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第31話 和解

 土煙が辺りに包まれる。そして、さっきまでの轟音が鳴り響いたのが嘘のように、辺りは静寂に包まれていた。


 立ち尽くした俺に、エレナは駆け寄ってくる。

 

「ジーク……終わったの?」

「ああ」


 俺はそれに頷き、微笑む。

 

「まだ、だ!」


 だが、そこにシュウの声が響く。辺りを包んでいた土煙が晴れ、その姿が見える。


 息も絶え絶えであり、時折血を吐き出す。聖剣を杖のようにつき、立っているのもやっとのようだった。


「まだ、何も終わっていない。いや、始まってすらいない!天師の、聖戦は……!」


 シュウはまだ諦めていない。その執念に俺とエレナは絶句してしまう。


 それでも……このままやったら、ホントにこいつは死んじまう。


 それは嫌だ。俺は人を救う為に魔剣を取った。魔剣を生み出したのもそうだ。だから、その力で人を殺すなんて選択肢……ありえない。


 だから、俺は説得することにした。 


「なあ、聖戦をしたとして……ほんとにお前の望んだ通りになるのか?」

「なに……?」


 シュウは痛みに顔をしかめながら俺を睨む。


「お前の目的はなんだ?」

「何を今更……!私は天師の末裔として、魔術師の欺瞞に満ちた世界を暴き、その正しさを人々に証明する!その為に……魔術師を倒す必要があるんだ!」


 フラフラの体で聖剣を構えるシュウ。だが俺は説得する口を止めない。


「魔術師を倒す必要なんかねぇじゃねぇか」

「は?」

「だって魔術師を倒して、扇動した光魔術の使い手を率いて聖戦をしたとして……ホントに天師の正しさが伝わるのか?」

「っ!?」


 俺は固まったシュウに続ける。


「聖戦って言ってるけど、結局は人と人との戦いだ。その間や戦いが終わった後、魔術師が減ってアンデッドに襲われる人はどうなる?残った天師の末裔達だけで人を守れるのか?」

「そ、それは……!そもそもお前達魔術師が我々から光魔術を奪ったから!」

「そんな話じゃねぇ!アンデッドから人を救うのが天師じゃねぇのかよ!アンデッドに喰われた心は後で救えるから、今生きてる人を見殺しにすんのかって聞いてんだよ!」

「あっ……!」


 シュウは目を見開く。俺の言葉を考えてもみなかったようにも見える。


 戦争で戦ってる間に人はアンデッドに襲われる。助けられるのは魔術師と天師だけなのに……その2つが争ってたら犠牲が増えるだけだ。


 シュウは顔を伏せる。きっと、己の行動を見つめ直しているのだろう。


 暫くして、シュウはポツリポツリと言葉を紡ぐ。


「私は……天師の歴史を記した古文書を見て義憤に駆られた。天師へ行った大罪を隠し、のうのうと特権を享受する……そんな非道な魔術師を許せなかった。だから断罪してやる。そればかり考えていた。憎しみで……目が眩んでいた」


 それは紛れもなく魔術師の罪だと思う。それ程まで、天師へ行った所業は凄惨なものだった。

 

「そして天師としても、間違えた。アンデッドに喰われた人の心を救う事しか頭になかった。そもそも、最初から……生きている人を救う為に戦っていた筈なのに……」

「それはあんただけじゃないでしょ」


 横で聞いていたエレナが声をかける。


「だって、生きてる人か喰われた人の心を救うか……魔術師も天師もそう考えてた筈。それなのに……争ったんだもの」


 エレナの言う通り、互いに人を救いたい一心だったのに、魔術師と天師は戦ってしまった。その間に憎しみばかり育ってしまった。


「だから、本質を見失ってたのは先祖達も同じよ」

「そうだな。だから……俺達は違う方法を目指さなきゃならねぇ……と思う」

「だが、どうすれば……」

 

 シュウが答えを出せないのも仕方がないだろう。今までずっと憎しみに振り回されていたから。


 そして俺もこれが正解だとは思わない。けど、先ずは示さなければならない。


 みんながいい方に進むと思う方法を。


「魔術師と天師、もう一度手を取るんだ」

「もう、一度……?」

「そうだ。そして人を救う。只管に」


 魔術師が特権を享受できているのは、ひとえに魔物やアンデッドから人を救っている実績があるからだ。


 罪を隠していた部分はあるが、それでも救われた人はいる。


「だから、人を救って、人から信頼されよう。そうすりゃ天師の考えだって、きっと理解される」

「だが……そう簡単に人は変わるのか?」


 人を救うだけで、今まで闇に葬られた天師の考えが理解されるのか。それが不安なのだろう。

 

「変わるさ。きっと。だって俺も今まで魔力無しだったしな」

「え?」

「本当よ。こいつは魔力が無いから、そりゃもう蔑まれてたわよ」

「そう、なのか……」


 エレナが肯定したことでシュウも信じる。だが大事なのはそこじゃない。


「まあ、今まで散々な目にあったよ。けど一生懸命居酒屋で働いてると……俺の事をちゃんと見てくれる人が増えた。エレナから魔剣を託されて、魔術師代理として活動してからもそうだ」


 助けた人は、認識阻害の魔術によって誰に救われたか分からなくなった。それでも、戸惑いながらも俺へ向ける視線が変わっていった。


 カーマみたいなあんまり変わらない人もいるけど……俺の事をフラットに、1人の人間として見てくれる人が増えた。それが嬉しかった。


「だから、全員には無理だろうけど……きっと理解してくれる人が現れる。だから、人を助けていこうぜ?」

   

 俺はシュウに歩み寄り、手を差し伸べる。


「……憎しみで魔術師を倒すのではなく、人を助ける……か」

「そうだ」


 シュウは迷っている。今までと変わり、これからの人生を決定づけるような選択だ。迷うのも仕方がない。


 それでも俺にできるのは手を差し述べるだけだ。

 

「……ずっと憎しみで生きてきた。魔術師を倒す為に。聖戦なんて言葉で、それを取り繕ってまで。その結果、俺は道を間違って……君を傷つけ、彼女も悲しませた」


 懺悔するように呟くシュウ。だが、ゆっくりとその顔を上げた。


「それでも……もう一度、誰かの為に生きたい……と思う」


 たどたどしくも、シュウはそう言ってのける。そして意志の篭った瞳を向けて、俺の手を力強く握った。


 俺はその選択が嬉しくて……笑みを零す。


「ありがとう、シュウ」

「いや、礼を言うのは私の方だ。大切なことに気づかせてくれてありがとう。ジーク」


 こうして、天師であるシュウとの戦いは終わるのであった。

 

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