最終話 これからも日々は続く
「ふぁ……」
俺は眠気を欠伸として吐き出しながら1階に降りる。階段を降りる音で気がついたハイトさんとカエデさん。姿勢を正し、俺はその2人に挨拶をする。
「おはようございます」
「おう、おはようジーク」
「おはようジークちゃん。昨日のまかないの残りだけどご飯あるわよ」
「ありがとうございます。いただきます」
昨日食べたのと同じだが、ワインビーフピラフを受け取る。そして席につくと、ちょうどユウカも起きてきたようだ。
相変わらず銀髪に寝癖がピョコンと立っている。可愛らしいからまるで欠点にはならないが。
「おはようユウカ」
「ジークくん、おはようございます」
柔らかく微笑み、席に着くユウカ。そこにカエデさんが俺と同じ朝食を持ってくる。
2人で手を合わせ、ご飯を口にするのであった。
日常を感じるこの時間が心地よい。
食事の最中、ユウカが語りかけてくる。
「あの、ジークくん。シュウさんはどうしてますか?」
ユウカの口からシュウの名が出てくる。後から聞いた話だが、シュウが勧誘していた光魔術の使い手にユウカが含まれていたのだ。
天師の境遇には同情したし、自分が天師という特別な力を持つ者の末裔という事には胸が高鳴ったようだ。
だが戦いを好まないユウカは返事を保留にしていたらしい。
その後、俺らとシュウは出会った。
その時はまさか、文通をする仲になるとは思わなかったが。
今現在のシュウはというと……。
「暫くは国外を旅して廻るらしい。この国に居て人を助けるのもいいけど、魔術師の仕事を取っちまうからな」
この国の町全域の防衛は魔術師の管轄だ。それを横取りするのは要らぬ軋轢を産む。だから国外に……ということだ。
「その中で人助けもしてるみたいだ。それで少しずつ天師の力……光魔術にはアンデッドに喰われた人の心を救うって言うのを広めてるらしい」
俺の手を取り、新たに誰かの為に生きると決めたシュウ。あいつはその通りに生きている。
「そうなんですね……でも、良かったです。また魔術師と天師が争うような事にならなくて。これもジークくんのお陰ですね」
「そうか?」
「そうです♪」
選択したのはシュウだ。だから俺はその手助けをしただけだが……まあユウカが言うなら、そういう事にしておこう。
朝食を終えた俺は、2階の自室に戻って出かける準備をする。
今日は楽しみな事があるので胸が高鳴っているのは自分でも分かった。
ドアを開けると、ユウカが居た。
「今日もエレナさんのお家……ですか?」
「ああ。そうだけど……どした?」
「いえ……」
ユウカはそのまま黙り込んでしまった。何が言いたいことがあるのだと思い、俺は次の言葉をジッと待つ。すると突然、顔を上げて声を張る。
「あの……!今度のお休み、私ともお出かけしてください!」
何かと思えば、そんな簡単な事か。
俺はちょっと呆れたように笑う。
「分かった。約束だ」
「本当ですか!?」
「ああ」
俺が了承すると、ユウカの表情がパアッと明るくなる。
「んじゃ行くな」
「はい、気をつけて行ってらっしゃい♪」
ご機嫌な様子のユウカに見送られ、俺はエレナの家へ向かうのであった。
慣れた道を進みとオシャレな家の前に少女が居た。
整った美しい金髪。その先を指に巻いて遊んでいるのはエレナだ。
「おはようエレナ」
「おはようジーク。いらっしゃい」
挨拶をすると、エレナは柔らかく微笑み出迎えてくれる。
「お邪魔します。ってか、中で待ってて良かったのに」
「べ、別にあんたの為に外で待ってた訳じゃないし!」
「いやそこまで言ってないけど!?」
数秒前から一転し、顔を赤くしてプンプン怒るエレナ。驚愕の声を上げるが、これも正直慣れたものだ。
「単に陽の光浴びてただけ!ずっと地下でいると陰気になっちゃうから、直接浴びてたのよ!」
「はいはい、分かった分かった」
「ちょっと!ホントに分かってる!?」
憤慨するエレナをほっておいて家に入る。
そうして今日の本題に入る。
「はい。それじゃあサインしなさい」
そう言ってエレナが巻物……所謂スクロールを出してくる。その内容は、国家公認魔術師エレナが署名者を正式に弟子にする……という内容だ。
「ほら、ちゃっちゃとサインしなさい」
「ああ、そうする」
俺は筆ペンにインクを付けて名前を書き綴った。だがそれだけでは終わらない。
「OK。じゃあ最後。ちょっと痛むわよ?」
そう言って俺の親指の腹にナイフを当てるエレナ。血が流れ、少しジンジンする。だがこれぐらいどうって事は無い。
そして俺は促されるまま血印を押した。
「はい、これであんたはあたしの弟子よ」
エレナが親指を癒してくれる。魔術師にとって血は重大な力を持つ。だから魔術師同士よ約束は血印が必須になっている。そして俺はエレナの弟子になった。
「ありがとう、エレナ」
「別に、元からこうするつもりだったんだから。ああそれと、見てもらいたいものがあるわ」
そう言ってエレナは布に包まれた棒状のモノを手渡した。
「これは?」
「開けてみなさい」
