第1話 魔力無し
朝から魔物出現騒動という物騒な事件があったが、魔術師が直ぐに駆けつけた事で、人々の被害は転けて擦りむいたなどの軽傷のみ。
故に、生徒達は問題無く登校し、勉学に勤しんでいた。俺のクラス……1年1組の生徒は講堂に集まり、歴史の授業を受けている。
この世界は、特別な力……『魔術』によって発展してきた。
200万年前に魔術師の始祖アスターはその御業にて世界を変えた。
地の力は山を穿ち、道を整え国同士を繋いだ。水の力は荒れ狂う川を制しては、雨を降らして木も宿らぬ荒野を潤し自然を育んだ。火の力は外敵を打ち倒し、彼らを恐れさせた。風の力は空気を循環させ、適切な環境を築き上げた。
そして光の力は世界を照らし、闇の力は人の安息に寄り添うものに変わった。
それこそが魔術。万物を生み出し自在に操る力は文明を急速に発展させた。しかし世界は雄大で広大極まる。故にそれらを冒険し、開拓していくのは次世代の使命である。
ここまでが数々の物語の原点にして、偉大なる人類の歴史だ。
そう扇動者のように語る教師。その話をありがたがり、目を輝かせる生徒達。胸中にはそんな存在に自分も成れる、成りたいという期待が溢れているだろう。
だが、後方の長机の席に1人座る俺は聞き流し、窓から外を眺めていた。
「そこ、ジーク。聞いているのか」
悠々と語っていた中年の教師がそれに目ざとく気づき語りかける。それに慌てる事も無くジロリと教師を眺める。すると教師は一瞬体を強ばらせる。
俺の生まれついての切れ長の赤い瞳、常に寄せられている眉間の皺。精悍な顔立ちはパッと見では威圧しているようにも見えるからだ。
ったく、うるせぇな。
そう思いながら不機嫌を全面に押し出した顔で視線を合わせる。
「じゅ、授業はちゃんと聞け!そんなんだから15になっても魔術が使えないのは愚か、魔力も出せないんだ!」
その言葉に教室の生徒達が吹き出す。何を隠そう、俺には魔力がなく、魔術を一切使えない。魔術の成績が評価の大部分を占めるエデン国の学園では、まさに劣等生の中の劣等生だった。
「そうだな……ユウカ、魔術を見せてやれ」
「えっ?わ、私ですか……!?」
教師に指名されたのは、真ん中の席の大人しそうな生徒。銀髪のミディアムヘアの少女……ユウカ・シフォンだ。
そこに周りの視線が集まる。ユウカは困りつつも従う事にした。
深呼吸をした後、いざ魔術を実践する。心臓から生み出し、体外に放出された青い粒子……魔力を掌に集める。そして魔術を想像し、名を言霊として乗せるために呟く。
「『光子』」
するとそれは白く輝く光の粒子となる。辺りを眩く照らすそれに生徒達は驚きの声を漏らし、教師は満足気に頷いている。
「その歳でここまで魔術を形にできるとは……流石、平民でありながら成績優秀なユウカだな」
「あ、ありがとう……ございます」
教師に褒められたが、ユウカは周りの反応とは裏腹にどこか嬉しくなさそうに席に着く。
「見たかジーク。これが魔力の無いお前が絶対使えない魔術。想像力と言霊で魔力に式を与え現実を生み出す力だ。簡単な術も扱えんようでは……卒業した後の進路で国家公認魔術師は愚か、まともな職に着けんぞ?ま、ギルドとかいう誰でも受け入れるところはあるがな」
冒険者ギルド。素性は問わず、日々張り出される依頼を受けて日銭を稼ぐ冒険者の寄り合い。
冒険者の中には英雄と呼ばれる者もいるが、その武勇の多くは魔術によってもたらされている。
戦いに置いても魔術は重要視されるのだ。
漠然と卒業後は冒険者になろうと考えている俺だが、それもかなりの苦難の道だろう。
「ま、どの道定職につかぬものなどたかが知れている。そうならないよう真面目に授業を受けるんだな」
