第17話 次なる任務
柔らかな日差しが冷たい空気を纏う世界を照らす土曜日の朝。
今日も自宅の天蓋付きベッドで穏やかに目を覚ましたあたし。やや気怠い体を起こし、ゆっくりと朝の準備をする。
暫くして、湯気の立つ紅茶を持ってリビングのソファに腰かけた。モダンな雰囲気の室内は静謐に包まれており、衣擦れや食器を置いた音など、あたしの立てた音しか聞こえない。
それはあたしがこの空間の支配者だと示しているようだ。
紅茶を口に運ぶと、絶妙な熱さと芳醇な香り、そして砂糖の甘さがあたしの寝起きで枯れた喉を潤す。
「ふぅ……」
熱の篭った白い息を吐き出し、満足気に口角を上げる。だがそれは束の間。神妙な顔になり、手元に置かれた紙の資料を手に取って眺める。
内容は『エデン南部に位置するダンジョンNo.115への派遣要請』だ。
「ふぅん。ま、偶には冒険もいいわね」
居酒屋ハイト屋に訪れたエレナ。
「ジーベン町のギルド行くわよ。準備しなさい」
開口一番俺にそう述べるエレナ。面食らうが、これもまたいつもの事と割り切り準備するのだった。
2人でモドキ竜車に乗る。
モドキ竜とは、二足歩行に進化したトカゲだ。足は馬より速く、スタミナもそれ以上にある。古くから人に飼い慣らされ、荷運び等に利用されてきた。
唯一の欠点は餌代が高い事だろうか。結構グルメなのである。故に少しお値段が張るが、ジーベン町はエデン国内とは言えアイン町からそこそこ遠い。だから必要経費である。
そうして俺たちはジーベン町の冒険者ギルドに訪れる。
ギルドは冒険者協会が運営する施設。基本的に依頼主から受け取った依頼を冒険者に斡旋する場所だ。
真っ直ぐ受付へ向かうエレナ。その後を俺は着いていく。
「公認魔術師の方ですね。既に彼らは別室にお見えになっております。ご案内しますね」
認定証を見せることでスムーズに事が運ぶ。そして別室に行くと、そこには男女2人が待っていた。
1人は白銀の鎧と盾、そして剣を携えた20代くらいの銀髪の男性。その姿はまるで騎士のよう。
そしてもう1人。騎士の横には、男性に比べるとやや年若い、杖を手にしたこれまた銀髪の女性。銀髪はお尻付近まで伸ばし、白い衣服に身を纏った神官が居た。
「初めまして。アーサー・リターナーっス。タメ語でいいっスよ。俺もそうするんで」
「お初にお目にかかります。魔術師様。私はリア・リターナーと申します」
同じ姓を名乗る2人。しかし口調も雰囲気も対照的に見える。それに俺たちは挨拶を返す。
「エレナ・ライアよ」
「ジーク・ヴァールハイトです」
「エレナさんは魔術師だと聞いていますが……そちらの黒髪の方は?」
「見習いよ。こいつが魔剣を使うからよろしく」
「未熟者ですが、精一杯頑張ります」
意気込みを述べて俺は2人の冒険者に頭を下げる。
「そうでしたか。よろしくお願いします」
「んー?だったらエレナさんはサポートに回る感じっスか?」
魔剣使いの魔術師として呼ばれたのはエレナなのだから、至極当然の疑問だろう。
「ご心配には及ばないわ。あたしの魔術でも十分アンデッドは倒せる」
「そうでしたか。兄が失礼しました」
「すんません。でも頼もしい限りっス」
非礼を詫びて頭を下げる2人。そう、アーサーとリアは兄妹だ。
「別にいいわ。リターナー兄妹……ランクAの冒険者として誉高いと聞いているわ」
「ご存知だとは……恐縮です」
「まあ俺達有名出しな〜」
「アーサー。失礼ですよ」
「これはまた、失礼しました」
おちゃらけるアーサーを窘めるリア。そのやり取りから仲の良さが伺える。
俺はモドキ竜車の中で2人の冒険者の事を教えられていた。
リターナー兄妹は10年前……丁度今のジークと同じ15歳で冒険者になった双子の兄妹だ。2人は初めてのダンジョンから頭角を現し、僅か3年でランクFからランクAまで駆け上がった。
冒険者の階級はF〜A。EXなんてのもあるが、少々特殊なのでAが最上級。
通常、ランクCで生涯を終えて上等なのが冒険者だ。ランクAともなればが可能であり、国が囲う程の人材。
そんな位階に、この兄妹は3年で至ったのだ。
