新しい冒険コーデなのに、場違い感がすごいよ……
そう服を触りながら考えていると、モルトが不思議そうに見てきた。
「どうしたんだ? お前?」
「えっ! あ〜、いやぁ〜……」
はは〜ん、と察したようにモルトがニヤニヤし始めた。
「お前、自分の格好に恥ずかしくなったか?」
「違うもんッ!……って言いたいけど、なんかアタシたち、場違いな学校に来たかと思って……」
「分かる! 分かるで? ティナ姉ちゃん!」
マロンがモルトの後方から腕を組みながらそう頷いていた。
「ウチも列車から降りた瞬間から感じたねん。なんて言うか、周りの人みんな貴族みたいな高そうな服着てるのに、ウチら小汚いやん?ホンマにここ居ってええんか?って思っとったねん」
「同じ! そうそう! なんか怖くなっちゃったんだよね〜。ねぇノーラ? アタシたちここで降りて本当に良かったんだよね? アタシたちみたいな貧乏人は途中で列車から飛び降りるってルールがあったりしたんじゃない?」
列車って怖いね〜っアタシはマロンが言い合っていると……。
「そんなルールあるわけないだろッ! それにあそこを見てみろ!」
エレオノーラからツッコまれた。そんなエレオノーラが列車から降りてくる人々を指差した方向を見ると、共和国やフロンタイタスで見たような服装の人々がいた。
それを見て、マロンと安心したように息を吐いた。
「良かった……アタシたちだけじゃなかった。こうして同じ服着た人見ると安心するわね〜」
「せやなぁ〜。見慣れた服装を見ると、間違ってなかったって実感が湧くわ〜」
アタシとマロンは安心したようにホッコリしていると……。
「ティナさん……お姉ちゃん……そんなにジロジロと降りてくる人たちを見ないで? こっちも恥ずかしくなるから……」
「イデアの言う通りだぜ……そんな田舎者っぽい反応はやめろ? 俺たちまで同じように見られるからな……マロンはまだ子供だから許せるが、お前は別だ! まぁ仕方ねぇよなぁ? 時代に置いて行かれた原始的な村から来たマジもんの田舎者なんだしなぁ〜」
イデアとモルトが2人と距離を置きながら冷めた目を向けてきた。
モルトに至っては侮辱のおまけ付きである。
「なんですって〜ッ! マインツ村を馬鹿にしすぎよッ! アンタさっきは優しかったのに、もう優しさを無くしたの? ほんと悲しい馬鹿ね!」
「優しさが欲しかったら田舎者っぽさを捨ててから言うんだな〜! だはははは!」
馬鹿にしてッ! 後で覚えときなさいよ! 顔を地面に当てて引きずり回してやるんだから〜ッ!!
そう拳を握り締めていると、パシンッ! とエレオノーラがモルトの頭を叩いた。
「いってぇ! 何すんだ! デカ乳お化け!」
「誰がデカ乳だッ……いやいや! それよりもお前こそ何をしているんだ! 周りから見られているのに良い加減に気付け!」
胸を手で隠しながらエレオノーラがモルトに周りを見るように促した。
「周りって……あ……」
モルトは周囲を見渡すと、列車から降りた人々がこちらを冷めた目で見ながら避けるように歩いていた。
「ようやく気付いたか。今のお前が一番恥ずかしいぞ……」
「すみません……」
や〜い! ノーラに怒られてやんの〜! ざまぁみろ〜! とアタシはエレオノーラの背後からモルトにお尻ぺんぺんをして挑発した。
モルトはそんなアタシに気付き、顔が引き攣っていたが、背後から……。
「ティナさんも良い加減にしないと、ノーラさんに言いつけますよ?」
「イデア!? そ……それだけは……嫌かな……」
「ならモルトさんをおちょくるのはやめてください」
「はい……ごめんなさい……」
イデアに頭を下げながらモルトたちを見る。向こうも軽いお説教が終わったみたいだ。
さすがにノーラも、こんな場所で全力の説教はしないわよね?
「はぁ……全くお前たちときたら毎回毎回……仲良くできんのか……」
無理ね。だってモルトがいちいちアタシに喧嘩売ってくるんだもん!売られた喧嘩は買うのがマインツ村のルールよ!ま?アタシは売る方だけどね?
