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第25話 これから

 2人は慰霊碑から少し離れた所にあるベンチに腰かけていた。花畑がよく見えるそこは居るだけで心が現れるようにも感じる。

 

「落ち着いたか?」

「う、うん……ありがと」


 エレナは泣き腫らした顔で礼を述べる。


「それにしても……ホント、あんたって意味わかんないわね」

「そうか?」

「そうに決まってるじゃない!」


 照れ隠しのように声を荒らげるエレナ。俺は何時もの調子が戻ったようで嬉しく思う。それが顔に出ていたのか、エレナは少し恥ずかしげに目を逸らした。


 そして咳払いをして話を続けるエレナ。


「いい?魔力の無い体である事、魔素の塊である竜の血を被って無事である事、感情が読めない事、そしてそんな体で魔剣に選ばれた事。これが今あるあんたの謎よ」

「謎って言われても……俺も分かんねぇよ?」


 本人でさえ預かり知らぬ異常な肉体の事。その謎は非常に興味深いものだ。

 

「それを調べようって言うのよ」

「どうやって?」

「それは……どうしよう」


 しかし、調べる手段が無い。いや、あるにはある。魔術師の医者だ。


「なんだあるじゃん。じゃあそれの診てもらえばいいんじゃね?」


 それを聞いて俺は楽観的に答える。しかし問題があった。


「魔術師の医者に診てもらうって事は、あんたが魔剣に適合してるって事もバレるって事よ」

「あっ……そいつはまずいな」


 些か秘密の多い2人。他の魔術師と接触するのはかなりのリスクがある。


「ローザさんにはまだ仮の弟子だから黙っててって言ってる。けど医者にかかればあたしの魔剣をジークが持ってるってバレるし、それがあたしのだっていうのも遅かれ早かれバレちゃうわ」


 俺は少し思い悩む。その最中、ふと1人の人物が思い浮かんだ。


「うーん、ならウルシ・キースって人は?治療出来たんだから、それなりに詳しいと思うし」

「それこそ信用出来ないでしょ。魔術の素材はコネがあるとか言ってたけど、見た目からしてもう胡散臭いわ」


 エレナはキッパリと却下するのだった。ここまで来ると八方塞がりである。


「ま、いいわ。あんたが魔剣を返してくれた時まで取って置きましょう」

「おう、そうする」


 一旦、俺の体の事は頭の片隅に追いやることにした。


「それにしても……ホントに魔剣の魔力を慣れさせるなんて出来んのかな。」

「さあ?やってみた事ないんだから誰も分からないわ。でも……」


 エレナはジークの目を見て、飛びっきりの信頼を込めて言葉を送る。


「あんたならできるわ」


 その言葉に俺は力強く頷くのであった。


「あ、そうだ。帰りちょっと寄りたいとこあるんだ。付き合ってくれるか?」

「いいわよ別に。どこ行くの?」

「鍛冶屋にちょっとな」


 そうして俺とエレナはモドキ竜車に乗り込み、アイン町まで戻ってきた。そこからは足で鍛冶屋まで訪れる。


「エレナは待っててくれ」


 俺はエレナを椅子に座らせ、自分は鍛冶屋の中年の店主と会話をする。


「ああ、坊主か。例のブツ、できてるぜ」


 そう言って掌大の箱を取り出し、俺に差し出した。俺はそれを開けて中身を確認し、その出来に満足気に頷く。


「いい仕事っぷりだ……じゃあこれ、報酬の金貨」


 俺は皮袋から金貨を数十枚取り出す。


「前払いの分と合わせて50枚。しっかり受けとったよ。まいどあり。また来てくれよな」


 店主も満足気に微笑み、用は済んだのだった。


「で、用が済んだのになんであたしの家まで着いてくんのよ」

「いや、ちょっと落ち着いて話せる場所が欲しかったからな」

「そう……」


 2人は仲良く並んでエレナの家まで来た。そしてリビングで俺はエレナに向き直る。


「えと……話、なんだけどさ」

「ええ、なにかしら?」


 どこか言い出しづらそうな俺に不思議がりながらエレナは問いかける。暫く目を泳がせていたが、俺は覚悟を決めてそれを取り出した。


「これ、エレナに受け取って欲しくて」

「……え?」


 取り出したのは先程鍛冶屋で受け取った掌大の箱。それを俺は中身が見えるように開ける。


 その中には……サファイアが埋め込まれたシルバーの指輪が入っていた。


「えっ?ちょっ!?嘘……!これ、な、なんなのよ!?」


 目に見えて動揺するエレナ。頬も赤みが増していく。


「前のダンジョンで手に入れたサファイア。それを鍛冶屋で指輪にして貰ってたんだ。ほら、俺さ。エレナの魔剣を貸してもらってる訳だろ?ならその責任は取らねぇとって思ってて……」

