第6話 エレナの家
俺……ジーク・ヴァールハイトはエレナに連れられて彼女の家を訪れた。町外れにあるが、モダンな一軒家の立派な建物だ。
そういえば、同い年の奴の家に来るの初めてか……。
マナの無い俺と仲良くする人は今まで居なかった。いや、ユウカは居るけど……ハイト屋に住まわせて貰ったら偶然クラスメイトだっただけで……。
それまで俺は人生で一度も友達が出来たことがなかった。だから、こうして家に招かれる事も新鮮であった。
「ここがエレナの家か」
「そうよ。適当にかけてなさい」
中に入ると、ほのかに甘い香りが俺の鼻腔をくすぐる。そのままリビングに通された俺はテーブルの席に着く。エレナは隣接したキッチンで湯を沸かし、その間俺は部屋を軽く見回した。
「外からも思ったけど、中までオシャレな家だな。さすが魔術師って感じ」
「別に、あたしが整えたんだから当たり前でしょ」
少し得意げに返すエレナ。ご機嫌なのは目に見えて分かり、鼻歌なんかも歌っている。暫くして紅茶が運ばれてきた。
「ありがとう。いただきます」
「……あーあ、飲んじゃったわね」
「えっ!?」
エレナの言葉に驚愕し、口にした紅茶のカップを落としそうになる。彼女はその様子をクスクスと笑う。
「冗談よ。でも、これに懲りたら魔術師の家に行く時は警戒しなさい」
「ど、どういう事だよ……」
「魔術師は魔術を日々研究をする専門家よ。その家は言わば研究所。その魔術師の持つ叡智が全て詰まってると言ってもいいわ。そんな場所に何も無いと思ってる?」
「罠とかあんのか」
「そうよ。今日のあんたは丸腰で魔物の巣に入ったようなもの。人を直ぐ信用するのはいいけど、相手が嘘をついてないかちゃんと警戒しなさいよ」
エレナから魔術素人の俺へ向けての忠告だ。
「ありがとな。気をつける」
「そう、素直なのね。あたしと違って……」
「それはそうかもな」
「ぐっ……!自分で言っておいてなんだけどムカつくわ」
「ええ……?」
エレナの物言いに困惑する。そんなやり取りはさておき、本題に入る。
「さて、それじゃあ本題ね。指輪出しなさい」
「魔剣のアレね」
ジークは懐から取り出した青い水晶が着いた指輪をテーブルに置く。それを手に取りマジマジと見つめるエレナ。
「当たり前だけど、やっぱあんたの指に合うようになったわね」
「あ、たしかに。同じ見た目の指輪だけど、エレナと俺じゃピッタリハマる訳無いもんな」
エレナの細い指とジークの太い指では差がありすぎてどうあがいても合わない。だが何故そのように変化したのか。それは決まっている。
「そりゃそうよ。あんたはもう魔剣と契約し、それを継承したんだから」
昨夜、俺はエレナの血と魔剣の刃を心臓に受け止めた。それによって魔剣の力を振えるようになったのだ。
「だから私は魔術師であっても、もう魔剣使いじゃない。けどそれが問題なの。分かるかしら?」
「アンデッドってやつに勝つ為に魔剣の力を借りたから。そりゃ返さねぇとって事だろ?」
俺の言葉に頷くエレナ。借りたものは返さねばならない。常識だ。
「じゃあこのまま指輪返せばいいのか?」
「いいえ、そんな単純じゃないのよ。魔剣を継承させるのは」
エレナは首を振り、真剣な眼差しで述べる。
「それを今から説明するわ」
壁に立てかけられている黒板にチョークで図を書く。人型2つと異形の人型、そして剣。なんとも言えない可愛らしいタッチで描かれている。
「右があんた。左が私ね。そしてこれが魔剣。それと、不死者ね」
「昨日の図ね」
そう、昨日の夜の事を現しているのだ。
「あたしは魔剣をあんたに託した。そしてそのままあんたはアンデッドを倒した」
「後は魔剣を返すだけ。でも問題があると」
「ええ。魔剣を返す為には私がしたような手順を追う必要があるわ」
「血と魔剣の刃を心臓に受ける?」
肯定するように頷くエレナ。
「なら簡単じゃん。早速……」
「最後まで聞きなさい」
ピシャリと俺の言葉を否定し、エレナは話を続ける。
「継承には血と魔剣が必要って言ったわよね?その魔剣には私の魔力が染み付いていた。託す意思をその魔力に込める事で繋がりを作るの。そうして初めてあんたは誰かに魔剣を託せるのよ」
「魔力……あれ?それって……」
俺はエレナが懸念する問題に気がついた。
「俺、別に魔力が使えるようになった訳じゃない……よな?」
