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無知な田舎娘は未知に憧れを抱く!  作者: ギトギトアブラーン
第1章 冒険者認定試験編
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第15話 試験当日の出逢い─憧れの母と優しい父─

 試験当日、早めに試験会場である冒険者協会へ向かうため、フォルティナは家の前でアマンダから弁当を受け取っていた。


「ティナ! 今日の試験のためにこれ! 持っていきな! 試験頑張るんだよ! 私も後で応援に行くからね!」


 バスケットいっぱいに詰められたカツサンドに目を輝かせながら、「おーっ!」と嬉しそうに受け取ったフォルティナは、昨日から気になっていたことをアマンダおばさんに聞いてみる。


「昨日、警備隊のおじさんたちからも言われたけど、試験って見学に来られるの?」


「あー……知らなかったのかい? 冒険者認定試験の後半、実技試験は魔獣レースの会場で行われるから、観客が入れるんだよ〜。未来の自分のお得意様を手っ取り早く探せるためにだね!」


「お得意様? どゆこと?」


「冒険者の依頼には、地域依頼と呼ばれる各地域で出される依頼と、個人宛に出される指名依頼があってね。この指名依頼のために観客を入れるんだとかなんとか……詳しいことはわからないけどねぇ」


 なるほどね……要は冒険者の品評会も兼ねてるって感じ? なのかな? まあ、みんなが来てくれるだけでも心強いから、どっちでもいいんだけどね!


「いいのよ、アマンダおばさん! じゃあ行ってくるね!」


「まだ試験までかなり時間があるけど、もう行くのかい?」


「うん! ちょっと軽いアップもしたいからさ! お弁当、ありがとね! 行ってきまーす!」


「頑張るんだよ〜!」


 アマンダおばさんが家の玄関の前から手を振りながらそう叫んだ。


 アマンダおばさんとフェイには、いろいろ助けてもらったし! 今日の試験、ぜっっったい! 合格するぞ〜!


 今日はリュックは置いていくことにした。

 中身がほとんど石ころだからだ……鍛錬用に背負っているだけで、大事な物はもともと必要最低限しか入れてなかった。


 スコップにコンパス、携帯食料に地図のみしか持っていない。

 だから今回はリュックはお留守番! お弁当と斧、あとお守り代わりのコンパスをポケットに持って、冒険者協会へ駆け出したフォルティナだった。


【冒険者協会前】


 予想以上に大きかった! フォルティナの想像では、木造の家より少し大きいぐらいかと思っていたのだが……石造りの神殿みたいな佇まいだったのだ。


 試験開始は11時からだし……あまりにも早く着きすぎた……時計塔を見る限り、まだ2時間ある……どうしようかな〜? ん? あれは……


 冒険者協会前には、フォルティナ以外にもう1人、鮮やかな明るい青髪でロングヘアー、セーターにロングスカートを着たメガネの似合う女性が胸に手を当てながら、ふぅ、とため息をつきつつ協会を眺めて立っていた。年齢はフォルティナより上に見える。


 受験者かな……? 退屈だったし、ちょうどいいや! お話ししよ〜っと!


 女性の気持ちなどお構いなしに、フォルティナは声をかけに行く。


「おはよー! アナタも今日の試験受けに来たの?」


「えっ! あ……はい……そうですけど……」


 いきなり話しかけられた女性はビクッとしたが、言葉や態度から優しそうな感じが伝わってくる。


「いきなりごめんね? 早く着きすぎて退屈だったからさ! あなたが立ってたから、アタシと同じで早く来たのかな〜って思って話しかけたの! アタシ、フォルティナ・ロックス! 16歳です! お姉さんは?」


「あ……あたしはブルーメ・アクアって言います。歳は18……です。フォルティナさん、よろしくお願いしますね……」


「ティナでいいよー! やっぱり歳上だったね! 時間あるし! ……ん〜、あそこ! あそこのベンチに座って話そ⁈ 迷惑だったかな?」


 今さら自分の行動が迷惑だったかもと感じ始めたフォルティナだったが、ブルーメはふふっと小さく笑った。


「いいよ? 私も早く来すぎてどうしようかと思ってたから」


「やったー!」


 フォルティナは小走りでベンチへ向かい、ブルーメは走って向かうフォルティナを笑顔で眺めながら冒険者協会前のベンチに並んで座る。


「ね⁉︎ ブルーメさんは何で冒険者を目指してるの?」


「ふふっ、ブルーメでいいですよ。歳も2つしか違わないですし、同じ受験者ですから」


「ならそうする! ブルーメも敬語使わなくていいんだよ!」


「そうね……そうする。そうね、私が冒険者を目指す理由か〜……ちょっと恥ずかしいな。笑わないでくれる?」


「大丈夫! 笑わないから! 教えて教えて!」


 自分以外の受験者はどんな理由で冒険者を目指しているのか気になりすぎたあまり、少し強引すぎたかもとフォルティナは思ったが、ブルーメは気にせず、少し恥ずかしそうに語り始めた。


「私のお母さんが冒険者だったの。お父さんは街の魔具修理屋で働いている魔技士なんだけど……お母さんが亡くなってからは、お父さんからしかお母さんの話を聞けなくなっちゃって……」


