4本目:暗躍する混沌
作品に興味を持って下さり、ありがとう御座います!
どうぞ最後までお楽しみ下さいm(_ _)m
流々がミノタウロスを捕食して数日後、同じダンジョンの14階にて一人の少女が配信を行っていた。
ツーサイドアップの金髪に目元だけを隠したマスク、学生服にシルクハットと裏地の赤い黒マントを身に纏った少女、兵庫支部所属のダイバー『なるほど☆ポテ子』である。
◆
「あなたの悩みをまるっと解消! 解決☆納得☆なるほどな☆ なるほど☆ポテ子ですっ! 調査配信をご覧の地球の皆様っ、こんポテー☆」
《こんポテー!》
《こんぽて!》
《こんポテーー!》
《ポテ子ちゃーーーーんっっ!!》
《今日も可愛い》
《今日もアホっぽいww》
《アホっぽい、だがそこがいいw》
《地球の皆様ってw》
《じゃあポテ子ちゃんは何人なんだという話だなw》
「いつも言ってるじゃないですかー! 私は地球生まれの宇宙人ですよー」
《などと供述しており・・・》
《宇宙人ww》
《えらい可愛い宇宙人が居たもんだw》
《どこかの戦闘民族かっ!》
《産地偽装すんなww》
《SAN値だけになww》
《SAN値?》
《昔流行った単語、正気値の事らしい》
《へー、初知り》
《ここ、『邪神の呼び声』だもんな、上手い!》
「相変わらずここの視聴者は、仲良いですねー」
私は探協からダンジョン調査の依頼を受け、件の階層へ来ていた。
今居るのはその一つ上の階層だけれど、ここに来るまでミノタウロスの影も形も無い。モンスターの種類にも異変は無く、問題が無さそうだったのでダイバーフォンの配信スイッチを入れた。
「とりあえず私をアホの子とか言った人は、後で粛清でっす☆(ニコッ)」
《ごめんm(_ _)m》
《ごめん、許してm(_ _)m》
《ごめんなさいm(_ _;)m》
《ごめんちゃいm(_ _)m》
「・・・仕方ないので許してあげましょう! さて今日はですね、探協からの依頼で先日のミノ異常発生の調査に来ています。皆さんご存知です?」
《あー、ネネコちゃんのだっけ?》
《そうそう、ミノが本来居ない階に5匹も出たらしい》
《なにそれ、怖っ!?》
《おや? 結構話題になってたと思うんだけど知らんのか》
《まぁ、あの映像すぐに消されたしな》
「そうそう。で、出てきたところがあまりにも浅い階層だったので、被害が出る前に解決しちゃおーって話になったわけなんすよ! まさに私の為にあるかのような依頼でっすよね☆」
解決・納得を座右の銘とする私の為にあるかのような依頼だ。私は「どうだっ!」とばかりに胸を張ってポーズを決めた。
《無理だなw》
《無理っしょ》
《諦めろ☆》
《その自信は何処から来るんだwww》
《全く信用できないw》
《諦めて他の人派遣しようぜ》
《驚きの信用の低さと、膨らみの無さw》
《信用とπのサイズは比例する》
「今胸の話をした人は粛清です。者共、やっておしまい!」
《粛清?》
《えっ、何されるの俺っ⁉》
《いやいや、いくら何でも画面越しに・・・なっ、なんだお前等っ⁉》
《やめろぉおおぉぉぉぉぉっ!?》
《ぎゃあああああぁぁぁぁぁっ!!》
《い、いったい何が・・・》
《無茶しやがって・・・》
特に何もしていないのですが、視聴者の皆は私のノリに付き合ってくれます。
こういう和気あいあい感が好きで、このスタイルの配信をやっていますが、最近度々胸の話題でいじられるようになってきた。全く、失礼な人達です!
