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第14話 思惑

 俺とエレナが目を開けると、そこは牢屋のような場所であった。体も縄で固く縛られている。だが俺たちに驚いた様子は無い。


「よし、成功だな」

「そうね。なによりだわ」


 そう、何を隠そう俺たち2人は演技をしていたのだ。


 屋敷を出た後の事。


「わざと捕まる?」

「ええ。人を供物として捧げるなら儀式を行う筈よ。なら道中襲われる可能性が高い」

「それを利用して蛇神様の所まで連れて行ってもらうって訳ね」


 教えてもらった場所はブラフで、調査員が失踪した事から襲撃される可能性が高いと感じたエレナ。だからあえて生贄となり、確実に蛇神様と対面する事にしたのだ。


 そして現在に至る。


「やっぱり村人達はおかしかったな。濃い魔素の気配を感じた」

「ええ。多分魅了(チャーム)の魔術ね。村人を自身の手駒にしてる。供物を捧げてから力が上がったのも、魅了して役に立つように強化してるんだわ」

「なるほどな。殴られた時も痛かったもんな〜」


 後頭部をさするジーク。それに呆れた溜息をつくエレナ。


「よく痛いで済むわね。あたしは魔術で強化してたってのに……相当な石頭ね」

「そうか?まあいいや」


 エレナの言葉を流す。そしてふと、村人達の事で疑問が湧いた。


「そういや、村人を強化してるのになんで疲れてる人が居たんだ?」

「ああ、それね。多分振り戻しね。言ったでしょ?素人に魔術は負担が大きいって。幾ら一時的に強化されても肉体が負荷に耐えきれず悲鳴を上げてる。魅了もいつまでも続く訳ないしね」

「活力剤みたいな、元気の前借りみたいになってるのな」


 活力剤。薬師が作る、様々な成分を含んだ液体薬。飲むと文字通り活力が湧いて来る。しかしその効果は一時的。


 効果が切れた後は軽く倦怠感がある。そしてその倦怠感は活力剤を短時間に飲めば飲む程大きくなる。しかも効果も落ちる。決して飲むと24時間ずっと元気……という訳では無い。


 故に元気の前借りなのだ。


「まあそんな事を気にしてくれる相手じゃないわね」

「アンデッドだもんな」


 そうしていると、2人の牢屋の前に何人かの村人がやって来る。


「魔術師様!」


 だが、現れたのはとても操られているとは思えない男性だった。


「今助けます!」

「ま、待ってくれ!あんたは一体……?」


 俺は牢の鍵を開けようとするそれを制止させる。作戦の事もあるし、まず訳を聞かねばらならない。


「私はダニエルと申します。皆様を連れてくるよう言われてますが……そんな事しません」

「なんでだ?」

「実は、皆がおかしくなっていく中……自分だけが何故か正気だったのです」

「有り得るわね。恐らく魔術への耐性が他の人より高かったんでしょう」

「なるほど。でもなんで危険を冒してまで俺らを?」 


 率直な疑問だ。それにダニエルは顔を伏せ、懺悔するように述べる。


「私は……数週間前に来た魔術師の方に蛇神様の事を伝えました」

「っ!調査員の事か……」

「時期も合うわね」


 頷くダニエル。調査員が話を聞いたのは彼だったようだ。


「みんな、みんなおかしくなっていったんです……!あ、あんな……怪物を神様だと信じて、村人の中から生贄を差し出すなんて……!」

「調査員の報告にはそんな事……」

「言えなかったんです!だって、それがバレたら、私が生贄にされる……!」


 ダニエルは声を荒らげる。その顔は汗が滲み、恐怖で引きつっている。


「みんなが違う中で、自分だけが正常……なのに、それが段々……違うのは自分なんじゃないかって思えてきて……!どうしたらいいのか分からなくて……だから、思い切ってみんなに言ったんです!こんなのおかしい!辞めようって!でも……」

「ダメだったのね」


 恐怖に震えながらゆっくりと頷くダニエル。


「勇気を出したんだな」

「はい……でも、みんなは害虫を見るように私を見て……蛇神様の前に連れていきました」

「私達みたいに……」


 そうして目の前にした怪物に睨まれたダニエルは死を覚悟した。しかし、与えられたのは死では無かった。


「蛇神は、村人は手駒だから、生贄は外の人の方がいいって……言ってました。だから、私は信仰があるって、外に伝えろって……力が貰えるって噂を流す役目を与えたんです。そうしないと、操られてる妻と子供を供物にするって……!」


 ダニエルは脅されて伝聞役にさせられたようだ。


「なあ、エレナ。アンデッドがそんな事させる知能あるのか?」

「個体によってはあるわ。奴らは心を取り込み、それを糧に知能を付ける。それはまた人を襲い、心を取り込む為だけに使われるけどね」


 今まで倒してきたアンデッドはまだ殆ど心を取り込めていなかった個体しか居なかった。だが今回は違う。人の心を喰らい、成長した個体だと言うことだ。

 

「そして、2回目に同じ魔術師が訪れた時……村人が彼を捕えました。それを、私は……恐くて見ている事しか出来なかった……!」


 彼が懺悔するように語ったのはそういう理由だったのだ。俺とエレナは卑劣で悪辣な所業を聞いて、ますますアンデッドへの怒りを募らせる。


「安心しなさい。もう大丈夫だから」

「ああ、そうだ。俺達は蛇神を倒しに来た。奴が倒れればみんな元に戻る。だろ?エレナ」


 俺の言葉に深く頷くエレナ。魔術は術者が死ねば解ける。だから操られている人もそうなるだろう。


「ほ、本当ですか!?」

「ええ、そうよ。だから、あなたは私達を蛇神の元に連れていくだけでいい」

「拘束もなんとかなるから安心してくれ」

「わ、分かりました……!」


 そうして俺たちは牢屋から出され、神殿の奥へと連れていかれた。その間の廊下には村人達がおり、太鼓を叩いたり手を鳴らしていた。


「供物を捧げる儀式ね。しかも村人の魔力が吸われている。奥の扉までね」


 青い魔力の粒子が進行方向にある仰々しい石造りの扉まで流れている。

 

「村人の全部は自分のもってか。気に入らねぇな」


 操られている村人達を眺める。蛇神への並々ならぬ怒りを灯しつつ、作戦を円滑に進める為に今は堪える。


 そして扉が開かれる。中には白い肌の異形の存在。上半身が人型だが、顔は下半身と同じで蛇の姿をしたアンデッドが居た。


「サガレ……」

「はっ!ごゆるりとご堪能ください!」


 蛇神の言葉を受けて下がる村人。そのまま石の扉を閉じる。俺とエレナは密室に蛇と閉じ込められた。


 蛇神は遠巻きに2人を眺めている。


「もういいよな?」

「ええ」


 そして俺たちは顔を見合わせて頷き、縄を引きちぎった。そのまま俺は懐から取り出した指輪をはめる。


「来い、『エクスカリバー』」

 

 眩い青白い光に包まれ、黒衣にマントを羽織った姿に変身する。そして大剣となった鈍色の魔剣を手にする。


「抗ウカ……!来イ!村人ドモ!」


 邪悪な魔素を纏い、蛇神は声を発する。すると石の扉が勢いよく開き、操られた村人達がゾロゾロと押し入ってくる。


「村人は任せなさい!あんたはアンデッドを!」

「任せろ!」


 俺は魔剣を構え蛇神へ、エレナは背を向けて魔力を纏って村人に対峙する。ここにまた1つ、魔術師とアンデッドの戦いが始まるのだった。


 

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