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第21話 打倒バジリスク

「あんた達!一瞬下がって!」


 前線まで出てきたエレナ。俺とアーサーに手短に告げる。俺たちはエレナを信頼し、バジリスクから距離を置いた。


 当然、走り寄るエレナにその瞳は向かう。


「ギュエエッ!」


 バジリスクは叫ぶ。そして羽に魔素集め、羽ばたかせた。すると荒れ狂う暴風を生まれ、エレナに襲いかかる。


「『火炎放射(フレイム・ブラスト)』!」


 エレナは手に集めた魔力を豪炎として放つ。火は風の魔術に有利な属性。しかも、エレナは魔術師の中でも屈指の実力者。


 魔術を合成させた場合、最終的な魔術の支配権は有利な属性の術者が持つ。エレナの地とリアの風の魔術を組み合わせた際、リアが主導権を握っていた事からも分かる。


 そして、エレナはバジリスクの風の魔術に自身の火の術の波長を合わせた。敵同士で波長を合わせるなど、ほぼ不可能に近い。


 けど、それを成すのがこのあたし!


 逆巻く豪炎が風を飲み込みながらバジリスクに襲いかかる。そしてその羽を1つ焼き尽くしてしまった。


「ギュアアアアアッ!」


 痛みにバジリスクは叫ぶ。


「うるっさいわね!これで黙りなさい!『静寂の訪れ(サイレンス)』!」


 魔力の粒子が風のように送られ、バジリスクの周りで弾けた。すると、バジリスクの先程の轟音はどこへやら。口を開くばかりで音は全く出なくなってしまった。


「声に魔素を乗せた広範囲の技なら、その声を出させなければいいのよ」

「なるほど……!流石エレナだ」

「そんじゃ、今がチャンスっスね!」


 エレナの策が決まり、混乱しているバジリスクに俺とアーサーが迫る。光の大剣、炎の剣がバジリスクの全身を切りつけていく。


 だがバジリスクもやられっぱなしでは無い。声は出せずとも、爪、クチバシ、尻尾、片翼を駆使して互角に渡り合う。

 

「もっと火力がいる……!」


 苦心する4人。全員が同じ結論に至る。ならばやる事は1つ。


「あたしらが怯ませる!まずその為の時間を稼いで!」

「ああ!」

「おうッス!」


 エレナの言葉に前衛の俺とアーサーは力強く返事をする。2人がバジリスクを引き付けている間、エレナは後方に下がってリアの隣に立つ。


「動きを止めるわ。力を貸して」

「勿論です!」


 2人は隣合い、共に魔力を蜂起させる。そしてその波長を合わせていく。


「『透明なる壁(クリア・ウォール)』!」

「『チェイン』!」


 2つの魔術が合わさり、バジリスクへと放たれた。俺とアーサーは射線上から離れる。すると、巨大な鎖がバジリスクを縛り付ける。


「鎖に壁の強度を足した術よ!」

「解けるものなら解いてみてください!」


 バジリスクはその身をよじらせるが、鎖は一向に綻ぶ様子が無い。


 今だ……!


 俺とアーサーの心がシンクロする。共に最大火力を放つ為、それぞれの剣を構える。


「紅蓮を纏い、仇なす者を灰燼と化せ!『豪火剣嵐(ブレイズ・テンペスト)』」

「輝き集いて刃となる……!『斬光大剣スラッシュ・オブ・ライト』」


 詠唱を乗せた事で言霊の力を強化した術が紡がれる。


 そしてその業火の嵐がバジリスクを焼き、その身を光の刃が2つに斬り裂いた。バジリスクは悲鳴をあげる事も無く地に伏せるのだった。


 やがてその身は魔素となって散りゆき、跡形もなく消え去るのであった。すると、ダンジョンを包み込んでいた邪悪な気配は消え去る。


「ボスが倒された事によって、道中の眷属たる魔物も消えたでしょうね」


 そう、ダンジョンとは最奥に潜むボスが生み出したもの。ならばそれを倒せば、ここはもうただの大空洞という事だ。 


「おっしゃぁ!やったッスね!」

「ああ!みんなのお陰だ……!」

「当然の結果ね」

「傷治しますね。でも大きな怪我が無くて良かったです」


 俺、アーサー、エレナ、リアの連携により、強力なアンデッドを見事撃破した。その喜びを分かち合う4人。


「ん?あれは……?」


 すると、俺は何かを見つけたようだ。3人がその視線の先を眺める。それは大空洞の奥に出来た亀裂から、光が漏れている光景。


「なんスかね?」

「戦闘中は気づかなかったわね」

「行ってみましょうか」


 リアの言葉に従い、4人はそちらに足を運んだ。近くに行くと、亀裂が人1人が通れるぐらいの大きさであるのが伺える。そして見つけた俺を先頭に、順番にその奥へと向かった。


