第10話 錬金術
報酬を渡された俺。用はそれだけのようでエレナは踵を返す。だがその動きは止まり、また俺に向き直った。
「ああ、そうだ。あんた、来週の休み朝から付き合いなさいよ」
「ん?ああ、いいけど。何するんだ?」
「秘密。迎えに来るから8時には起きてなさいよ」
そう言って部屋を出るエレナ。すると、バッタリとユウカと鉢合わせた。タオルを首にかけており、艶のある銀髪はシットリと濡れている。そして手には牛乳瓶。お風呂上がりに至福の1杯を……といった所だろう。
「ど、どうして……貴方がジークくんの部屋から……」
ユウカの目は大きく見開かれ、動揺した様子が一目で分かった。
「こんばんは。ユウカさんだっけ?色々あるのよ。私達は」
「い、色々……!?」
エレナのどこか煙に巻くような物言いが意味深に聞こえたのか、ほんのり顔を赤くするユウカ。
「それじゃ、またねジーク。おやすみ」
「あ、ああ。おやすみ」
エレナは俺とユウカに軽く手を振り、1階への階段を降りていくのだった。廊下には俺とユウカの2人だけが残される。
「じ、ジークくん」
「なんだ?ユウカ」
「色々ってなんですか?」
ドスの効いたような低い声で問いかけるユウカ。普段おっとりとしたような琥珀の瞳にも凄みがある。
うーん、魔術師の事は言わない方がいいし……でも嘘はつきたくない……。
共犯であるエレナとの関係は詳しく話す事は出来ない。しかしユウカには納得する説明がいる。俺の心の中で腕組みして考える。
「えと、魔力が無いだろ俺?それでも魔術が使える手立てがあるみたいなんだ。だからその事について色々聞いてたんだよ」
魔剣は魔力の無い俺も結果的に使えたし、エレナは魔剣に詳しい。だから嘘では無い範囲で曖昧に答える。それが俺の答えだった。
中途半端なそれをユウカに伝える事に心を痛めてはいるが。
「そ、そうなんですか!?そんな手段があったなんて……」
「ああ、エレナはエリートって自称するくらい魔術に詳しいからな」
それでも納得してくれそうで胸を撫で下ろす。
「そうなんですね……すみません。てっきり……」
「てっきり?」
「い、いえ!なんでも、ないです……!それじゃあ、失礼します!」
何故かユウカは焦った様子で急いでその場を立ち去るのであった。
「なんだったんだろ?ま、いっか」
一先ずエレナとの秘密をバラさずに済んだことを喜ぶのであった。
次の休み、俺は店の1階まで降りると既にエレナは待っていた。30分も前にも関わらず。
「遅い!」
「いや、8時には起きてろって言うから7時半に起きてきたんだが……そっちが早いんだよ」
「え?嘘!?時計!見せなさいよ!」
エレナは驚き辺りを見回す。すると壁に立てかけられた時計を眺める。時計の針は確かに7時30分を指し示している。
「嘘……じゃあ、あたしの家の方の時計が狂ってたって事!?」
「そうじゃねぇか?」
「ぐぬぬ……!はぁ……まあそういう事なら、誰も悪くないわね」
ぶつけようの無い怒りを収めたエレナ。その姿が俺は意外だと思う。そして同時にポンコツな所もあるんだな……と親しみやすく感じる。だがその事を伝えて逆鱗に触れると良くないと考えて黙っていることにした。
「それで、今日は何するんだ?」
「言ったでしょ。付き合って貰うって。またあたしの家に来なさい。その前に買い物するけどね」
そうして2人は出かけるのであった。東に馬車で移動する事1時間。やって来たのは隣町であるツヴァイ町。
エデン国は中央都市をグルっと囲うように出来た幾つかの地区に分かれている。俺たち2人が住むアイン町が第1地区なので、第2地区のツヴァイ町と隣接しているのだ。
9時を回った町には既に活気に満ちている。
その人混みの中を進んでいると、噂話が聞こえてきた。
「知ってる?最近現れる『無貌の英雄』」
「知ってる!確かに助けられたけど、その姿だけがサッパリ分からない人だよね!」
「そうそう!一体どんな人なんだろう……?」
「絶対イケメンよ!助けられた私が断言する!」
「ホントに〜?覚えてないんでしょ?」
「そうだけどぉ!」
そんな和気藹々とした会話を聞いてエレナはニヤニヤしながら俺を眺める。
「無貌の英雄ですって?」
「な、なんだよ?」
「いやぁ〜?随分頑張ってるなって思っただけ」
「はいはい、英雄なんて柄じゃねぇっつの」
からかわれて拗ねる俺を見てエレナはクスクスと笑う。
「フフッ、ごめんごめん。ちょっとからかい過ぎちゃったわね。でもあんたが頑張ってるってとこは本音よ?」
「そうか、そこはありがとな」
そんな話をしながらやってきたのは薄暗い木造の店だ。よく分からない動物の皮や緑の液体、黒ずんだ木の破片やほんのり輝く鉱石など様々な物品が売っている。
「これとこれとこれ。あとこれもね」