思想を感じる説教が終わり、ユウカ以外の生徒達がまた嘲るように笑う。それに俺はくだらないとばかりにまた窓の外を眺めるのであった。
このように、世界は魔術が根幹にあり、その評価が重視される。その中で魔術が使えないという事は侮蔑の対象になるのだ。
今の時代その存在は希少であった。
人々は皆、先程のユウカのように大なり小なり魔力という力を引き出せる。そのリソースに想像力や言霊で式を与え、現実を生み出す。
それが魔術。
街灯や道路、浄水路などインフラは国によって整備されるが、その多くは魔術を扱う人の力によって支えられている。
魔力はあるが魔術が使えない者が付ける職は魔術を使うものに比べて薄給であるし、魔力の無い俺となると職種は大きく限られる。それ故に無能の烙印を押される事が常であった。
俺は……それを15年の人生で嫌という程思い知らされてきた。
そんなこんなで学校は終わる。放課後に突入した教室では、突然の公開告白が行われていた。金髪の男子生徒……このクラスで魔術の成績2位のカーマ・セナルがユウカの前に立つ。
「ユウカさん!魔術成績トップのあなたにはこの2位の私が相応しい!付き合って下さい!」
「ごめんなさい」
「そんなあああぁぁぁ!」
ユウカはバッサリと切り捨て、カーマは玉砕する。何を隠そう、これで5度目の告白なのだ。ユウカの答えはいつも同じ。
「興味ないです。勉強会があるのでこれで失礼します」
そう冷たく言い放ち、ユウカは女友達と教室を後にする。
「あーあ。また振られてるよ」
「2位でもダメって、やっぱユウカさんは高嶺の花だなこりゃ」
「容姿端麗、文武両道だしな。カーマで無理なら誰でも無理っしょ」
周りは口々に膝を着くカーマをフォローする。しかし本人はまだ諦めていない。立ち上がり、廊下に出て、去っていくユウカの背中に叫ぶ。
「私があなたを抜いて魔術成績1位になる!その時また告白します!」
ユウカはそれを無視して進むのだった。
俺も帰るか。
カバンを持って俺も教室を出る。
「チッ!絶対ものにする……!ああイライラする!」
「まあまあ落ち着けよ」
「ほら、丁度いいカモがいるぜ?」
怒るカーマが取り巻き2人と共に目をつけたのは、下校途中の俺だった。
茜色の光が辺りを照らす屋外。しかし校舎の影では何やら物々しい雰囲気。
日が僅かしか差し込んでいない場所で、俺は2人の生徒に拘束されていた。制服を肌けさせられ、上半身は剥き出し。鍛えられた胸板や腹の6つの隆起が剥き出しだ。そしてその前にはカーマ・セナル。
彼らはこれ見よがしに青い粒子……魔力を身に纏って体を強化している。
「抑えとけよ〜?しゃあっ!『火弾』!」
カーマがそう唱えると、発射された火の玉が俺の腹に直撃する。覚悟はしていたが、熱と衝撃で呻いてしまう。
「見えるとこには当てんなよ〜!」
「魔術成績ナンバー2の操作舐めんなって。そもそもめんどい事になるからしねぇっつの〜」
「ギャハハ!体鍛えたとこで無駄だって教えてやれよ!」
このような事も日常茶飯事。俺は慣れたもので、されるがままになっている。
どうせ抵抗しても拘束を振り解く事さえ出来ない。どう足掻いても勝てない。そう諦観する程、魔力の有無は残酷なのだ。
30分程でカーマ達は反応の薄い俺を嬲るのも飽きたのか、俺を投げ捨てるようにして去っていった。
「ったく……もうこんな時間じゃねぇか」
俺は傷を隠すように制服を整え、保健室によってからゆっくりと学園を後にする。
「お、マナ無しのジークじゃん」
「今日もぼっちでウケる」
「以下にも落ちこぼれって感じだな」
その間も生徒たちに陰口を言われる。だがそれも他所に道を行く。
これが俺……ジーク・ヴァールハイトの日常だった。
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