第11話 査察官現る
1週間後の土曜日。
柔らかな朝日がカーテンの隙間から漏れる。それを受けたエレナは、自室の天蓋付きベッドで目を覚ますのであった。
「ふぁ〜……えーと、8時ね。そうよね8時だわ」
あたしは眠気を引きづるように欠伸をし、ポツリと呟いたのは時計の事だ。先週は時計のズレのせいで早くに出てしまった。なので帰ってからしっかりと調整した。それでも不安で、一応何度も確認している。
遅刻では無いけど、このあたしがうっかりなんてありえない。それをジークに指摘されるのもなんか癪だわ。
ジークが居れば相変わらずプライドが高いなぁとか言うかしら?まあ事実だけど。だがそれ故に、同じ失敗は犯さない為の対策と努力を怠らない。それが私の高い実力の裏付けでもある。
そんな事を朝っぱらから考えつつ、目覚めの紅茶を用意する。そしてふと黒板を見る。そこには自身が考えたジークの育成計画のようなものが書かれている。
育成計画と言っても大まかなフローチャートのようなものだ。それを眺めながらジークと1ヶ月と少しの働きを思い返す。
認識阻害の忘却の首飾りをつけてからは何度か魔術師の前でアンデッドを倒した。けどその後特に報告は無いし、探りを入れてもジークに関する情報は無かった。
記録を閲覧しても全てあたしが倒した事になっている。しっかりと首飾りの効果が発動しているようで良かったわ。
「アレから特に問題は無いわね。そろそろ次の力の……」
そんな時、玄関のドアのノッカーを叩く音が聞こえた。あたしはこんな朝に会う約束をした人は居ない。だから警戒しつつドアを開ける。
「エレナちゃんおはよう!」
そこには、赤毛をお下げにして丸い眼鏡をかけたローブの女性が居た。彼女に見覚えがある。
「ローザさん!?ど、どうしてここに!?」
彼女はローザ・ラッソ。私の先輩魔術師だ。そしてあたしと同じく魔剣を所持する数少ない人物。
「私、少し国外に出てたの。帰る時にこの地区を通りがかったから、エレナちゃんの顔見たいな〜って思ってね?元気してた?」
「そ、そうだったんですね。元気ですよ。問題ありません」
良かった〜!秘密がバレたのかと……!
突然の来訪に驚いたが、ホッと胸を撫で下ろす。だがそう簡単に済む訳では無かった。
「そうだ!今日はお休みなの!だから先輩として、エレナちゃんがちゃんと魔術師できてるか見たいわ!」
「え、ええ!?」
「これはもう決定事項よ!久しぶりに会う可愛い後輩を査察してあげるのも先輩の愛だから!」
強引すぎ!っていうかまずいまずいまずい!どうしよう!?
査察……つまりあたしの魔術師としての仕事っぷりを見るのだ。それはアンデッド退治も含まれる。そうなると魔剣を使えないあたしは即疑われてしまう!
秘密がバレるのも時間の問題……!
このままじゃ秘密がバレて……最悪死刑!それは避けないと!
「エレナちゃん?大丈夫?さっきから固まってるけど?」
「あ、ああ!ごめんなさい!さっきまで寝てましたから、ちょ〜っとボーッとしてて……」
「ああ、そういう事ね。こちらこそごめんなさい」
「と、取り敢えず寝巻きなんで着替えて来ますね!あとリビングも片付けるんで少々お待ちを!」
そう言って扉をしめ、家の中を片付ける。色々書かれた黒板も、オフの時に景観を損なわないように着けているカーテンで覆い隠す。
その後、着替えながらどう乗り切るか考えていた。
「っ!そうよ!コレよ!」
そして、下着姿でいいアイデアが思いついたのであった。
居酒屋ハイト屋。
俺はちょうど朝食を済ませた所だ。今日は朝からジョギングでも行こうか考えていた。すると入店のベルが鳴る。入ってきたのはエレナだ。
「あ、おはようエレナ」
「お、おはようジーク。あの、これからちょっと付き合ってくれない?紹介したい人がいて……」
「君がジークくん!?初めまして!ローザです!」
エレナの横から現れたローザという女性。彼女は食い気味に自己紹介をする。当然ながら俺はそれに困惑する。
「えと、初めまして……ジーク・ヴァールハイトです……」
「うん、いい名前ね!しかも体付きも中々……さすがストイックなエレナちゃんのお弟子さんね!」
「弟子……?」
「そうよ。あんたはあたしの弟子なんだから、ちゃんと自覚持ちなさいよ」
弟子!?初耳なんだが!?
