第12章 政治の話題(由美子の家庭では)
第12章 政治の話題(由美子の家庭では)
どうも、本質とはかけ離れたところが目立つことで批判され、地下でうごめくものが見過ごされてしまうということが、日常では多々あるように思う。
民主主義は国民を選ぶというが、私たちが賢くなろうとしないと、私たちまで悪魔に魂を売ってしまうことになりかねない。
松下幸之助は、ある雑誌で「国民が政治を嘲笑しているあいだは嘲笑いに値する政治しか行なわれない」「民主主義国家においては、国民はその程度に応じた政府しかもちえない」という二つの言葉を残していると言われている。
いろいろな情報を記録してあるスマホの画面を見ながら担任の村上が教えてくれたその言葉が気になる。政治なんてあんまり興味がなかったけど、小学校5年生の自分にとっても、それが世の中で重要な位置を占めていることに由美子はなんとなく責任をもたなければいけないような気がしていた。松下幸之助は伝記で見たことがある。見たと表現したのは小学生向けのマンガ版だったから。松下幸之助は日本を代表する経営の神様の一人だ。政治が企業にとっても、国にとっても切り離せないものであることは感覚的に分かる。政治って?やばい、また分からないことが増えてきた。
由美子の家にはいろいろと掟がある。夕食の時はテレビでニュースが流れていて、食事しながらの会話が許されているのである。会話は学校ネタが当然多いのだが、ニュース番組をきっかけとした話題も多く、結果として結構大人の話になっていくのだ。リベラルな話題も由美子の年齢してはかなり多いと言えるだろう。逆に今流行の歌とか、ファッションなど芸能界については疎くなる。友達との会話が噛み合わなくなるので、ちょっとこの掟は苦手ではあるが、読書のベースとなる知識を得るには悪くないと思っていた。読書も人を選ぶのだ。ベースとなる知識がないとやっぱり読書も楽しめない。そう、話題に関して何らかの知識があるとそれをきっかけに理解できることが多くなるのだ。結果として読書は面白くなって楽しめる。
ニュースは聞いておしまいではない。その話題からいろいろと発展していくのだ。父も母も国立大学出である。大学生というと「やっと遊べる的な人のイメージ」が浮かんでくるんだけど、二人とも真面目にきちんと勉強してたらしい。大学にいくのが目的ではなく、勉強が面白くてもっと勉強したいと思ったからと、大学は手段だったようだ。その後、父は大きな機械メーカーで仕事をしていたようだが、じいちゃんが亡くなってその工場を継いだというよくあるパターンだ。じいちゃんは根っからの職人で技術一本で勝負してきた人だ。昔ながらの工作機械を魔術師のごとく操り、この機械でなんでそんな物が作れるの?といった具合に。父は、その点合理的で、技術はもちろんなんだけど、道具にもこだわった。新しい素材と新しい技術にはそれに見合う機械が欲しいとお金は工作機械等にほとんど使い、工場の建物はじいちゃんの時とそのままだ。つまりボロ屋で結構雨漏りもするが、父は自分で屋根に上がって直してしまう。
母は心理学とかを学んできたらしいが、教員の道へ進んだということだ。しかも小学校らしい。しばらく学校に勤めていたらしいが、父が工場を継ぐことになって思い切って学校を辞め、父を手伝っているらしい。全く違うように思える父と母の道だが、どうやって出会ったのかは世界の七不思議の一つだ。
「ねえ、おとうさん、今の政治ってどう思う?」
由美子はニュース画面に映る内閣総理大臣の話を見ながら箸を止めた。
「由美子が聞きたいことは、今の総理大臣とか政府とか、好きか嫌いかってことじゃないな。テーマが広すぎないかい?」
と言いつつ、
「残念ながら、今の総理大臣には反対の部分が多いな。政府もそうだな。これは、私だけでなく、多くの国民がそう思っているんじゃないか?いくらなんでも次の選挙では◯◯党は大敗するだろうな。かといって、その後を任せられる政党がないのが、もっと心配なんだけど。由美子は何を考えていて、どんな情報が欲しいのかな?」
そこまで言うと父はご飯をまた一口頬張った。
「今の総理や政府、政党とかに反対って言うよりも、なんか、政治が政治じゃなくなっているような、何か違うんだよなあ。」
由美子もご飯を一口頬張る。
「なんかね、政治が国民の願いを聞き入れ、でもたくさんの意見があるから調整して、国民のためにはこれだってことを言っていない気がするの、今の政治。」
「ほう、由美子も一丁前に政治の話が出来るようになってきたか。頼もしいね」
「今回、先生と読書感想文コンクールに挑戦しようってことで、このところ毎日学校に通っていろいろなことを先生と話し合っているの。フォン・ブラウンのことでね。」
「『悪魔に魂を売った人々』という本だっけ。」
「そう。その話をきっかけにいろいろな話が複雑に絡んできて、様々なことを話し合ったんだけど、結局は戦争の話になって、戦争の話になると政治の話が外せないのよね。」
「戦争に協力したってことは、悪魔に魂を売ったってことと同じ意味に作者はとらえているのかな。」
「そうだと思う。作者にとって戦争は絶対に許せないという強い思いがあるんだろと思う。それはそれで否定できないんだけど、そんな単純な問題じゃないって気がしてきたの。」
「単純じゃないって?」
「なんか、国とか政府とか、集団とかを構成するもの・・・、本来一個一個違うものの集まりのはずでしょ。ところが、人間が多くの細胞から出来ていて一個の意思をもった一人の人間になるように、実はそれらもなんか、一つの人格をもった人間というか、それ自体が意思をもった一匹の怪物のように思えて仕方がないの。そいつには、戦争反対なんて大声で叫んでもどうすることも出来ない気がしてきているの。何か別の方法を考えるしかないし、その方法がよく分かんない。で、そのヒントが政治にあるんじゃないかって気がしてきているの。」
「なるほど。大きな会社もそんなふうに人みたいな振る舞いをすることがあるよね。」
「うん、何となく分かる。」
「そう言うものは『人格』という表現をするんだ。会社ぐるみで悪いことをして会社が訴えられることがあるよね。会社に勤める一人一人を訴えるんじゃなくて、会社を一人の人のように考えて人格を認めることは合理的で、法律でも認められている。生身の人間の場合と違って法人格って言うんだ。で、その会社を法で認められた人だから法人と言うんだ。」
「ふ?ん。国家とか、政府もそういうふうに考えれば、結構、正解なんだ。」
本気で話し始めるといつもこうだ。母は長くなりそうな気がしたのか、自分も加わりたいというのを押さえて・・・。
「そろっと夕食に専念したら?箸がずっと止まったままよ。」
「ごめん。そりゃそうだ。由美子、じゃこの続きはお風呂の中で。」
由美子はあっかんべーをすると
「お父さんの変態!私ももう年頃なんだから、一人で入りまスウ!」
「お父さんたら、すぐからかうんだから。夕食を食べ終わってお茶の時間の時にしたら。」
母が笑いながら父を睨んだ。
結局、お茶の時間は、父がからかったのために私は母とだけ会話をすることになって、政治の話はそこで途切れてしまった。父はここまで娘が怒るとは思わなかったかったらしく、隅で小さくなってお茶をすすっていた。
明日も先生のところに行くから、先生に政治の話を聞いてみよう。
「じゃあ先生、明日は政治のことについてね。約束よ。」
由美子は勝手にひとりで約束をつくってしまっている。