「そうね。ジーク、あんたが昨日使ったのは魔剣の魔力。決してあんたのじゃない」
「って事は、魔剣に染み込む筈の魔力が無い……」
俺の言葉に頷くエレナ。
つまり、エレナの魔剣→俺の魔剣にする事は出来たが、その逆にするには俺自身の魔力が必要。しかし俺は魔力が使えない。
「あんた自身の魔力が無いとこの方法は使えないわ」
「マジか……じゃあ一生魔剣借りパクって事かよ!?どうすんだ!?」
「そんな事させてたまるもんですか!ちゃんと考えてるわよ!」
焦る俺を怒鳴りつけるエレナ。策はあると言う。
「いい?あんたに魔力が使えなくても、魔剣の魔力をあんたに慣れさせる。そうすれば意思を込められる……かもしれない」
「かもしれない?」
「あたしもこんな事初めてだからよ。死にかけてなかったら、あんたみたいな魔力無しに魔剣を託そうなんて思わなかったわ」
溜息をつくエレナ。
それはそうだ。自分がその立場でも、ここまでリスクが高い事は最終手段にしただろう。
「悪いな。エレナ」
「な、なんで謝るのよ……!これは私が未熟だったが故に招いた結果よ。あんたに謝られる筋合いは無いわ」
「そうか……でも、足でまといの俺が居たからエレナの集中を削いでたかもしれない。だから、俺にも責任はある」
「ジーク……」
俺の言葉に目を見開き驚いているエレナ。さんな変なこと言ったかな?
「な、なによこいつ……あたしの責任って言ってるのに、わざわざ自分が悪いとか言うなんて……お人好し過ぎない?ああもう!本音かどうかわかんない!なんで感情読めないのよ!普段嫌ってぐらいなのに、肝心な時は使えない……!」
1人ボソボソと頭を抱え悶えるエレナ。俺はその奇行に固まっている。その事に気がついたエレナは顔を赤くしていく。
「こ、コホン……!なんでもないわ。忘れなさい」
「いやでも……」
「忘れなさいっての!」
「……はい」
圧に押されて俺は従うしかなかったのであった。
「さて、次は不死者の事ね」
エレナはまた図を書き直す。書いたのはアンデッドに剣を構えた人型。
「まず、不死者は魔剣かそれに相当する強力な魔術の力が無いと倒せない。しかも他の魔物と違って平気で結界張られた町に現れる。故に、魔剣使いはそれぞれ担当地区を割り振られ、そこに現れるアンデッドの対応をするわ」
「なるほど」
「じゃあ次、そもそもアンデッドとはなにか……よ」
アンデッドの横に小さな犬のようなものを書くエレナ。これまたどこか可愛らしい。
「なんだその犬?」
「い、犬じゃないわ!魔物よ!……コホン。アンデッドは魔物の上位種。つまりこの仲間よ」
「それも言ってたな」
昨日の事を頭の中で回想しながら説明に相槌を打つ。
「それらの魔物は異世界……『不死世』と呼ばれる世界から現れるのよ」
「不死世?」
「そう。この世には私達が住む『現世』、魔物が住む『不死世』、そして死んだ魂が行き着く死後の世界……『常世』があるわ」
アンデッドと魔物、魔剣を持った人をそれぞれ丸で囲み、3つの世界を現した。そして常世には人魂っぽいものが書き足される。
「『不死世』には魔素という魔力の……汚い版が満ちてるの」
「汚いて」
「い、いいでしょ!不浄って言いたかったの!聞き流しなさい!」
思わず口を出た俺のツッコミにエレナは恥ずかしそうに怒る。これ以上怒らせたら説明どころでは無い。そう考えてジークはエレナに従う事にするのであった。
「その魔素が魔物やアンデッドの体を作る。でも魔物達には心が無いわ。そして自分に無いものを欲する。つまり、心を欲して本能のままに人を襲うのよ」
「そしてそれと戦うのが魔剣使いの魔術師」
「ええ、そうよ」
魔術師は魔術の専門家にして戦闘職。軍にも対処出来ない強い魔物を倒して人々を守る代わりに、様々な特権を持っている。国の政治や法律にも口が出せる程……と言えば理解が早いだろう。
因みに魔術師はなりたい職業1位として毎年話題になっている。俺は関係ないと思っていたが、なんの因果か……魔術師となった。
「つまり……これから俺は魔術師として働けばいいんだな」
「そういう事よ。但しあたしの代理としてね」
こうして俺はエレナによってこれからの道筋が示されるのであった。
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