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第22話 お参り

 平日の昼下がり。俺は今し方アンデッドを倒した所だ。


「はい、お疲れ様。到着から撃破まで更にスムーズになったわね。このあたしが褒めて……」 

「なあエレナ。来週の土曜、ちょっと行きたいとこあるからアンデッド狩り休んでいいか?」


 エレナの言葉が言い終わる前に呟く。エレナはそれに少し面食らいつつも、訳を問いかける。


「どうして?」

「……ちょっとノイン町までな。その後ちゃんと魔術師できるか分んねぇから」


 背を向けたままそう伝える。エレナはそれを了承するのだった。


「分かったわ。こっちはあたしがなんとかするから、休暇にしといてあげる」

「ありがとな。エレナ」


 そうして許可を取り、また授業に戻る俺であった。その背中を見送るエレナは目を細める。俺の機微を推し量ろうとしての事だろうか?答えは彼女の心を読まねば分からぬ事であった。


 そして次の週の土曜日。

 俺は朝食を済まして外に出た。しかしその足は1歩目で止まる。そこには、光を反射して輝く金糸の束。それをなびかせたエレナが居たからだ。


 つり上がった碧眼がジトリと俺を覗いている。


「ほら、ノイン町行くんでしょ。あたしも同行するわ」

「エレナ……なんでだ?それにこっち……アイン町の方は大丈夫なのかよ?」


 俺はてっきりエレナがアンデッドに対応するのかと思っていた。六重属性使い(オールラウンダー)であり、魔術学院も首席で合格したエレナならば、魔剣が無くとも大丈夫だろうと思っていた。


 初めて会った日も俺が居たから集中を乱していた。だから力が発揮出来なかったのだと考えている。


 返って来たのは肯定だ。

 

「ええ。大丈夫よ。代わりの魔術師を送って貰ったから。あと、魔剣を持つあんたがノイン町で問題起こさないかが心配なの」

「んなちっちゃい子のお使いみたいな……」


 俺の言葉にそれに溜息を着くエレナ。 


「いい?アンデッドが出たら近くの魔剣は反応する。あんた、絶対飛び出して行くでしょう?人が襲われるかもしれないし」

「あ〜……確かに」

「それ困るのよ。魔術師は固定給の他に、倒したアンデッドの内包魔素量によってもお金が貰えるわ。だから担当外の魔術師が倒しちゃうと後々めんどくさい事になるでしょうね」


 つまり、獲物を横取りした事になる。貰える筈のお金が貰えないのはトラブルを生むでろう事は俺にも分かった。


「なるほどね。秘密の事もあるし、出来れば魔術師に関わらない方がいいよな」

「ええ、だからあたしがお目付け役として同行するの。これはもう決定事項だから」

「はいはい、分かったよ」


 俺はエレナの説明に納得し、同行を受け入れるのであった。因みに代理の魔術師はローザである。俺も面識がある上、その実力も申し分なかった。


 2人は馬車では無くモドキ竜車に乗り込み、車内で揺られながらノイン町を目指す。


 流れていく景色を見たり、軽く会話をしたりして1時間程。目的地に到着する。2人はモドキ竜車の停留所で降りた。


「で、どこに行くのよ」

「ゾロア教会ノイン支部。その前に花屋だけどな」


 そう言って俺は先行して歩いていく。


 なるほど、そういう事ね。


 エレナはその行先から何となく目的を察し、その後を追うのだった。


 花束を購入し、やってきたゾロア教会。魔術教会とも呼ばれ、始祖アスターを崇拝する一大宗教だ。このエデン国で最も勢力がある宗教だろう。


 俺とユウカの通う学園も、このゾロア教の出資する学び舎だ。俺は縁があって学費を免除されてそこに入っていた。


 2人が教会の扉を開けると、まだ年若くも、大人の色香をもつ金髪のシスターが出迎えた。


「こんにちは」

「こんにちは。1年ぶりね。ジーク」

「何?知り合いなの?」

「ああ、毎年来てるしな」

「なるほどね」


 俺の答えを聞き、親しげなやり取りに納得するエレナ。


「初めましてですね。可憐なお嬢さん。私はユウナ。ユウナ・ヴァールハイトです」

「初めまして。エレナ・ライアよ。って、ヴァールハイトって……ジークと同じ?」


 俺のフルネームはジーク・ヴァールハイト。エレナはすぐに名字が同じである事に気がついた。同時に、髪の色や顔立ちを見比べる。


「同じ孤児院出身なんだよ。ヴァールハイト孤児院」

「ええ、ジークの言う通り。私はジークが入って5年程で修道院の住み込み見習いになりましたけど」

「ああ、そうだったんですね」


 2人の説明に得心したエレナ。それと同時に俺が孤児であった事も初めて知る。ゾロア教の学園に通えていたのもその縁があったからだ。


「ジークは元気にしてたかしら?」

「ああ、元気だよ。学園に通いながら居酒屋で住み込みしてる。そこの娘……ユウカって言うんだけど、偶然クラスメイトだったから色々と世話になってるよ」

「あらそうなのね。エレナさんはジークとはクラスメイトなの?」

「あ、いえ……学校は違いますけど、魔術の事色々と教えたりしてます」


 突然話を振られ驚いたものの、それとなく言葉を返す。


「そう。ユウカさんもエレナさんもいい人なのね」

「え?そ、そうですか?」


 エレナはまた驚き目を見開く。まだ対した事も言っていないのにも関わらずユウナがそう言ったからだ。


「ええ。魔術に詳しいなら、ジークが魔術はおろか、魔力も使えないのは知ってるでしょう?」


 ユウナの言葉に頷くエレナ。


「だからよ。ジークを色眼鏡無しで寄り添ってくれる人は貴重だから。それに、今日ここまでわざわざついて来てくれたって言うのも理由よ」

 

 魔術隆盛の時代、魔術で発展してきたエデン国で魔力のない人間がよく思われないのは知っての通りだ。だからこそ、俺の人柄を見てくれる人もすぐに分かるのだ。


「じゃあ、もう行くよ」

「はい、みんな喜ぶと思いわ」

「……ありがとう、ユウナさん」


 ジークは挨拶を終えて教会の裏の墓地へ向かう……と思いきや、教会を後にするのだった。それに首を傾げながらもエレナは着いていく。


 やってきたのは花畑がある広場だ。花畑の間を縫うように舗装された道を進むと、1つの石碑があった。


 石碑の前まで来た俺は花束を優しく添える。


「この石碑……」


 エレナはジークが花を置いた石碑に刻まれた名の数に驚く。この石碑は『ヴァールハイト孤児院竜害慰霊碑』。


 竜害。文字通りドラゴンによる被害の事だ。ドラゴンは魔物の中でも内包魔素量、膂力などどれをとっても強大な力を持っている。


 それは災害と等しい脅威であるのだ。

 

 そして『Astar.Century.2105.2.15』という日付は、10年前に起きた竜害を表している。


 つまり、ここは俺やユウナさんと同じ孤児が……いや、同胞を失った意味では彼らも竜害に合った場所なのね。


 エレナは思っていた以上の事情に胸を締め付けられる。そして、俺の隣で同じように膝をつき、冥福を祈るのであった。

 

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