「とりあえずここから移動するぞ? みんな私について来てくれ」
膨れたフォルティナを見て、これ以上は不毛だと言わんばかりに呆れたエレオノーラが場所を移動し始める。
「おう」
「は〜い!」
みんなもエレオノーラに続き歩き始めると……。
「ティナさんは私たちと手を繋いでください」
「せや? また迷子になったら敵わんからな?」
イデアとマロンが手を繋いできた。
「えー? そんな簡単に迷子になるわけないでしょ〜? 子供じゃないんだから〜」
「では……聞きます。出口はどこですか?」
イデアが疑いながら聞いてきた。
「え〜? あっちでしょ?」
アタシは、ホームにある登り階段を指差す。
あそこにいっぱい人がそこに歩いてるんだもん! そんな簡単なことぐらい分かるわよ〜。全く二人とも心配性なんだから〜
「そっちは王国領西部バージニア行きのホームです」
「え……」
間違えたアタシにマロンが腕をクイッと引いて言った。
「ティナ姉ちゃん……階段の上。あそこに案内が書いてるんやけど……」
マロンが指差した方向を見ると、西部バージニア行きと大きく書かれていた。
それを見てアタシは苦笑いをしてしまう。
最早笑って誤魔化すしかない。
「ティナさんは大人しく手を繋ぎましょうね?」
「それがええわ。簡単に迷子になるのが分かったやろ?」
「う……うん……」
両手を2人に繋がれて歩き出した。
こりゃモルトから田舎者って馬鹿にされてもしょうがないよ……。
マロンとイデアからはぐれないように手を繋いでもらう、お姉ちゃんなんて……。
―――――――――――――――――――――
駅の建物から出ると目の前に広がったのは、古き良き異国の街といったような光景だった。
車もマジックボードも走っておらず、広い道を街の人々が往来している。
フロンタイタスのような近代的なビルはなく、伝統的な建築物が多かった。
何より目に入ったのは先に見えた大きな城だった。
「デカいお城……昔読んだ物語の本の通りなら、ああいう場所に王様がいるんだよね?」
王様って本当に豪華な生活してるのかな? 社交会でご馳走食べたりとか、ダンスとかしちゃったりとか!
そんなことを考えていると、エレオノーラが隣に立って首を傾げながら言った。
「城?何を言ってるんだ?あれはどう見ても学校だぞ?」
そんなエレオノーラの言葉を聞いてアタシは驚愕した顔を浮かべた。
「学校!? えっ!? 学校!!? お城じゃないの!? あれ!」
「ああそうだぞ?あそこが、私が通う王立騎士学校だが……何かおかしいか?」
あれが学校!? どう考えてもおかしいでしょ? かなり大きいお城じゃん!! 驚いた……あんな大きな学校にノーラ通ってたんだ……。
それに比べて青空の下で勉強してたアタシたちって……ほんと田舎なのね……。
学校を眺めながら唖然としていると、モルトも驚いたように学校を眺めていた。
「マジかよ……あれが学校だと? なら城はどんだけデケェんだよ……」
「王城はもっと大きいぞ? 場所を変えれば見えるが……見たいか?」
モルトに首を傾げながらエレオノーラが言った。場所を変えれば見えるなら見たい!
そう思ってアタシは手を挙げながら訴えた。
「え! 見たい見たい!」
「そうか! なら観光するとしよう!」
「やったー!」
アタシが飛び跳ねて喜んでいると、マロンが心配そうにエレオノーラの服を引っ張った。
「ノーラ姉ちゃん、家は大丈夫なん? 時間とか……」
「問題ない。元より街の下見をする予定だったからな? 夕方には着くと事前に連絡しておいた」
「なら大丈夫か! いやな? ウチらのせいでノーラ姉ちゃんが怒られるんちゃうかって思ってな〜?」
「心配掛けてすまないな? だが先程も言ったが大丈夫だ! 今は街を巡ろうじゃないか! よし! みんな私についてくるんだ!」
エレオノーラが笑顔で先を歩き出し、アタシの手をイデアが繋いだ。
はいはい……アタシが迷子にならないようにだよね?
そう諦めていると、手を繋いだイデアが後ろからエレオノーラを見て呟いた。
「ノーラさん……楽しそう」
「あはは! そうね〜? やっぱ自分の故郷を案内できるからじゃない?」
「それだけなんでしょうか? 他にも理由がありそうですが……」
そういえば、ノーラ言ってたっけ? 感情を出すことは貴族として恥ずべき行為って……なら今アタシたちといるこの時間が楽しいのかも……。
にしても感情を出さない生活かぁ……それって楽しいのかな?
フォルティナはそんなことを考えながら、楽しそうに街を説明するエレオノーラの後に続き街を巡り始めた。
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