第2話 魔力無しの居場所
俺……ジーク・ヴァールハイトは下町にあるハイト屋という居酒屋に入った。
天涯孤独である俺は宿も担っているこの店の一室を借り、住み込みで働いているのだ。
この店は魔術ではなく人の手による温かみある給仕を重視している。魔術が扱える程では無い魔力を持つ者や、そもそも魔力が無い俺にとって貴重でありがたい場所であった。
まだ明るい時間にも関わらず、店の外まで聞こえる程活気が溢れだしている。中にいる者たちは剣や革鎧をつけた戦士、杖を持った僧侶、ドワーフやエルフなど。得意な事も種族もそれぞれ違う。
しかし、時に協力して魔物を倒し、時にダンジョンを探索し、雄大な世界を渡り歩く冒険者たちだ。
話題は今日はどんな魔物を倒したとか、お宝を手に入れたとか。
いいな、そういうの。魔力がなくても、俺もそんな冒険者に……。
そんな密かな憧れを胸に抱く。そのまま裏口から店に入り、忙しそうに手を動かす店主夫妻に挨拶を交わす。
その後、エプロンを付けた俺は注文を取りに行くのだった。
早速俺を呼ぶ声が上がる。そこには見知った強面の中年がいた。彼も冒険者の1人であり、この店の常連客だ。
「ようジーク!精が出るな!」
「ハルゥのおっちゃんも相変わらずだな。注文は?」
「そりゃビールよ!3つな!あとガーリックチキンの唐揚げにソルトラムのベーコンブロック!それと、ヤングキャベツのセサミオイル炒め山盛り!」
「いきなりビールもつまみも多すぎだろ。ホント酒好きなんだからよ。OK、待ってな」
メモを取り、店主へ伝える。暫くすると香ばしい香りが漂うおつまみとジョッキいっぱいのビールを持っていく。
「かぁ〜!来たぜ来たぜ!」
ハルゥはビールを喉に流し込み、続いて塩味が効いたつまみを美味そうに頬張る。これも俺にとっていつもの光景だ。
「んじゃ、ごゆっくり」
「おうよ!そういやジークも15になったんだよな?なら後で座って飲もうぜ!俺の奢りだ!」
「はいはい。そんじゃご馳走されるわ」
そんなご機嫌な様子を後にし、また皿を下げたり注文を取ったり忙しなく動くのであった。
すっかり町を夜が支配する頃。時刻は午後8時。その日の仕事が終わる。
まだ賑わいを見せる店内だが、俺は学生という事もありここまでだ。
「ほい、今日のまかないだ」
「ありがとうございます。ハイトさん」
店主であるハイト・シフォンさんはニカッと笑い、また仕事に戻るのだった。相変わらず気の良い人だ。俺なんかにも優しく接してくれるハイトさんは本当に尊敬する。
俺はエプロンを外して約束していた席に行く。
「ハルゥのおっちゃん寝てるし。おーい、飲みすぎだっての」
「うぅん……酔ってらいよ」
「酔ってんじゃねぇか。スゲぇ嘘つくじゃん」
相席する約束をしたハルゥのおっちゃんはすっかり出来上がって机に突っ伏していた。揺さぶってもこれはダメそうだ。
仕方なく彼を2階の宿の一室に運び、やっと席に着くのだった。そこに1人の少女が現れる。
「あ、ジークくん。お仕事お疲れ様です」
「ユウカ。おかえり」
銀髪のミディアムヘアの少女。ユウカ・シフォンだ。俺のクラスメイトである彼女は、偶然にもこの店の娘であったのだ。
告白を断った後に言っていたように、今日は勉強会で帰りが遅くなった。
「今日のまかないはセサミキャベツとタバスコ豚のピラフなんですね。私も好きです」
「おう。ってなんで座るんだよ」
対面の席に自然と座るユウカ。
「ダメですか?」
「いや別にいいよ」
不思議そうに小首を傾げるユウカ。最早いつもの事なので受容する。そこに店主の婦人にしてユウカの母、カエデさんがお盆を持って現れる。
「おかえりユウカ。はい、ジークちゃんと同じのね」
「ありがとうママ。いただきます」
手を合わせ、早速ピラフを口いっぱい頬張るユウカ。普段あまり感情を見せないクールな印象だが、今の様子は小動物のような可愛らしさがある。
「ゆっくり食べなさいな。ジークちゃんも今日もありがとね」
「いえ、住まわせて貰ってますから」
「またそう言って〜。でも助かってるわ。それじゃあごゆっくり」
そう言って婦人は店の手伝いへと戻る。それを見送ってから手を合わせ、俺もピラフを口にするのだった。
食事の最中、ユウカが話しかけてくる。
「あの、今日はごめんなさい……」
「何が?」
ユウカが謝る事に心当たりがなく、思わずキョトンと首を傾げる。
「歴史の授業で、魔術見せろって言われた事です」
「ああ、アレか。ユウカが謝る事なんもねぇだろ」
心の底からそう言う。しかしユウカは納得していない。
「で、でも!そのせいでジークくん笑われちゃって……」
「気にしてねぇよ。んな事。勝手に言わせとけ。それに、魔術が使えないのは事実だしな」
「ジークくん……本当に、気にしてないんですか?」
「ああ、本当だよ」
俺が気にしていないのは紛れもなく本音である。15年の人生で蔑まれる事など何度もあった。だから慣れてるし、気にしても現状は変わらないから。だから、それらを聞き流してありのまま生きているだけだ。
歴史の授業も1年の教科書の内容。しかも魔術の歴史を誇りに思う教師が何度も語っていた事で、あまりに基礎過ぎて改めて聞くまでも無かっただけである。
「でも、ありがとな。心配してくれてるんだろ?それは嬉しいよ」
俺は柔らかく微笑みそう伝える。これも本音。
「ど、どういたしまして……」
ユウカは赤く染まる頬を見られまいと俯き、また目の前のピラフを口にする作業に戻る。
バレバレなんだけどな……。
俺は思った事をすぐに口にする傾向がある。そういう素直で裏表が無く、しっかりと感謝を述べられる姿は好感が持てると言われたことがある。
そのお陰か、俺の事をよく思ってくれる人はこの店には多かった。
かくいうユウカもその1人である。
俺は食事を終えて自室に戻る。
なんだかんだありつつも、充実した一日を過ごしている。だがその内には……今朝の事が引っかかっていた。
それは魔術師の青年から、魔術師となって共に戦おうという激励の言葉を贈られた事。それに胸を張って「はい!」と応えられなかったからだ。
俺だって、そうしたい……けど、俺には魔力が……。
そう思った瞬間、俺は自分の顔を両手で叩く。ジンとした痛みが思考を切り返させる。
「んな事、幾ら考えても仕方ねぇって知ってんだろ」
もう同じ言い訳を何回もしてきた。その度に何回もこうして己を叱咤してきた。
だから今日も、無力を嘆くよりも懲りずに己を奮い立たせる。
だがしかし、俺ははまだ知らなかった。そんな日常は、出会い1つで容易く塗り替えられる事になると……。
夜闇に包まれ、月明かりに照らされる石造りの町並みに影が1つ。
「全く、こんな夜中まで駆り出されるなんて……嫌になるわ」
星に負けないくらいの月明かりを反射して輝く金髪。それを夜風にたなびかせた少女は高台から町を見下ろすのであった。
彼女こそ、俺の運命を変える事となる少女であった。
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