「せっ!責任!?な、な、なに!?それが指輪……!?そ、それっても、もしかして……!」


 この時、エレナの中に1つの単語が思い浮かんでいたらしい。それは……プロポーズだ。


「ちょ!ちょっと待って!あたしら、その……まだ全然そんな関係じゃ……!」

「ん?そういう関係だろ?」


 俺は不思議そうに首を傾げる。それにエレナは更に困惑する。


「ど、どういうことよぉ!?ま、まさかホントにジークは、あたしの事……」


 エレナはボソボソと小さな声で呟く。


「けど、まだ俺は責任を取れない」

「え?」


 だが、次に出てきた俺の言葉に目を丸くする。さっき迄とまた違った困惑をしながら言葉を待つエレナ。


「エレナの魔剣をまだ返せないだろ?だから、その代わりと言っちゃなんだが……指輪を贈りたかったんだ」


 俺はエレナが普段、仕切りに魔剣の指輪の後を眺めたりなぞったりする様子を見ていた。それ程まで魔剣が大切なものだと感じ取っていた。


 だから、それを一時的にとは言え奪うような形になった事に責任を感じていたのだ。


「だから、魔剣を返せない間はこれを付けててくれ」


 俺は微笑む。エレナの頭の中はまだ混乱していた。


「えーと、つまり……魔剣を返せないことに責任感じてて、だからせめてオーダーメイドの高い指輪をってこと?」

「ああ、そういうことだ」


 俺は力強く頷き、それを肯定する。それを見てエレナは大きく息を吐き出した。


「そ、そうよね……!まだ出会って2ヶ月そこらで……付き合っても無いのにぷ、プロポーズとか……ありえないわよね!」


 なにか呟いているが、俺が指輪を作って渡して来る理由に納得したらしい。


「えと、大丈夫か?」

「だ、大丈夫じゃないわよ!だ、誰のせいでこんな事になってると思ってるのよぉ!」


 赤い顔のまま怒声を上げるエレナ。それに俺はわけも分からず驚きつつ謝罪をする。


「す、すまん……!魔剣じゃねぇ指輪なんて渡されても困るよな。宝石自体エレナも持ってるともんだし……」


 申し訳なさそうに肩をすくめる。するとその姿にエレナは焦りを見せる。


「な、なんでそんなかわい……じゃない!残念そうな顔すんのよ!これじゃあたしが振ったみたいじゃない!」

「え?」

「な、なんでもない!べ、別に貰わないとは言ってないわ……!」


 俺は驚いて顔を上げるとエレナと目が合う。しかし彼女は恥ずかしそうに目線を逸らす。


「い、いきなりでビックリしただけ……でも、そういう事なら……貰ったげるわ」

「エレナ……ありがとな」

「礼を言うのは貰うあたしの方に決まってるでしょ!……ありがと、ジーク」


 相変わらず素直じゃないエレナは指輪を手に取り、中指にゆっくりとハメる。それはなんとピッタリとハマるのだった。


「あれ?ジーク、あんたなんであたしの指のサイズ分かったの?指なんてそんなちゃんと見せた事ないのに……」


 エレナの疑問にそう答える。

 

「前に占い師の冒険者が居たろ?」

「ん?ああ、そういやそんなの居たわね。手相見るとかで……」


 以前、エレナはハイト屋で紫のローブの女性に手相を見て貰った。勿論、お金は取らずに完全にサービスで。


「寿命や恋愛運……なんて、殆ど眉唾だったわね」


 魔術的なそれではなく、簡素な占いであったのでそこまで信じていなかった。


「って、まさか!」

「ああ、ついでに指のサイズ見てくれるよう頼んだんだ。お陰でピッタリだろ?」


 そう、占い師は俺の差し金であったのだ。その甲斐あって指輪はエレナに合うように作る事ができた。


「呆れた……手が凝んでるわね」

「それぐらいしなきゃ不誠実だと思ったからな」

「あっそ。でも、ありがとう。嬉しいわ」


 エレナは呆れつつも微笑み、青く煌めく指輪を嬉しそう眺めるのであった。


 あの日の夜、偶然にも出会った2人。魔剣を与え、魔剣を受け入れて命を救った。そしてその秘密を共有する事になった。


 あの日から俺とエレナの道は交わったのだ。


 そして今日。互いの過去を明かした事で、より一層絆が深まったように感じる2人であった。



ここまで読んで頂きありがとうございます!

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