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第30話 覚醒

「我が名はファフニール。子孫よ。こうして話せて嬉しいぞ」

「あなたが俺の先祖……」


 そう呟くと竜は頷き、その姿を黒髪の少女変化した。その姿でもこめかみからは角が、背中には羽があり、竜である事が伺える。


「子孫に会うのは久しいな」

「そうなのか?」

「ああ。竜の血であろうと、人の血のように薄れくのが道理であるからな」


 そりゃそうか。世代を重ねる毎に血は薄まっていく。当たり前の事だ。


「だがお前は竜の力に目覚めた。隔世遺伝というたか?そういうアレじゃ。しかしちと問題があったがな?」

「問題?」


 ファフニールは俺の言葉に頷く。


「竜の力を受け止めるには生半可な器では耐えられん。それこそ、我が夫……英雄ジークフリートでも無いとな」


 王子はジークフリートというらしい。奇しくも俺……ジークはその半分の名を持っていた。


「故に、お主の体が成熟するまで竜の力は封印されていたのだ。己が魔力によってな」

「いや待ってくれ、俺は魔力が無いんじゃ……?」


 俺は生きて来た中で魔力を扱えた事が無かった。だから魔力と言われてもなんの事かさっぱりだ。


「お主には魔力がある。だがそれは竜の力の源、炉心とも言える心臓……その奥深くに留まっていたのだ。未熟な肉体では己の力で潰れかねん……肉体の防衛本能がそうさせたのだろう」

「そう、だったのか……」


 今まで魔力が扱えなかったのは、自らの力に殺されない為だったのか。


「だがそれももうおしまいだ」

「どういう事だ?」

「お主は魔剣と契約し、その力を振るって来た。それにより爆発的に肉体は成長し、膨大な力への耐性が出来た」


 魔剣を振るって人々を助けて来た日々。それらが俺の立場だけでなく、その体すら変えたという事……らしい。


「まあ魔剣を持つ前でもその片鱗はあっただろうがな。例えば竜の外皮の魔除け。抑えられていて魔術を防ぐ程ではなくとも、体質由来の微弱なものならば弾けるであろう」

「体質……あっ!」


 思い当たる節があった。エレナが心を読めない唯一の人間と言っていた事だ。


 その原因は竜の力の片鱗だったのだ。納得する俺の様子を見てファフニールは続ける。

 

「そして聖剣を心臓に受けた事によって、お主の魔力が溢れ出した。奇しくも枷を外してくれた訳だ。あの男は」

「シュウの刃が……竜の力を抑えていた魔力を解放した……ってことか」


 ファフニールは頷き肯定する。


 こうして俺は自身に宿った力の秘密を知ったのだった。


「さあ、そろそろ目覚める時間だ。天師の男に一泡吹かせて来るがいい」

「……ああ、そうさせてもらう」


 ファフニールに威勢よく返事をし、俺はゆっくりと目を瞑る。すると意識は引っ張られるように浮上するのだった。


 現実では、エレナもシュウも目を見開いていた。


「なに、これ……!?」


 なぜなら、俺の心臓からとめどなく青い魔力が溢れているからだ。


「傷が治って……!」

「馬鹿な!確実に刺した筈……!それを治すなんて……!」


 やがて体は完全に治癒する。しかし、その魔力は止まらない。


 俺はその身体を起こす。


「ちょっ!ちょっとジーク!?」

「大丈夫だよエレナ」


 安心させるように言う俺の言葉に、エレナは制止する手を止める。


 完全に立ち上がり、俺はシュウに向き合った。


「一体どんな手を……!」

「目覚めたんだ。俺本来の力に。それを今から見せてやるよ」


 その言葉にシュウは身構える。


「魔剣創造」


 そう呟くと、肉体から魔力が更に生み出されていく。そして眩く輝き、俺を、そして周囲すら包み込んだ。


 その光が収まった時、我が身は再び黒衣に包まれ、その手には竜の意匠が施された大剣が握られていた。


 その剣の名も、もう理解している。


「魔剣『バルムンク』」


 それこそ、この俺……ジーク・ヴァールハイトの新たな魔剣であった。



「魔剣を創ったのか……!?」

「嘘……!ジーク、あんたどうやって……魔剣を生み出すなんて、膨大な魔力と超がつく程の技術が必要なのに……!」

「さあな。俺は竜の血が流れてるから……その力のお陰だろうな」


 俺はただ望んだだけ。戦う力を。エレナに託されたような、誰かを守れる強い力を。


 それに竜の血は応えた。


 竜の炉心として覚醒した心臓が生み出した高純度魔力。それに俺の意志が術式として刻まれ、魔剣と化したのだ。

 