まぁ、楽しいから良いけど釘を刺しておくことも大切なので、注意だけはしておくです。
「女の子に胸の話をしたらだめっす、そして私にも柔らかいお胸がちゃんと在ります。分かったかな? 分かったら、イエス・マムと言え☆(ニコッ)」
《イエス・マム(;`・ω・´)ゞ》
《イエス・マム(;`・ω・´)ゞ》
《イエス・マム(;`・ω・´)ゞ》
《イエス・マム(;`・ω・´)ゞ》
この訓練されたコメント欄、何度見ても気持ちが良いです!
勿論、わいわいと話しつつも周囲への警戒は怠っていません。油断は大怪我に繋がりますからね!
《ところで、ポテ子ちゃんは今どこ居んの?》
「14層に入って30分ほど歩いたところっすね!」
《中途半端wwww》
《中途半端過ぎだろっww》
《何故ここで配信始めたしw》
「えー、だって。すぐ付けたら戦ってるところ見せなきゃダメじゃないすかー!」
《見たい》
《いつも避けてばっかだから、見てみたい》
《良いじゃん、見せてよ》
「えー、私が戦ってるところ見たいんすか? えっち♡」
《何言ってんだコイツはww》
《でも可愛いから許すw》
《●REC》
《●REC》
「おい、録音すんなしっ!」
私は和気あいあいと視聴者とじゃれ合いながら調査を続けた。
◆
「んーっ、ちょいさーっ! てやーっ! はーっ!」
16層に入って少し経った頃、ミノタウロスを数体発見。それ以外にも、本来ここにいない筈のモンスターも発見し、私は仕方なく討伐する事にした。
「てぃやーっ! って、ちょっわちゃちゃちゃちゃーっ!?」
《流石52位、戦い方に余裕がある》
《でも動きが危ないww》
《っていうか、うるせぇwww》
《うるせぇww》
《まぁまぁwでも、全部同士討ちさせてるって凄いよな》
《普通に凄い》
《格好良くないけど、凄い》
《すごい事よ、カッコ悪いけど》
《つまりカッコ悪い?》
《カッコ悪いぞー、ポテ子ちゃん!》
「やかましいですよっ!?」
跳んでは避け、走っては逃げ、背後に回り姿を隠す。そうすることで相手を撹乱し、同士討ちさせるのが私の戦い方だ。
危ないとよく言われるがウケも良いので、私は好んでこういうやり方をしている。
「こ、れ、で、ラストォォォッ!!」
ドロップキックで蹴飛ばしたリザードマンはバランスを崩して転倒、先に倒されたリザードマンの槍に頭を貫かれて絶命した。
倒されたモンスター達は光の粒子となって消えていく、その際残していく素材もしくはアイテムが私たちダイバーのお給料になるシステムだ。
なぜモンスターが消えるのか、その理由は未だ分かっていない。ダンジョンはそう作られている、そう考えるしか無いのだ。
「んー、確かにモンスターの異常はありましたが、それ以外異常は見当たらないっすねー」
《あれだけの数に襲われて、周りを見る余裕ねえよww》
《ポテ子ちゃん、鋼のメンタルだな》
《そこに痺れる、憧れない!》
《それ麻痺してるだけじゃんww》
《そうとも言うw》
ダンジョン内の変動は無し、モンスターは多いがモンスターそのものに異変は無し。という事は、下に強力なモンスターが現れて、それ以外が上に押されたのだろうか?
「もしかしたら、強ーいモンスターが下に生まれたのかもしれません。もしくはダンジョンが成長したのかもしれねーっすね」
《ダンジョンの成長?》
《ダンジョンって大きくなんの?》
《何喰って大きくなるんだ・・・》
《人じゃね?》
《ひぇっ・・・》
「あぁ、ダンジョンは別に大きくもならないし、人も食べねぇですよ? ダンジョンが食べてるのは、魔力らしーです。人や魔物が発する魔力を食べて下の方に強いモンスターを作ると、今までそこに居たモンスターが上に行きますよね? そうすると弱いモンスターが淘汰されるんで、ダンジョンそのものが強くなる。それがダンジョンの成長と考えられているらしーです」
《ダンジョンってそんな仕組みなのか、初めて知った》
《専門誌くらいでしか載ってない内容だからなぁ》
《ポテ子ちゃん、物知り!》
《さすがダイバー、色々知ってるね》
《ポテ子ちゃんが賢い、だと・・・》
《俺達は今、奇跡を目にしている》
・・・こいつ等は私を何だと思ってるのか。一度OHANASHIする必要があるようですね。
まぁ一先ず、ここまで調べて何も無いんだから依頼達成で良いかな。配信はここ迄としましょう!