 すると……4人は暫く言葉を失った。


 そこには水晶、ルビー、サファイア、エメラルド、琥珀、アメジストなどの鉱石が大樹のように絡まり合っていた。天井にはこれまた大きな魔光石があり、それらを輝かせている。


 亀裂から漏れたのはこの輝きであったのだ。


「すげぇ……!なんだこれ!」

「まるで宝石の大樹ッス!」

「こんなの初めて見たわよ……」

「私もです。とっても綺麗ですね……」


 色とりどりの宝石が影に作る色彩まで美しい。その姿に俺たちは圧倒されている。


「流石にここから宝石を削り出そうとは思わねぇな」

「そうね。ホントに綺麗だもの」

「ここは長らくダンジョンで、人の手が及ばなかった場所。バジリスクもこんな小さな隙間じゃ入れません。まさに自然が生んだ、奇跡のようなオブジェです」

「マジで今日来て良かったッス」


 幻想的な光景は、ダンジョンを攻略しに来た4人にとってこれ以上ない程の報酬であった。


 その光景を目に焼き付けた俺たちは、ギルドに戻って来るのだった。一連の報告を済ませ、早々に近くの酒場にやってくる。


 目的は勿論、今日の頑張りを労い勝利を祝う宴だ。頼むのは酒。みんな成人の15は超えてるので遠慮なく注文する。


 賑わいを見せる店内。俺達の席にも酒が行き渡ると、アーサーがジョッキを手に音頭を取る。


「それじゃ、ダンジョン攻略を祝して!」

「「「乾杯!」」」


 ジョッキをぶつけ合い、喉にキンキンの酒を流し込む。その爽快な味わいに自然と笑みが零れている。


「ささ!ジャンジャン飲んで食べるッスよ!」

「おう!照り焼きセサミポークから……うん!うめぇ!」


 俺とアーサーは豪快に照り焼き肉にかぶりつく。香ばしい味わいと柔らかい肉のハーモニーが口いっぱいに広がる。


「シチューも濃厚……それにとっても温まります」


 リアは野菜たっぷりシチューが喉を通る熱を感じている。


「このビーフステーキもいいわよ?ま、ワインビーフステーキには負けるけど」


 肉厚の一切れを幸せそうに頬張るエレナ。


 冒険の後のご馳走は格別だ。その幸せな一時を過ごす4人。お腹いっぱいになった後は近くの宿に泊まり、今日の疲れを癒すのであった。


 翌朝。


「ギルドから魔術協会の方にも報告がされると思います。私達の仕事は終わりですね」

「そうね。アーサー、リア、お疲れ様。ありがとう」

「2人共、お世話になりました」


 俺とエレナはリターナー兄妹に礼を述べる。


「いやいや!俺も2人には助けられたッスから。むしろ感謝ッス!」

「アーサーの言う通りです。こちらこそありがとうございました」


 2人も柔らかく微笑み、礼を返す。そして名残惜しいが別れの時が来る。


「それじゃ、また縁があったらよろしくお願いします」

「2人共ランクAの冒険者顔負けの実力者ッスからね。また是非ご一緒したいッス」

「ああ、こちらこそよろしくな」

「それじゃあね」


 俺とエレナはモドキ竜車に乗り込み、リターナー兄妹と別れるのだった。


 2人きりになった車内。暫く静寂が包み込んだが、ふとジークが呟いた。


「……なあ、エレナ」

「なに?」

「俺、今回初めてダンジョンに行った」

「知ってる。どうだった?」

「楽しかったよ。ダンジョンをこの足で歩けたし、アーサーとリア、んでエレナでパーティでの戦いもできた。宝石もちょっと手に入れたし、最後には宝樹も見れたしな」


 昨日の事を1つ1つ回想しながら俺は呟く。


「だから、ありがとう。俺に冒険をさせてくれて」


 そして真っ直ぐエレナを見て、精一杯の感謝を贈った。


 俺は冒険者に憧れていた。魔力が使えないままでは、きっとこんな光景を目にする前に死んでいてもおかしくは無いと考えていた。


 だから、ダンジョンを攻略できる程の力を貸してくれているエレナに感謝しか無かった。


「どういたしまして。楽しめたのなら……なによりよ」


 エレナは微笑み、その感謝を受け取る。


 後で教えて貰ったが、彼女は俺に冒険をさせたかったらしい。俺が望んだとは言え、魔術師の代理というアンデッドと戦う危険な仕事をさせる事になった。


 その責任を感じていたのだ。


 だからこそ……仲間と共に戦い勝利し、お宝を手に入れ、自然が生んだ綺麗な光景を見て、美味い飯と酒を口にする。そして充実した疲労を感じながら眠りにつく。


 そんな最高の冒険を味あわせてあげたかったのだ。


 そのささやかな贈り物は、大満足の結果となった。


 だから……竜車に揺られる俺たちは、これ以上無い程の幸福を噛み締めているのであった。

 

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