「お母さん、冒険者だったんだね……どんな人だったの?」


「そうだね。お父さんが言うには、お母さんは未知の大地を探検するパーティに属してて、水魔法が得意だったんだって。ある日ね、お母さんからの手紙に写真が入ってたの……今じゃR.O.Dがあるから、写真を撮って送信すればいいのにって思うけど……」


 ブルーメは優しげな笑みを浮かべながら話し続けた。フォルティナもうんうん!と相槌を打ちながら聞き入っている。


 ここまで真剣に聞いてくれているフォルティナなら話しても大丈夫。そう感じたブルーメは、スカートのポケットから一枚の写真を取り出し、そっと見せてくれた。


「これがその写真なんだけど……見て? 真っ白でしょ?」


「確かに……すっごい真っ白だね? これ、何の写真なの?」


「1年中ずっと雪が降ってて、足元はほとんど氷でできた大地って手紙には書かれてたの。よく見ると白い山とか、映ってるでしょ?」


「う〜ん……」


 そう言われ、フォルティナは写真に顔を近づけ、目を細めながらじっと見つめた。


「……あった! これ?」


「そう、それ! この写真を見てね、私、すごく胸がドキドキしたの。本や勉強じゃ知り得ない、見たこともない大地に、未知の魔獣……そういうものに興味が湧いたの。……でも」


 さっきまで楽しそうだったブルーメの表情が一転し、落ち込んだ様子で続けた。


「お母さんね、この大地で亡くなったって。この写真が届いた少し後に、冒険者協会の人が家に来て教えてくれたの。その人、お母さんと同じパーティのメンバーだったらしいんだけど、その人が泣きながらね……お母さんは未知の魔獣と戦いながら、みんなを逃すために必死に戦ってくれたんだって。悲しかったけど……誇らしかったの」


 ブルーメは空を見上げながら、静かに話を続ける。


「お母さん、冒険を楽しんで、色んな人に感謝されて慕われてたって聞いたの。だから、悲しさよりも誇らしかったの。……もちろん、いっぱい泣いたよ。でも、それでかな? 私も冒険者になりたいって思ったの。勉強して、お父さんが頑張って買ってくれたR.O.Dで魔法の練習もして……今、ここにいるの。ふふっ……ちょっと話しすぎちゃった。恥ずかしいね」


 照れたように微笑むブルーメ。その隣で話を聞いていたフォルティナは、涙を目に浮かべながら言った。


「ぜんぜん! 恥ずかしくなんてないよ! お母さん、すっごいんだね! ブルーメが話してる時の顔見てるとわかるもん! お母さんの生き方に憧れたんだね!」


 その言葉を聞き、ブルーメはハッとした。


 そうか……私は未知の大地や人に慕われることに憧れてたんじゃなくて……お母さんの生き方に、憧れてたんだ……


 自分の本当の憧れに気付かせてくれたフォルティナ。ブルーメは彼女にもっと仲良くなりたいと思い、自然と笑顔になっていた。


「次はティナちゃんの番ね? ティナちゃんはなんで冒険者を目指してるの?」


「アタシ⁉︎ アタシはね〜」


 フォルティナもブルーメに語る。子供の頃、魔獣に襲われたとき助けてくれた冒険者のおじさんの話。そこで聞いた数々の冒険話。そして、リュックからコンパスを取り出し、見つめながら言った。


「アタシもね、あのおじさんみたいにいろんなとこ冒険したり、いろんな人と出会いたいの! あとね……またあのおじさんに会いに行くんだ! アタシ、すごい冒険者になったよって! だからアタシは冒険者を目指すの!」


「私とちょっと似てるね。ふふふ。絶対試験、合格しようね!」


 ブルーメもフォルティナの話を聞いて、より一層試験を頑張ろうと決意を固めた。


 お母さん……私、あなたみたいな未知を解き明かす冒険者になるね。絶対なってみせる……


 ブルーメが心に静かに誓いを立てる中、フォルティナはさらに話し続けた。


 村のシスター・シンシアがゴリラみたいなこと、村の外が知らないもので溢れていたこと、アマンダおばさんやフェイとの出会い、警備隊の人たちとの鍛錬で感じたこと——。


 ブルーメはそんな楽しそうに話すフォルティナの言葉に、何度も笑い、何度も驚いた。そして気づけば、試験開始30分前になっていた。


「ティナちゃん、そろそろ時間だから行こっか」


「えっ! ……うわ! もうこんな時間!? あはは……アタシってば話しすぎ? アタシばっか喋っちゃってごめんね?」


「いいよ、楽しかったし。よかったら、これからも仲良くしてくれる?」


「うん! アタシはもうブルーメのこと、友達だと思ってるよ! よろしくね!」


 2人はベンチから立ち上がり、冒険者協会の内部へと足を踏み出す。


「チッ……何が“憧れ”だ……“夢”だ……現実を知らねぇくせしやがって……」


 離れた場所でその会話を聞いていた男が、低く悪態をつきながら、協会の中へと姿を消していった——。

ここまで読んで下さりありがとうございます!

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