その最速記録は未だ誰にも抜かれていない。それだけでも快挙ではあるのだが、本質はそこでは無い。
2人の真骨頂は致命傷を受けた事が無いという事。
2人はダンジョンにおいて最も難しい事……無事に帰還する事を果たしている。当然ながら、それはダンジョンのランクが上がる程難易度は上がる。にも関わらず……どんなダンジョンに挑んでも無事に帰ってくる。
撤退する時もあるが、それでも情報を持ち帰る。そして対策を施し次は攻略する。勿論、2人はただの一度も致命傷を負った事は無い。
それ故に付けられた異名は絶対帰還者。
今日はそんな2人との共同任務だ。
「さて、本題に入りましょう」
4人が集まる事になったのは、ダンジョンNo.115が長年未踏破である為だ。
「ジークはダンジョン初めてだから説明するわ。ダンジョンは強力な魔物……所謂ボスがより強くなる為に生み出す迷宮。様々な宝物で冒険者たちを招き寄せ、それらを餌に奴らは強くなる」
「基本だよな。冒険者の話は店に居たら聞こえるしこれぐらいは知ってる」
ハイト屋は比較的冒険者が多く訪れる。だから冒険の成果や反省などをしている客の話は聞こえてくる。
俺自身、卒業後の進路は冒険者と考えていた事もあるが。
「そう、勤勉ね。じゃあ本題と関わる事ね。ボスが生み出した迷宮や中の魔物は眷属であり、人を殺すとその経験値がボスに吸収されるわ」
迷宮もその中を徘徊する魔物も、元を辿ればボスの一部。故に、それらが人を殺すと戦闘経験や倒した者の心を吸収できる。
つまり、ボス自身が戦わずとも成長できるのだ。
「そして長期間未踏破と言うことは、それだけ長くダンジョンは残り、多くの冒険者の命を取り込んでいる」
「なら、ボスは最上位のアンデッドになっててもおかしくは無いな」
「そうよ。魔剣使いの魔術師は町に出るアンデッドを倒すのが仕事。けど、それが遠く離れたダンジョンに派遣されるのはこれが理由よ」
今朝エレナが見ていたらしい資料は、その出動要請に添付されていたものだったみたいだ。
「そしてアンデッドに成長したボスは高確率でダンジョンを破壊し、眷属と共に外に出て来ます」
「迷宮破壊ってやつっス。こうなったら周辺の被害は計り知れないっスよ」
リターナー兄妹がエレナの説明に付け加える。並の冒険者や魔術師では対処出来ないアンデッド。それが放たれればどうなるかは明らかである。
俺は真剣な表情で説明を咀嚼する。
「それを何とかするのが今日のあたしらの仕事って訳。分かった?」
「ああ、分かった。ダンジョンは初めてだけど、アンデッドを倒す事は変わらないしな」
「ええ。それに、ダンジョンに精通した仲間がいるわ」
エレナの言葉にリターナー兄妹は力強く頷く。
「そんじゃ、先ずミーティングっスね。資料をどうぞ。こっちが帰還した何人かがマッピングした地図です」
アーサーが仕切り、今回のダンジョンに関する資料を机に広げる。
ダンジョンNo.115。
地下大空洞型ダンジョン。
ゴブリンなどに加え、鉱物系の魔物が多数。
「地下に進んでいくダンジョンね」
「はい、最大踏破記録は地下25層。私達が狙うボスの部屋はそれ以上の階層と考えて下さい」
「そこまでは地図があるから助かるな。それと鉱物系の魔物……水晶に覆われたクリスタルワームとかか……」
「そうっス。でもここの魔物は他に比べてかなり硬い」「近接戦では武器や防具への高度な強化魔術は必須と考えください」
「眷属が人を倒せばボスが強化される。そしてボスが強化されれば眷属も強化されるわ。だからここのは見た目以上の力を持っていると思いなさい」
ダンジョンの魔物は町外れなどに出る魔物とは一線を画す。それは多くの人が犠牲になり、長く残った迷宮ほど顕著になるのだ。
「でも所詮は魔物。魔剣には殆ど関係ないわ。まあ魔物の生態とか覚えておいて損は無いわね」
「分かった。そうする」
「次は陣形について話しましょう」
そうして俺たち4人はダンジョンの資料とにらめっこし、しっかりと打ち合わせをするのだった。
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