「なら、もう一度殺してやろう」


 シュウはそれに臆さず敵意を向ける。


「もうさっき迄の俺じゃねぇ。だから、勝つぜ」


 新たな魔剣『バルムンク』を構える。そして……互いに飛び出した。


 激しく刃がぶつかり合う。すると衝撃が辺りに伝播し、土煙が舞う。


「はあああっ!」

「おおおおっ!」


 2度、3度とぶつかり合い、鍔迫り合いになる。


 シュウの額に汗が滲む。表情も歪み、「聖剣を解放し、魔術の自己開示をした私が押されるなんて……!」とでも言いたげた。

 

 シュウは一度大きく後退する。


閃矢追光(せんやついこう)!」


 そして無数の光の矢を放ち、全方位から襲いかかる。しかしそれは黒衣に触れた途端すると消し飛ばされた。


「なん、だと……!?」

「竜の外皮は魔除け。生半可な術は効かねぇよ」


 驚くシュウに俺は迫り、袈裟斬りを放つ。シュウは刃で受け止めようとするが、それもろとも押し切った。


「があっ!」


 鮮血が吹き出す。苦悶に歪むシュウの顔。俺はそこに追撃をかける。


「くそ……!」


 シュウは後退するが、そこは壁だ。剣閃と立ち位置で逃げる方向を制限し、追い詰めたのだ。


 俺は横薙を放つと、シュウはそれを屈んで回避する。壁は真っ二つになり、崩れ落ちる頃にはまた鍔迫り合いになる。


「これが竜の力だと……!?」

「そうだ。あんたが心臓を刺してくれたお陰で、今まで抑え込んでいた魔力の枷が外れた……らしいぜ」

「ふざけるな!」


 シュウはまた逃げるように距離を離し、互いに睨み合う形になる。そして俺は声をかけた。


「なあ、まだやんのか?」

「なに!?」

「このままいけば、痛いだけじゃすまねぇかもしれねぇ」


 俺は魔剣を通して目覚めた竜の力を実感している。故に、その力を振るえばただじゃ終わらないと分かっている。


 だからシュウを止めようとしてるんだ。  

 

「馬鹿な事を言うな!私は天師として魔術師を倒さねばならない!だからお前は……私の全霊を持って倒す!」


 だが交渉は決裂する。それ程までにシュウの意志は強い。


「分かった。なら、俺も全力で止める」


 互いに刃を構え、視線をぶつける。


 俺は魔剣にシュウは刀に光を集める。そして、一斉に飛び出した。

 

「『光明閃刃』」

 

 シュウの閃光のような斬撃が振るわれる。


 俺はバルムンクで正面から受けて立つ。激しい衝撃と火花、魔力の粒子が辺りに舞う。


 このままではバルムンクも折られるだろう。それぐらいシュウの力は凄まじい。


 けど、だからこそ……俺の勝ちだ。


「『魔術喰らい(マギ・イーター)』」


 シュウの聖剣から光が剥がれる。


「なんだ!?光が……!聖なる光が奪われる!?」


 そしてそれはバルムンクに纏われていく。


 魔剣バルムンク。

 その第2解放の力は、文字通り触れた凡ゆる魔術を喰らう。

  

 バルムンクを手にした時点で第2解放のこの力を理解していた。だからあえて出力の低い閃矢を吸収せず、カードを伏せていた。


 全てはこの瞬間、最大の力を吸収してカウンターする為。


 もう1つのバルムンクの力。


「『魔力放出(マナ・ブラスト)』!」


 シュウから奪った光が黒く染まっていく。竜の心臓より生み出された高純度の魔力が上乗せされているのだ。


 そして魔力放出(マナ・ブラスト)は、指向性を持って魔力を放出する力。


 俺は剣を振り抜き、黒い魔力の奔流をゼロ距離で放った。それはシュウを包み込み、吹き飛ばしてしまうのであった。

 

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