第46話 与えられた名
強くなることを誓っていたアタシたちに、ダライオスは真剣な顔で話しかけてきた。
「もう一つの話なんだが、これはお前の話だ。フォルティナ」
「アタシの話?」
アタシは自分を指差すと、ダライオスはコクンと頷いて続けた。
「そうだ! メジャーで好成績を残した選手には、閉会式で二つ名が与えられるんだが、お前、気絶してたからな! まぁ俺もだが……」
「二つ名? なにそれ? 名前が二つになるの?」
二つ名がどういうものか、自分の想像できる範囲で考えていると、イデアが答えてくれた。
「二つ名はメジャー選手の呼び名ですよ? ほら、ジョニー選手にもあったアレです」
「あー! 始まりの男ってやつね! ……え! アタシにもそんな名前つけてくれるの!?」
“始まりの男”みたいな二つ名……どんなの付けてくれたんだろ! 可愛いのが良いな〜。
「もう考えられてるぜ? 二つ名は運営スタッフが考えたやつだ! ちなみに俺の二つ名は……」
「【豪刃戦斧】やろ? 有名やん」
「ハハハ! 先に言われちまった!」
先に答えられたダライオスは、マロンの頭をガシガシ撫でながら豪快に笑っている。
「運営スタッフが付けたなら、運営から聞くもんじゃないの? なんでアンタが? 別にアンタからじゃなくても、メールで知らせたら良いのに」
そう呟くと、ダライオスは「バッカ野郎!」と、アタシに拳を震わせながら怒鳴った。
「そんな味気ない授かり方があるかよッ! こういうのは形式美なんだよ! そんなサラ〜っと流れるまま授けられるなんざ、つまんね〜じゃねぇかッ!!」
「た、確かに……」
「だ〜か〜ら! 俺が運営に頼み込んでお前に伝えることにしたんだよ! ここでな!」
ダライオスが観客席に振り返りながら手を広げると、空中に浮かぶカメラ型の魔具が数十台、アタシたちの近くに飛んできた。
「なに! なになに!?」
「ガハハハハ! なにって? そりゃ撮影に決まってんだろ! せっかくの晴れ舞台だ! フロンタイタス……いや、全大陸に向けた生中継だ!」
「全大陸ッ!?」
全大陸っていうと、共和国でしょ? 王国に帝国……あとはフロンタイタス!? うそぉぉ!?
「ギャラリーがいないと盛り上がりに欠けるだろ? だから俺が各テレビ局に声を掛けた!! 歓声はないが、充分だろ!」
「有難いような、迷惑なような……」
勝手に盛り上がるダライオスにアタシはポカンと呆れながらマロンとイデアを見る。
「テレビやて? ウチ、オシャレして来てないんやけど!」
「私もだよ! マロンお姉ちゃん!? てか私たち服これしかないよ!」
興奮したように手を繋ぎ合って飛び跳ねていた。
無名から有名になるんだもんね? そりゃ興奮もするよね〜。
ダライオスが辺りを見渡し、カメラをこちらに招くように手を動かして叫ぶ。
「舞台は整った! これよりフォルティナ・ロックスに二つ名を授けるッ!!」
取り敢えずここは真面目にしておこうとアタシはビシッと姿勢を正した。
こういうのは見た目が大事だと、昔両親から聞いた気がする!
ダライオスはうむ!と頷いて続ける。
「二つ名授与はメジャー閉会式で執り行われるのが恒例だが……生憎、激戦過ぎてお互いに倒れちまったからな! 今回は異例の形で行うぜ!」
カメラがダライオスとアタシの周りを回りながら撮影している。
「では! フォルティナ・ロックスに与えられる二つ名は!」
ゴクリ……アタシの二つ名は……?
「【破壊の鬼火】だ!」
「破壊の……鬼火……」
与えられた名は可愛くはないけど、良いじゃないの!
嬉しくなり思わず顔が緩んだ。
「【破壊の鬼火】、フォルティナ・ロックスは俺の体にドでかい傷を残す程の破壊力……まるで古の大魔獣【鬼】のごとき力! そして幾つもの逆境にも負けない燃え上がる闘志! 以上を踏まえた二つ名である! フォルティナ・ロックス! この名に恥じぬ闘争を誓うか?」
どうすれば良いか分からず辺りをキョロキョロしていると、小声で「誓うって言え」とダライオスが言ったのが聞こえた。
アタシは腰に手を当て、胸を張って答えた。
「うん! もちろん! この名に恥じないように戦うことを誓うわ!」
ダライオスが、ホッと安心したように息を吐いていた。
「では! 以上をもって第106回ソロ夏季シーズン! メジャーリーグの閉幕とするッ! この後はインタビュータイムだ! チャンネルはそのままにしとけよな!」
ダライオスの宣言と同時に、アタシたちの周りでカシャカシャと眩しいフラッシュが焚かれた。
すっごく眩しかったけど、悪い気はしない。
フォルティナはダライオスに並んでしばらくカメラに向かい、ピースサインをしてみせた。
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二つ名授与の後も、契約企業アピールの時間を取ってくれ、30分ほどで撮影を終えた。
「いや〜! お疲れお疲れ〜! バッチシ決まったな!」
ダライオスが満足そうにパチパチと拍手していた。
初めて見たときも思ったけど、ダライオスって目立つことが好きみたいだ。
「ありがとうね? マロンとイデアの紹介もしてくれて?」
ダライオスは、アタシへのインタビュー時間に〈ガンテツ〉の話を振ってくれていた。
そのおかげで〈ガンテツ〉の宣伝にもなったのだ。
「気にするな! これも恒例だからな。これでお前らも忙しくなるな?」
ダライオスがマロンとイデアにそう話すが……。
「あ〜……チャンピオンの心遣いには感謝しとるんやけど……」
「どうした? 何か不満があったか?」
「いやな? 工房なんやけど……爆発で無くなってもうてな……」
「実質倒産……いえ、爆産ですね?」
「なにぃぃぃ!! 何があったんだ!」
あ〜……そういやあの事件って警察もなかなか動かなかったし、表沙汰になってないのよね……知らないはずだわ。
「詳しいことを説明するとね〜?」
そこからは、ダライオスに準決勝の前に間に起こった事件のすべてを説明した。
時々、ダライオスが足で地面を踏み砕いて怒りを露わにし、マロンとイデアを震わせていた……なんとかダライオスを宥めることはできたけど、そういえばガードナー社どうなったんだろ?
そんなことを考えながら、ダライオスに説明していると時間は夕方になっていた。
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