手馴れた手つきでこれまた様々な物品を手に取っていき、ササッと会計を済ませるエレナ。
「はい、持って」
「お、おう。これ何に使うんだ?」
「魔術よ。これからあんたに必要になるものなんだから、あんたが持つの」
「なら俺が金出すよ」
「そう?じゃあめんどくさいから最後にまとめて請求するわ」
俺は納得して紙袋を受け取った。そしてまた別の店へ向かい、同じ事を繰り返す。
3時間後……計5回それを繰り返した結果、俺の両手は紙袋でいっぱいになったのだった。
そしてアイン町に帰ってくる。帰路に着く中、ふとエレナは足を止めた。
「あれ?こんな所にお店あったかしら?」
「ん?ホントだ。見た事ない看板だな」
2人が足を止めたのは古めかしい雰囲気の店だ。
「魔術師用の店ね。魔力を感じるわ」
「……ホントだ」
外からでも分かるその気配で察する2人。試しにそのまま入って見た。
「お?いらっしゃい。この前ぶりやね。訳ありのお2人さん」
「あんたは……!」
「ウルシ・キース!」
出迎えたのは、訛りのある口調、ローブを着た黒髪の男性。俺とエレナが初めて会った日、負傷したエレナを治療した魔術師ウルシ・キースだ。
「最近ここで店やる事になってん。なんでもあるで」
ウルシに促されて店内を見回すジーク達。
「驚いた……今日買ったもの全部あるじゃない」
「マジか……凄いな。仕入れるの大変そうなのに」
「訳あり魔術師のワシやけど、昔のコネがあってな。お陰で品揃えはバツグンやで。今後ともご贔屓にしてくれや」
思わぬ再会を果たした俺達。どこか胡散臭い店主だが、同じ町にいい店ができるのはエレナに取って願ったり叶ったりだ。
そんなこんなで店を後にし、今度こそ2人はエレナの家に帰ってくる。
「地下まで運んでもらうわよ」
「あいよ。って地下室あったんだな」
「ええ、そこに工房があるのよ。そこで薬を調合したり鍛錬したり色々できるわ」
そう言ってエレナは棚を退ける。するとその下に地下室への入口があった。
そこを降りていくと、上にあった建物の敷地以上のだだっ広い空間があった。
その一角には、店で見たような物品や本棚、大釜などが並べられている。
「あたし直々に魔術を見せてあげる。錬金術よ」
釜に水を貼り、火をつけて沸騰させる。そこに買ってきた物品を加えていき、ドロドロに溶けて真っ黒に染まった液体を混ぜていく。
「何を作るんだ?」
「あんたに必要な道具を作るわ。まあ見てなさいって」
エレナが入れたのは魔力を帯びた物品。素材と魔力同士を混ぜ合わせる事によって様々な物を作り出す。それに自身の魔力を投入して調整し、望んだ方向へ導く。
そうして物質を生み出すのが錬金術。
釜の熱で汗が垂れている。しかしそれをぬぐう事もしないエレナ。それ程までに集中しているのだ。
1時間後、釜の中のドロドロの液体が光り輝く。
「おお……!すげぇ……!」
「さあ、来るわよ!」
輝きが増していき、やがて辺りを包み込む。すると……釜の中には銀色の五芒星の首飾りが生まれたのだった。
それを手に取って様々な角度から確認するエレナ。
「よし、いいわね。つけてみなさい」
「おう」
俺は言われた通り受け取った首飾りを付ける。すると、ジーク頭の中に情報が流れ込んでくる。
これは……ランクAの認識阻害の魔道具『忘却の首飾り』!使用者の存在をより強く忘却する術式が施されている……!
「凄いなこれ……!」
「ええ、あたしが望んだのは魔術師さえ騙す認識阻害の魔道具。ランクBの護符を見抜く一般魔術師はそこそこいる。だからそれ以上の力であんたの存在を隠す物」
より確実に秘密を隠す為の魔道具。それが『忘却の首飾り』だ。
「アンデッド狩りの時も少し経てばあんたの存在が消えて、代わりに近くに居たあたしが倒した事に記憶修正されるでしょうね」
「そうか……ありがとな。エレナ。ホントすげぇよ」
「ふ、フン。これぐらい当然よ……」
俺のの素直な感謝と尊敬の言葉を受け取ると、エレナは顔を赤くする。満更ではないのもまた見て取れた。
「さ、さて!それじゃ請求するわよ!材料費にあたしの作業代を足して……しめて金貨300枚ね」
「おお……そんな高いのな……」
貰った報酬の金額の半分以上の額に少し驚愕する。自分が運んでいた材料にそんな額があった事実もまたそれに拍車をかける。
「どうしても嫌って言うなら……まけてあげてもいいわよ?」
「いや、俺の為にしてくれたんだ。払うよ」
「べ、別にあんたの為じゃないわよ!あんたとあたしの共犯関係がバレたくないってだけ!そこんとこ肝に銘じておきなさいよね!」
また照れ隠しに大声をあげるエレナ。そんな素直じゃない所も俺は見慣れてきたと感じるのであった。
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