第8話 魔術師代理の日常
魔剣を託され、エレナと共犯となり魔術師代理となったこの俺……ジーク・ヴァールハイト。
しかし俺はその前に学生である。故に、今日も今日とて学園に通い、学生の本分である勉学に励まねばならないのだ。
いつも通り通学路を行く。周りを見ると、生徒達は気怠げだったり、友と楽しそうに話しているのが見える。
和気藹々とした通学風景。まさに平和そのもの。だが俺は知っている。そんな日常は直ぐに崩れ去る薄氷の上にあるのだと。
そこに突如激しい音が鳴り響く。家屋が瓦礫となり崩れ落ちる音、生徒達の悲鳴。
「グオオオオっ!」
そして、魔物の唸り声だ。
その方向に視線を向けると、蜘蛛のような多足の魔物。しかも、その近くには腰を抜かした女生徒が居る。
いつかの光景が俺の脳裏を過ぎる。その瞬間、指輪を取り出し装着する。そして意志を込めると、その身が裏地が赤い黒マントをつけた黒衣に変身する。
その腰には指輪と同じ青い宝石が埋め込まれた魔剣。
そうしている内に魔物は女生徒に爪のように鋭い足を振り上げる。女生徒は悲鳴をあげる事も出来ず、ただ目を閉じる事しか出来ない。
「させるかよ」
ジークは強く地面を蹴り飛び出す。そして、抜き放ったその剣で魔物の爪を斬り裂いた。爪は宙を舞い、地面に激しい音を立てて落ちる。
女生徒はその音に体を跳ねさせる。そしていつまで経っても予期した痛みが来ず、目を開き……目の前の背中を見て驚愕する。
「えっ?あ、貴方は……?」
「魔術師代理」
俺は振り返り、安心させるように笑顔を向ける。
そう言う背後では、立ち止まった生徒達が口々に声を上げるのが聞こえる。
「お、おいアレ……ジークじゃねぇか!?」
「はあ!?あのマナ無しが何しに!?」
「魔術師気取りか?」
「でもさっき足切って無かった?」
「いやいや、地面に爪が当たって勝手に折れたんでしょ……変なカッコしてるけどマナ無しに何ができるってんだ?」
相変わらずオレへの言葉は辛辣だ。だがそんな言葉はどうでもいい。
「えと……ホントにあのジーク、くん?」
「さあな。でも安心しろ。直ぐに終わらせる」
女生徒にそう言って飛び出し、痛みに泣き叫ぶ魔物に迫る。魔物はその身を大きく持ち上げ、俺をを踏み潰す……或いはその足で刺し貫く気でいる。
だが飛び出した俺はそうなる前に顔面を斬り裂いた。魔物は悲鳴をあげる間もなくその体を綻ばせていく。
剣を鞘に収めた時にはその姿は無かった。
「嘘だろ……ジークが魔物を!?」
「んな馬鹿な……!」
「た、他人の空似だろ……?」
観衆の生徒達は信じられないというように目を見開いている。
腰が抜けていた女生徒も同じだ。俺はは彼女の体を見回し、怪我が無いことを確認して安心する。
「多分すぐ魔術師が来てくれる。じゃあな」
「あっ……うん。ありがと、ジークくん」
「どういたしまして」
礼を受けた俺はその屋根に飛び乗ってその場から姿を消すのだった。
暫くして、ローブや三角帽子を身につけた男女数人の魔術師達が到着するのが見えた。
今物陰から伺っているが、その場を離れて正解だったな。
「現着。でも魔物の反応が無い?」
「少しですが魔力残ってますね。でも消滅反応の残滓です」
「誰かが倒したってのか……?俺らより先行した魔術師がいたのか?誰だ?」
「そこはほら、話し聞きましょうよ」
魔術師達は周辺の生徒らへ聞き込みをする。だが誰かに助けられたと言うばかりで、それ誰かの詳細は分からなかった。
「十中八九魔術師ですよね」
「ああ、だが誰かってのが分からない。助けられた女生徒の証言も曖昧でしたし」
「どう見ます?リーダー」
1番若そうな男性が爽やかな雰囲気のリーダーの男性へ問いかける。リーダーは顎に手を当てて思考する。
認識阻害の魔術か魔道具を使った線が濃い。だが何故わざわざそんな事を?通りがかりの在野の魔術師が、地元の魔術師との衝突を避ける為……ならまだ有り得るか。
「まあ在野の魔術師だろう。何はともあれ、我々が来る前に被害が出ていた可能性がある。その魔術師に感謝しないとな」
「そんなテキトーでいいんスかねぇ?」
「ハハハ。心配性だな。取り敢えず建物の修繕手続きを。周辺には結界を張って保護しろ。いつもの手筈通りに」
リーダーの指示に一斉に返事をする部下の魔術師達。
フゥ……何とかバレなかったな。
息をつき、胸ポケットの中の護符を眺める。それはエレナがくれたものだ。その時の事を回想する。
「いい?これはあんたが持つ魔剣の魔力に反応して効果を発揮する」
「認識阻害の魔術が込められてるんだろ?」
「ええ。一般人ならあんたを見てもすぐに忘れるわ。魔術師は……まあ人によるけど。だからアンデッド以外はそっちに任せるのも手よ」
「分かった」
エレナの言葉に深く頷いた。
「どうせあんたの事だから、人が危なくなると飛び出すんでしょうけど」
「うっ……!」
痛い所を突かれた。エレナはこの短期間で俺の性格を見抜いていたのだ。
「まあ、度を越したお人好しなのは魔剣を託した時から知ってるけどね。バレないように上手くやりなさい」
「ああ、そうする」
そして今に至る。
「もうちょい落ち着いてから登校するか」
こうして俺は密かに魔術師代理として、魔物やアンデッドから町を守る日々を送るのであった。
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