預かり知らぬ内に弟子となっていた事実。それに更に困惑する。
エレナと俺は準備をするとローザに言い残し、2階の部屋に移動した。
「弟子ってどういう事だよ!?」
「それを今から説明するのよ!そこに座りなさい!」
怒りながらベッドに座り足を組むエレナ。俺は何故かその前の床に正座させられる。傍から見たらどっちが部屋主の姿か分からないだろう……。
「さて、あの人はあたしの先輩であるローザ・ラッソさん。なんやかんやあって、あたしの魔術師っぷりを査察する事になったわ。しかも魔剣を使う程の実力者。首飾りも役に立たないと見ていいわ」
「ええっ!それってやばいんじゃ……!」
驚きで顔を上げる。だが、ちょうど目の前に足を組むエレナの姿があり、直ぐに目を逸らす。
足を組んでいるから一瞬スカートの中の白の下着が顕になっていた。
エレナは視線の動きの意味に気が付き、頬を赤くする。
「み、見んな!」
「座ったのも座らせたのそっちだし!」
「うっ!そうだけどぉ……!」
エレナは睨みながら足を崩してスカートを抑える。それでやっと俺はまともに彼女を見る事が出来た。
「はあ……まさか魔剣使いが、わざわざ担当地区外に訪れるとは……予想外すぎるわ」
「で、どうすんだよ?」
「一応考えがあるわ。あんたを弟子にして私が育ててるってことにするの」
魔術師の育成には幾つかパターンが存在する。
まず、魔術師には国家公認魔術師とフリーランスの魔術師がある。前者は国からの固定給+様々な特権が付く。その代わりにあまり国外へ行く事は無く、街や国境などの守護を任される事も多い。
後者は固定給や国に認められた特権などは無いが、受ける依頼は選べるし、縛るものが無いので自由に世界を渡り歩ける。
次に、魔術師になるパターン。
①中央魔術学院を卒業する。
基本的に魔術師は中央都市にある魔術学院を出てようやく国家公認魔術師になる。だがもちろん、そこから国に属さないフリーランスの魔術師になる者もいる。
②魔術師に弟子入りする。
フリーランスの魔術師に多いパターン。彼らは既存の魔術師に弟子入りする事で魔術師のいろはを習い、お墨付きを頂いて魔術師となる。もちろん、ここから①のように魔術学院に入り国家公認魔術師になる者もいる。
③完全独学で魔術を学んでなるパターン。
これはかなり希少な存在だ。初めはこの道で進むが、大概は力足りずに命を落とすか、弟子入りするか、そして魔術学院へ入るようになるか。
だから、才能がある者しかこの道は進めない。
「その内の②って事ね」
説明を受けた俺の反応にエレナは頷く。そして具体的な設定をすり合わせていく。
「ある日、偶然出会ったあんたが魔剣に触れた事でその異常な素質が判明。それによりあんたにだけ魔剣の貸し出しが可能になった。そして魔術が使えなかったのは魔剣にしか適正がない特異体質だったから。それっぽい理屈だと思わない?」
「確かに……特異体質なら無いとは言い切れないもんな」
特異体質。それは特定の魔術しか使えない一族、一世代のみ発現した特異なる魔術を使う者をそう呼ぶらしい。
古くからの伝承にも記されており、魔術師の始祖アスターも、後の人類を超えた力を持っていたのでその仮説が立てられている。
「そして、あんたがどうしてもって言うから私に弟子入り、魔剣を貸し出して実戦の経験を積ませている。ホントにやばい時しか私は魔剣を使わない。そういう体で行くわ」
「なるほど……どうしてもって部分がアレだけど。あ、そうだ。記録にはエレナの事しか無いのは?どう誤魔化す?」
「あたしが見習いの記録なんか残すと思うかしら?私の魔剣だから実質私の功績だしね」
「……そうだな。うん、それでいこう」
一通り説明を受けた俺はエレナの提案に納得して頷く。
「でもやっぱ騙すのは気が引けるな……」
「騙すのが嫌なら、後で真実にすればいいのよ」
「えっ?」
「ほら、怪しまれるからそろそろ行くわよ」
エレナはそそくさと部屋を出て1階へと降りていく。俺は1人部屋でさっきの言葉の意図を考える。
それって、正式に俺がエレナに弟子入り……って事?
俺はエレナから出るとは思えない言葉を想像する。しかし、時折見せる素直な態度を思い返し、本当にそう思ってるかもしれないとも考える。
だが人の心が読める訳では無い。考えを察してやれる程の魔術の知識も経験も無い。俺たちはまだ出会って1ヶ月そこらなのだから。
答えはまだ出ない。だから、一旦それを頭の片隅に追いやり、彼女の後を追って階段を降りるのであった。
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