第3話 高飛車金髪少女エレナ
食事を終えた俺は2階の自室に戻り着替えを済ませる。外に出る準備である。そうして廊下に出た時、ばったりとユウカと出会った。
驚きのあまりユウカは銀髪を揺らし、琥珀の瞳をやや大きく見開く。
「ジークくん、今日もジョギングですか?」
「おう、日課だからな」
「そうですか、気をつけて行ってらっしゃい」
琥珀の瞳を細めて微笑むユウカ。それに見送られてやや肌寒い外に出る。このように、俺は体力作りの為に1時間はジョギングするのが日課となっていた。
走れば温まるので走りやすさ重視の軽装でも平気だ。
冒険者となる為、魔術が使えなくともできることを伸ばす。いつも考えている事だ。
無いものを嘆いても仕方ねぇ。なら、今の俺のできることをやるだけだ。
このように、努力家で見ていて気持ちの良い気質が好ましい……なんて言われた事もある。勿論、魔力が使えない為色眼鏡で見て来る輩の数の方が多い。
それでも、自分を嫌う人より好いてくれる人に目を向けていたい。
そうして今日も慣れたコースを走るのであった。
「なんだ……?」
そんな中、違和感に気がつく。いつもと同じ道を行っている筈なのに、何かが違うと感じていた。
空気……か?
ジメッとした陰鬱な空気。それを感じ取っていたのだ。その時、曲がり角を曲がった瞬間……。
「は?」
空からローブをなびかせた金髪の少女が落ちてきた。俺はそれに押しつぶされるように倒れ伏す。
「いてて……!な、なんだってんだ……?」
困惑しながらの痛みに顔をしかめる。目を開けると、腰まで伸ばした輝くような金糸、白くきめ細やかな肌を密着させた少女が見えた。柔らかい感触もあるが、後頭部をぶつけた痛みの方が勝る。
そして少女も同じように痛みに悶えている。やがて痛みが引いてきたのか顔を上げる。つり目にも関わらず、更にその碧眼をつり上げて睨んでくる。
「もう!どこ突っ立ってんのよ!」
「落ちてきた方に言われたくないけど!?」
至極当然のツッコミを返す。だが少女はそれにも噛み付くように返す。
「うっさいわね!着地地点にいる方が悪いでしょ!」
「いやいやいや!それはおかしいだろ!?てかなんで上から来たんだよ……」
「そ、それは……えーと、そう!屋根を走っちゃう程急いでたの!」
「えぇ……!?てか重いんだが……」
「重っ!?女の子に重いとか言うなバカ!アホ!って、こんな事してる場合じゃないのよあたしは!」
一通り理不尽な物言いをした後、何かを思い出した少女は立ち上がってその場を走り去る。
「な、なんだったんだ……」
その背を見送り、1人呟くのであった。
「ったく、なんだったのよあいつは……」
金髪の少女もまた走りながら同じ事を言っている。
「まあいいわ。どうせもう会うことも……」
「なぁ?なんかここら辺おかしくねぇか?」
「ひゃああああっ!?」
俺は追いついて声をかけた。すると金髪の少女は飛び上がらんばかりに驚愕して足を止める。
「そんな驚く事ねぇだろ」
「お、驚くわよバカ!ていうかなんで着いてきてるのよ!」
「いや、ここ俺のジョギングコース。ついでになんで落ちて来たのか聞きたくて。あと、重いって言ってすまん」
そう言って頭を下げる。それに戸惑う声が聞こえる。
「な、何よ急に……べ、別にいいわよ。あたしも……急いでたとはいえ、ごめんなさい」
少女も俺と同じように頭を下げる。どうやら悪いとは思っていたようだ。
「俺ももう気にしてない。悪いな。俺、ついつい思った事が口に出るんだ」
「あっそ。てかあんた何なのよ。無駄に足速いしそれに……」
そう言いかけて少女は口をつぐむ。
「ん?ああ、名前か。俺はジーク・ヴァールハイト」
「あたしはエレナ・ライアよ」
名を名乗る金髪の少女……もといエレナ。そして何故かジロリと俺の全身を眺めて行く。
「見たところ一般人……それも魔力が使えないようね。今時珍しい」
「なんで分かるんだよ?」
「そりゃ魔力を纏ってないからよ。魔力なんて纏ってるだけで身体能力が上がるんだから、走るのに使わない方がおかしいもの」
魔力は心臓から生み出して纏っているだけで身体能力を上げる……とは聞いたことがある。ああ、そのお陰でエレナは軽快な走りをしてたのか。
そんな事より、さっきの疑問だ。
「話戻るけどさ、なんか今日おかしくねぇか?なんか空気重いって言うか、ジメッとしてるっていうか……」
その俺の言葉に、驚いていたエレナの雰囲気が変わる。
「あんた、分かるの?」
「え?あ、ああ……そうだけど?」
突然エレナの声が低く、真剣な声色に変わった事に面食らう。なにか気に触ったのかと思い、謝ろうとする。しかしそうでは無いようだ。
「なら、もう帰りなさい。今日は出る日だから」
「出るって?お化け?」
「あながち間違ってないわ。だから……」
その時、俺にも分かるくらい重苦しい嫌な気配がした。それはエレナの背後から。
共に視線を向けると、そこには異常に白い肌、黒く染まった眼球に翡翠の瞳をした、巨大な怪物が佇んでいた。その身には、魔力に似ているがどす黒い緑の粒子を纏っている。
「な、なんだこいつ……!?」
「不死者!」
驚くのも束の間、怪物はその巨大な手を振りかぶった。俺は反射的に目をつぶる。すると激しい衝撃が来る。
「……っ!」
「もう!なんでこんな事に……!」
俺が目を開けた時には怪物から距離が離れていた。エレナがジークを引っ張り、怪物の手から逃れたのだ。
さっきまでいた場所は地面が砕け、土煙が舞っている。
「あ、ありがとう……てかあいつはなんなんだ!?魔物か!?」
「あれは不死者よ」
「アン、デッド……?」
聞き馴染みのない言葉だった。するとエレナは簡単に説明してくれる。
「魔物の中で最上位の怪物よ。あんたは下がってなさい」
そう言ってエレナは金髪をなびかせ前に出る。まさか戦う気ではないか?そう思い俺は止めに入る。だがエレナは毅然として返す。
「安心なさい。私は魔力がないあんたとは違う。魔術が使えるだけのそこらの奴ともね。だって私は魔術師。それも最上位の魔術の結晶、最強の剣……『魔剣』に選ばれたエリートなんだから」
魔術師と名乗ったエレナは手袋を外し、右手を露出する。その中指には青い宝石が着いた指輪がはめられていた。
「魔剣よ。来なさい」
そう呟くと指輪が青白く輝く魔力となり、やがてその腰に青い宝石が埋め込まれた剣が現れる。
それを抜き放ち、両手で構え……真っ直ぐアンデッドを見据えるエレナ。彼女からも魔力が漲り、辺りの空気をビリビリと震えさせる。
それを感じ取り、俺は圧倒されていた。怪物は先程よりも敵意を露わにして叫ぶ。
「うるさいわね。こんな夜中に迷惑よ。だから……殺してあげる」
エレナはスカートをはためかせ、アンデッドへ向けて一直線に走る。アンデッドはまた巨大な手を振りかぶるが、彼女はそれをヒラリと躱してしまう。
そして腕を駆け上り、大きく跳躍した。
月を背にした彼女は宙返りし、重力を乗せた刃でアンデッドを真っ二つにしてしまうのだった。
その華麗な姿に……俺は見蕩れるのであった。
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