「さてさて、特に何も無さそうなので今回の配信はここ迄としますねー。皆さん、お付き合いサンクスですよ☆」
《もうこんなに時間が経ってたのか!》
《相変わらず面白い配信だった》
《いつも楽しい配信をありがとう!》
《避けてるだけなのに見応えあるもんなw》
《マジでそれなw》
《それにしても時間経つの早ぇ》
《この短時間で、ポテ子ちゃんは俺等の大切なものを奪っていった・・・》
《それは俺等の・・・時間》
《わりと重要な物奪われてて草》
「また今回もつまらぬものを解決してしまいましたね。フッ・・・」
《はっ?》
《はっ?》
《はっ? 御冗談を・・・》
《はっ?》
《はっ?》
《はぁっ?》
《はっ?》
「こ、こいつ等・・・」
私だって冗談のつもりで言いましたが、皆で言わなくたっていいじゃないですか! 泣きますよっ!
「と、とりあえず、今回は終わりっ! はい、おつポテーっ!」
《おつポテ!》
《おつポテー!》
《おつぽて!》
《おつポテ、キレぎみだなw》
《いじり過ぎた俺等が悪い、しゃーないw》
◆
「さて、お仕事終了ですねー」
私は肩を解すように「んーっ!」っと腕を伸ばした。
視聴者の皆は信じないだろうけれど、私はわりと真面目に仕事をする方だ。だから今回も本気で調査してたんだけど何の痕跡も無かった。何の痕跡も無い場所に、モンスターが消えた跡があった。
逆に言うと何の痕跡も無いのが痕跡なんだけど、モンスターが何の痕跡も無く消えるってどういう状況だろう?
「んーっ、分かんねーですねぇ」
もうこうなると、解決方法は一つだけなんだけど・・・そう考えていると、近くから沢山の敵意と視線を感じた。
「ヴフゥゥゥゥ・・・ヴフゥゥゥゥゥ・・・フゥーフゥー」
「ゲギャギャギャギャギャ」
「ギシャー・・・」
「あらぁ・・・団体さんのお出ましで・・・」
どこから出てきたのか、多種多様なモンスターが私を取り囲んでいた。
先程までのように逃げて同士討ちを狙えるような隙間が無い、絶体絶命のピンチだ。
いや、ピンチだった──今が配信中だったならば。
「配信中じゃなくて残念でしたね──『シャドウ・エッジ』」
私の指を鳴らす音と共に、足元の影から漆黒の剣先が大量に出現しモンスターを次々と串刺しにしていく。
一瞬の出来事、瞬きをする間にモンスターの壁は光の粒子となり、私の前から消えていった。
「これで倒すと楽なんすけど、配信映えしないんですよねー。やっぱり映えが大切ですよね、映えが!」
まぁ、この力の事を突っ込まれても面倒なので、これからも黙っておくほうが良いですね!
それよりもダンジョンの事です。
私は影を操る事が出来る。
今のような特殊な攻撃方法でもない限り、基本的に戦闘痕は絶対に残ります。なのに痕跡無くモンスターだけが消えているなんて異常事態だ。
「面倒ごとの匂いがしやがりますねー・・・まっ、おじ様なら何か知ってるっしょー」
いち早い解決を目指して私は影に潜り、最下層──人類未到達エリアへと降りていった。
作者コメント:陰の実力者ポジ・・・だったらいいね。
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最後まで読んで下さり、ありがとう御座いました!
また次の更新も宜しくお願い致しますm(_ _)m