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第20話 ボスの間

 階段を降りた先。4人の前には仰々しい巨大な扉があった。ダンジョンの最後の階層は1つの部屋しかない。即ち、迷宮の主が居る部屋だ。


「……開けるぞ?」


 俺の言葉にエレナ、アーサー、リアが頷く。それを確認し、俺はその手でドアに手を着く。そして重たい扉を押し開く。


 中にはだだっ広い大空洞。地面には円形の魔法陣がある。4人は慎重に中に入り、各々の武器を構える。すると、天井や壁、地面に埋め込まれた魔光石が周囲を薄明るく照らす。


 そして、地面の魔法陣が妖しく輝き……入ってきた扉がひとりでに閉まる。


 魔法陣はその輝きを増していき……その中心から緑の魔素が溢れる。そして、迷宮の主を形作った。


 顕現した迷宮の主は、トカゲやヘビ、ニワトリが混ざったような姿をしている。頭には怪しい王冠を被っている。


 そして、異常に白い肌に黒い眼球、そして翡翠の瞳という不死者(アンデッド)の特徴があった。


「まるで王様気取りッスね」

「迷宮の中っていう、国にしちゃあちっちゃな所だけどな」

「ふーん?小さな王(バジリスク)って事ね」

「古い言葉言うとレグルスですね」


 4人がそれぞれ迷宮の主の見た姿を形容する。それが癪に障ったのか、迷宮の主……仮称バジリスクはその口から咆哮を轟かせる。

 

「って!そんな事言ってる場合じゃねぇか!」

「そうね。アンデッドになってるようだし、全員油断しないように」

「了解ッス!」

「分かりました!」 


 4人は気合いを入れて各々武器を構える。そんな彼らを睨むバジリスク。その喉元に魔素が集まっていく。


「ギュオオオオッ!」


 咆哮と共に魔素が放たれた。それに合わせてリアが魔力を杖に集め、魔術を発動させる。


透明なる壁(クリア・ウォール)


 魔力の気配だけでしか認識できない、目に見えない壁が4人の前に現れる。それは咆哮の衝撃を防いだ。壁の陰に入っていない周りの岩が容易く砕ける。それを横目にして俺はやや驚きを見せる。


「叫びだけで……っ!」

 

 すると、俺は喉に違和感を感じた。それは他3人も同様に感じ取る。


 衝撃が収まり、盾が消えてから流れ込んだ空気を吸った途端……!


「毒か!リア!」

「分かってる!」


 違和感の正体を見抜いたアーサー。その言葉にリアが再び杖に魔力を集める。

  

解毒陣アンチドートフィールド!」


 すると、地面に大きな白い魔法陣が敷かれる。それは文字通り、範囲内の毒を消し去る魔術。ここまで広範囲にかつ長時間維持できる魔術は高等技術だ。


「この陣の中なら凡ゆる毒は効きません。ですが、これの維持している間、私が使える術は1つだけです」

「分かったわ。あなたは基本自分の身を守りなさい。ジーク!アーサー!あたしがリアを護りながら援護するから攻めなさい!」

「おう!」

「了解ッス!」


 方針を決めた4人は、改めてバジリスクに向き直る。


「そんじゃ、行きますか!」


 アーサーが盾を構えて飛び出す。俺もまた大剣を構えて走る。エレナは術を放ってそれを援護する。


「『チェイン』!」


 魔力の弾丸は空中で鎖となり、バジリスクを地面に縛り付ける。自慢の羽もこれでは開けない。

 

 だが、バジリスクはその足を振り上げ、爪を振り下ろした。標的は先行したアーサー。


「うおっ……!重いな……!」


 アーサーは盾でそれを受け止める。だが流石にアンデッドの一撃。今までの魔物とは桁違いの威力だ。アーサーは地面がめり込む程に押さえつけられる。


 単騎ならそこで追撃を受ける。だがアーサー達はパーティだ。俺がバジリスクの側面に回っている。


「はあっ!」


 魔剣エクスカリバーを振りかぶる。大剣の刃は蛇のようになった尻尾に受け止められる。


 硬い……!蛇神以上か!