俺は言われた通りに布を取った。すると、黒い宝石が埋め込まれた鈍色の剣が姿を現した。
「これってまさか……!」
「ええ、魔剣よ。それもあたしが作ったやつ」
俺は驚きのあまり大きく目を見開く。そして魔剣を柄から鋒まで眺めていく。
手にしていると分かるが、この状態でも強大な力を感じる。
「確かに魔剣だ……けど、魔剣って作るのかなり難しかったんじゃ?」
シュウと戦っていた時にエレナが言っていた。膨大な魔力と超がつく程の技術が必要だと……。
「ええ、そうよ。だからあたしはこの1ヶ月間頑張ったの」
この1ヶ月間、エレナは自分から俺の前に姿を表さなかった。そしてエレナの家を訪れても、忙しいからアンデッド退治も俺だけでやってくれ……そう頼まれていた。
何か大切なことをしているとは思ってたけど、それは全てこの魔剣を作る為だったらしい。
「あたしからあんたへの……弟子入り祝いよ」
「俺に……?」
俺の言葉にエレナは力強く頷く。
「ほら、魔剣は約束通りちゃんと返して貰ったでしょ?」
「ああ。予想外の返し方になっちまったけど」
シュウと戦った時、俺は一度死んだことになったらしい。
「お主は一度死んだ。だが竜の力に目覚め、心臓が竜の炉心に変質した事で蘇ったのだ」
その日の晩、夢で会ったファフニールに聞くとそう言われた。
「だから魔剣の契約も切れて、あたしが再契約できるようになった。けどあたしはこう考えてた。あんたが魔剣を返した時……あんたはまたマナが無い人間に戻る。また無力を噛み締めて生きる日々に逆戻りするって。でもそのままになんてさせたくなかった」
「え?」
俺はエレナの言葉に驚く。まさかそんな事を思ってたなんて、予想だにしていなかったから。
「どれだけ時間がかかったっていい。いつか……あたしが作った魔剣をあげる。そして正式な弟子にしてやるってね。まあこれを作る前に自分で魔剣作っちゃったけど」
「それは……そうだな」
シュウとの戦いでその時は必要だったから、竜の力で自ら魔剣を作った。
「でも、受け取りなさい。受け取らないとこれで殺すわ」
「怖っ!」
脅しに思わず後退ってしまう。だが直ぐにエレナはクスクスと笑う。
「冗談よ。いらないならそれはそれでいいわ」
「まっさか。エレナが俺の為に頑張って作ってくれたんだ。そりゃ受け取るさ。ありがとう、エレナ」
「ど、どういたしまして」
俺は剣を受け取って感謝を述べる。エレナはその言葉を顔を赤くしながら受け取るのだった。
「魔剣の契約は、あんたに託した時と同じ事をすればいいわ。こっちは成功一択だから安心しなさい」
俺はその言葉に頷き、刃を手に取る。手に痛みが走り血が垂れるが構わない。俺はそのまま心臓に刃を突き立てた。
すると、剣は眩く輝き……やがて青の宝石が埋め込まれた金色の指輪になった。
「これで、その魔剣もあんたのものよ」
「ああ。来い……『カリバーン』」
名を唱えると、指輪は青の宝石が埋め込まれた金色の剣となった。
「なんか……エレナみたいに綺麗だな」
「は、はぁ!?どういうことよ!?」
思った言葉を口にしただけだが、エレナはまた顔を赤くする。
「そのまんまだよ。輝くような金色の髪、引き込まれるような碧眼みたいだろ?」
「そ、そう……?まあ、悪い気はしないわね……!」
耳まで赤くしているが、満更でもなさそうで良かった。
俺は剣を指輪に戻すと、1つ思い出したことがあった。
「そういやエレナ。俺があげた指輪どうしたんだ?」
魔剣を返せない間、魔剣の指輪の後を寂しそうになぞっていたので代わりの指輪をプレゼントした。だが魔剣を返した事で、今その指には魔剣の指輪しかハマっていない。
「安心なさい。ちゃんと持ってるわよ」
そう言ってネックレスのチェーンを引き出す。すると、俺があげたサファイアの指輪が通されていた。
「そうやって、ずっと持っててくれたんだな」
「あんたが初めてくれたものだから……ね」
指輪を手に乗せて、どこか愛おしそうに微笑むエレナ。魔剣には劣ると思ってたから、気に入ってくれて良かった。それだけで俺は嬉しい。
自然と俺も口角が上がる。
すると、魔剣の指輪が淡く輝く。それはアンデッド出現のアラート。
俺とエレナは目を合わせ、強く頷き合う。急いで家の外に飛び出す。
「来なさい『エクカリバー』」
エレナがそう呟くと、指輪は輝き、その手に青き宝石が埋め込まれた銀色の剣が現れる。
「来い、『バルムンク』」
俺がそう言うと、赤い宝石が埋め込まれた黒の指輪が輝く。
すると服が黒衣に変化し、裏地が赤い黒マントを羽織る。そして指輪は竜の意匠が入った大剣となった。
「んでこっちもだ。来い、『カリバーン』」
左手にはめた青い宝石と金色の指輪。それは黄金の剣となり、左手に現れる。
「二刀流の魔剣士ね。似合ってるわよ」
「おう、ありがとう」
「さあ、アンデッド狩りよ。ジーク」
「ああ、行こうぜエレナ。人を助けに」
こうして俺達は正式な師弟となり、魔剣を手にして今日も人を助けるのであった。
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