第4話 王都に出発!出来ませんでした。
夜。予定では昼間に列車に乗って首都サンクタリアへ向かい、エレオノーラの別宅に到着しているはずだったのに――アタシたちは、まだアーバンの街にいた。
「またやってしまった……」
アーバンにある食堂の席で、エレオノーラはまるでこの世の終わりかのように落ち込み、テーブルに突っ伏していた。
「アタシが言うのもなんだけど、元気出して? ノーラ?」
隣に座っていたアタシは、エレオノーラの背中を撫でながら励ます。
ほぼ全部アタシが悪いから、励ますたびに罪悪感が募ってしまうのは本当の事だ。
「そうだぜ? お前の言う通り、こいつが迷子になる可能性を考慮しなかった俺様たちも悪かったんだ……な? いい加減元気出せって?」
モルトも向かいの席から励ましてくる。たしかにモルトの言う通り、アタシも迷子になるなんて思ってなかったし……次からはちゃんと対策しようって思った。
「ありがとう、二人とも……でも、せっかく買った切符も使えなくなってしまった……」
落ち込むエレオノーラに、マロンが切符を取り出してピラピラと揺らした。
「それなら大丈夫やで? 駅員さんに聞いたら、今回は向こうのミスでもあるから、この切符で乗車できるようにするって言ってたわ」
そんなマロンに、モルトはグッドサインを突きつけた。
「ナイス! マロン!! だから元気出せって? 一日到着が遅れるぐらいでさ」
「その1日が問題なんだ……お父様との約束で、今日の夜に到着すると伝えてしまったんだ……」
エレオノーラが青ざめた表情になり、頭を抱えながら震え出す。
「そ……そんなに怖いの? ノーラのお父さん……」
アタシは恐る恐る聞いてみると、エレオノーラは頭を抱えて血の気が引いたのか、顔色が青くなっていくのが見える。
「恐ろしいなんてものじゃない……お父様は約束を違えた者には一切の容赦をしない人なんだ……私は、約束を違えた貴族がお父様に糾弾されるところを沢山見た! ……お終いだ……」
アタシはエレオノーラの父親を想像してみる事にした。エレオノーラが怒った以上の物……。それだけで恐怖が募り身震いしてしまった。
ノーラが怒ってアレなんだから想像しただけで怖いよ。
そんな中モルトが、コップの水を飲みながら言った。
「だが、一日遅れるって連絡はしたんだろ? トラブルで予定が狂うなんてよくある話だぜ? 大丈夫だろ、気にしすぎじゃねぇか?」
「何を言うッ! お前はお父様を見たことがないから分からんのだ!」
モルトの発言に、エレオノーラが立ち上がって怒鳴った。モルトはそんな様子のエレオノーラにたじろいだ。
「お……おぉ……」
固まってしまったモルトを見て、エレオノーラは周囲の客の視線に気づく。
思わず立ち上がったことを反省して、席に座り直した。
「すまない……気を取り乱してしまった」
「いや……俺様も知ったようなこと言って悪かった……」
頭を下げたエレオノーラに、モルトも気まずそうに謝った。
「連絡はしたんですよね? 返事はなんて言ってました?」
イデアが尋ねると、
「あ……ああ、連絡はしたんだが、返事が……これだ」
エレオノーラはR.O.Dをテーブルの真ん中に置いた。アタシたちはR.O.Dの画面を覗き込むとそこには、『分かった』とだけ書かれた、そっけない返事だった。
「なんだ! 分かってくれてるじゃん、お父さん! 良かった良かった〜」
「いや……これ……あかんやつや」
「え? なんで? “分かった”って言ってるのに?」
喜ぶフォルティナに、青ざめた顔で画面を見ていたマロンが言ってアタシは理解できなかった。
「ええか? ティナ姉ちゃん……メールっちゅうもんはな? 簡単な文章ほど、興味がないか怒ってるもんなんやで?」
「そうなの!?」
「せや。こういう時に返ってくる内容は、『分かった。気をつけてな?』とか『分かった! ゆっくり帰っといで』って、感情が伝わるように返されるもんや」
マロンが言うと、エレオノーラも頷いた。
「ああ……マロンの言う通り。お父様も普段ならそういうふうにメールを打たれる……だが今回は、これだけ……」
「つまり……」
フォルティナがゴクリと生唾を飲み込むと、エレオノーラが口を開く。
「お父様は、大層お怒りになっているということだ……」
そう言ったエレオノーラは、ズーンッと沈み込んだ。
アタシは「考えすぎだって」とエレオノーラの背中をさすりながらまた励ます。
「ノーラ……元はと言えばアタシが迷子になったのが悪いんだし、アタシたちも一緒に謝るよ。だから元気出して?」
「はぁ……そうだな。今気にしても仕方ないか……」
「うんうん! 今は今を楽しまなくちゃ! 明日のことは、明日の自分に任せよ?」
顔を上げたエレオノーラを覗き込むようにフォルティナがガッツポーズを向けた。
「ウチらも一緒に頭下げるわ! みんなで謝ったら、お父ちゃんもそない怒らんやろ?」
「はい!だから安心してください」
マロンとイデアもエレオノーラを励ました。原因の一端でもあるモルトに顔を向ける。
「し……仕方ねぇな……俺様も謝るぜ……」
嫌そうに言った。
コイツ……アタシたちが言い出さなかったら謝る気なかったでしょ……ほんと、どうしようもないわね。
「みんな……ありがとう」
エレオノーラがそう言って顔を上げた。不安はあるだろうけど、大丈夫そうだ。
「よ〜し! なら朝に向けて早く寝ますか! 部屋はどうする? モルトは一人だとして?」
アタシはみんなを見渡して聞いた。
「1と4でええんちゃうか? お金もあるっちゃあるやろうけど、無駄遣いしたくないやろ?」
マロンがフォルティナたちの財布事情に気を使ったように言った。
「そうしてくれるとありがたいけど……イデアとノーラもそれでいい?」
「はい」
「ああ。構わない」
二人が返事をすると、モルトが席を立った。
「話が決まったなら一旦解散だな? また明日朝に宿前に集合で良いか?」
「あ……うん! 大丈夫!」
「んじゃ、俺様は先に出るわ」
モルトがそそくさと食堂を出ようとする。アタシはその様子を少し怪しく思った。
「ねぇ、アンタ? どっか行くの?」
そう聞かれたモルトはピクッと反応した。
「いや? ちょいと夜の散歩だよ、散歩! いやぁ! 最近体が鈍ってるからなぁ〜、体を動かしておこうと思ってな〜?」
そう笑いながら答えたモルト。散歩なら怪しいところはないか……。
「ふ〜ん、散歩ね?……なら良いや! 分かった! また明日朝9時頃に宿前で!」
「おう! じゃあ明日朝9時にな!」
パァっと明るくなったモルトは、スキップしながら外に出た。
「アイツってそんなに散歩好きだったんだ。今度一緒に散歩でもしよっかな?」
そう言ったアタシに、エレオノーラは何かを察したような顔をして肩に手を置き首を振った。
「どしたの? ノーラ?」
「あ……いや! なんでもない。あいつの散歩は、ティナにはまだ早いと思ってな」
「なんで?」
聞かれたが、言えるわけないだろう!モルトが散歩に向かった場所が風俗街だなんて……。
エレオノーラは、顔を赤くして誤魔化すしかなかった。
「おかしなノーラ?」
アタシは、そんなエレオノーラに首を傾げるしかなかった。
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