「チッ!つくづく爬虫類に縁があるな俺は!」


 悪態を着きながら尻尾を弾き飛ばす。だが直ぐに尻尾は振り下ろされ、俺は後退する事になる。


 筋肉の塊である尻尾。長期間ダンジョンで人を喰らって進化したアンデッドともなれば、その速度もそこらのアンデッドとは一線を画す。


 だが、注意は引き付けた。その隙に押さえつけられた足から脱出したアーサー。刃に魔力を集め、赤く輝く炎を灯した。


「『燃え盛る剣ブレイズ・オブ・ソード』!」


 赤い軌跡を描いた刃は太い足を斬りつける。鱗に包まれた尻尾程の強度は無いようで、傷口からどす黒い鮮血が吹き出した。


「おっと!」


 何かを勘づいたアーサーは追撃では無く後退した。先程まで居た場所には重力に引かれた血が降り注ぐ。


 すると、それは異臭と異音をたてながら地面を融解させてしまった。


「毒……というより酸か!血を被らないように!」


 アーサーの言葉に全員が返事をする。すると、バジリスクが再び魔素を込めて叫び声を轟かせる。


 俺は大剣、アーサーは盾、後衛2人はリアのクリア・ウォールでそれを防御する。だが、縛っていた鎖が砕かれてしまった。


「なろぉ……!『魔剣解放(ソードシフト)』第2解放!」


 俺がそう唱えると、大剣が光輝く。そして振り抜いた刃は、鱗に覆われた尻尾を切り裂いた。バジリスクは激しい痛みでのたうち回る。

 

「次は首だぜ」

「俺もいるッスよ!」


 そこに、俺とアーサーは左右から斬りかかる。体勢を崩したバジリスクでは回避は出来ない。絶好のチャンスだ。


「『ギュエエエエッ!』」


 すると、再び魔素を乗せたバジリスクの叫びが木霊する。その叫びで俺とアーサーは怯んでしまった。


 その間に体勢を立て直したバジリスクは、左右の翼を扇ぎ、これまた魔素を乗せた風を起こす。2人は大きく吹き飛ばされ、大空洞の柱に激突してしまった。


「ぐうっ!」

「痛ってぇ……!」


 顔をしかめる俺とアーサー。そこに足の爪が振り下される。


「させない!」


 エレナの放った水の弾丸がバジリスクを一瞬怯せ、2人が離脱する時間を稼いだ。


「サンキューエレナ!」

「助かります!」

「礼なんていい!前だけ見てなさい!」


 エレナの叱咤を受けて2人はバジリスクに向き直る。そしてその猛攻に立ち向かうのであった。後方ではエレナとリアが前衛を援護しつつ、状況の打破の為に思考を巡らせる。


「毒は防いでるけど、不意打ちもできる声の威力は厄介ね……」

「口を縛れますか?」

「できるわ。けどそれも長くは持たないでしょうね」


 そう言うエレナの視線の先には、クチバシでアーサーを攻撃するバジリスク。その威力は凄まじく、チェインで縛っても容易く壊されてしまうのが目に見えている。


「でも封じる策はある。少し前に出る必要があるけどね」


 エレナが前に出るという事は、リアの守りが薄くなるという事。今のリアはアンチ・ドート・フィールドを展開しているので術は1つしか使えない。

 

「私は大丈夫です。エレナさんにお任せします」


 だが、リアも名のある冒険者。リスクを取る覚悟はしている。そして、十分に修羅場も潜り抜けている。だからエレナに自信に満ちた顔で任せると言った。

 

「ん、ありがと」


 エレナもその意を汲んで微笑み、走り出すのだった。


「はあっ!」

「おらぁっ!」


 前衛2人でバジリスクの尻尾、羽の起こす風、鋭い足の爪の怒涛の攻撃をいなす。


「あんた達!一瞬下がって!」


 そして、激しく攻防が繰り広げられる前線へエレナは飛び出すのだった。

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