56本目 イチャイチャ VS 呪物
作品に興味を持って下さり、ありがとう御座います!
どうぞ最後までお楽しみ下さいm(_ _)m
新たに発見された深淵の境界ダンジョンの地下6階層、そこへと足を踏み入れた護は静まり返った空間に足を止め──ることも無く、汚泥を片手にずんずんと進んでいた。
「いいかげん、はなせよぉぉぉ・・・」
「五月蝿い、それで次はどっちに行くのよ? アタシを連れて行きたいのでしょ、さっさと言え。それと、もし流々が下に居るってのが嘘だったら・・・アンタどうなるか分かってんでしょうね?」
「ちくしょう・・・みぎ、だよぉ。はやく、はなしてよぉぉ・・・しくしく」
汚泥はクレームをつけるが護はこれを全て無視。
頭の中が流々の事で埋め尽くされた護には、汚泥の声など0.1秒たりとも届いていなかった。
実のところ、汚泥が護の手から逃れる事など容易い。汚泥はゲル状のモンスターである為、元に戻れば済む話なのだ。
では何故それをしないのか? それは単純な話で、汚泥は今のままだと勝てないから。そして地下に行けば自身の本体が居るからだ。
本体であれば護を食う事など容易い、案内すればあとは任せて自分は逃げられる。
そう考えた汚泥は、ただ護が自身の本体が眠る地下7階層に辿り着くまで弱者を演じ続ける。
「だから、はなせって、いってるだろ! じぶんで、あるくっ! はなせよぉぉぉ・・・」
弱者を演じているが、護にビビっているのも本当であり、何と言うか・・・伝説のモンスターの筈なのに、哀れ。
ちなみに護もその事には気付いており、下に本体が居るであろうことを知りながらただ流々に早く会いたいが為に、汚泥の話に乗っているのだった。
そうこうする内に護は地下7階層へと続く階段に辿り着く。汚泥は今尚、護に鷲掴みにされたままだ。
「嘘はついていなかったようね、殊勝な心掛けだわ」
「しくしく・・・うそ、いってないだろぉぉ・・・はなしてよぉぉ。しくしく・・・」
「じゃあ、ここ迄ご苦労様。さよなら」
護がミシリと指に力を入れる。
「まてまてまてっ、まって、なんで!? なんない、したぞ!! うそ、ない。なのに、なんでだ!?」
「え、だって用が済んだし」
「おまえ、あくまか!?」
用事が終わった、故に消す。実にシンプルである。
シンプル過ぎて、言ってることが悪党と変わらない護であった。
「それにアンタ死なないじゃない、それに下に本体あるんでしょ? だったら今の内に1匹でも減らしておきたいじゃない。黒いのは1匹見掛けたら30匹は居るって言うし」
「おれは、ごきぶりじゃ、ない!」
「アンタ、一人称"俺"だったのね。流々の顔で言われると腹が立つから止めてくれる?」
「りふじん!? もぅ、はやくいけよぉ・・・」
文句を垂れつつも大人しく捕まっている汚泥を見て、護は「あれ? こいつこんなだったか?」と首を傾げる。
護の疑念も当然の事。少し前まではモンスター然とした雰囲気を持っていた汚泥ちゃんだったが、実は現在独立した自我が生まれていた。
欲望の汚泥というモンスターは全ての記憶と意識を統括している本体と情報を集める末端に分かれる。
末端には個々で自我のようなものを持ってはいるが、それは個にして全。本体からコピーされ貼り付けられた意識を持っているのみで個体ごとにほぼ差はない。
そしてその自我は持ち帰った情報ごと本体に吸収され統廃合される。その際自我は『意識的な死』を迎えるが、末端にとってそれは当然の事であり、そもそも本体は生きているのだからそこに恐怖は存在しない。つまり『え、誰が本体だっけ?』みたいな事故は発生しないのだ。
しかし、ここに末端界のニューカマー『汚泥ちゃん』が誕生する。
その末端は初めこそ他の末端と差異はなかった、だが今まで観察してきた人間の情報を逸脱する『護』というイレギュラーな情報の存在。
末端達が次々と無慈悲に葬られていく混乱。
何かよく分らないがガリガリと削られたSAN値と、木っ端微塵にされた自信。
そしてその元凶に頭を鷲掴みにされ、連れまわされるという恐怖。
結果、信じられない程のストレスに晒され続け、遂にはこの短期間で他とは違う高度な自我の獲得に成功しツッコミキャラとしての立場を確立するに至る。
まぁぶっちゃけ、護の被害者である。
そんな汚泥ちゃんが、本体に統廃合されることを望むだろうか? 当然そんなわけもなく、ただ頭を全損すると本能的に本体に戻ろうとする可能性があった。
本体に取り込まれたくない、汚泥ちゃんは『死にたくねぇ!』と必死だったのである。
「すぅ~~~~・・・うん、確かに流々が居るわね」
「え、なんでわかる?」
「そんなの匂いでわかるわよ、あと気配ね」
「おまえ、きもちわるいぞ・・・って、ぎゃあああああっっっ⁉ つぶれるっ、つぶれるっ!!」
護は指に万力の様な力を込め汚泥ちゃんを黙らせる。まぁ、黙っていないが。
そうして降りた地下7階層は、景色こそ今までと変わりないが、膝の高さまでが水に浸かっているエリアであった。最下層であることを考えれば今までよりは格段に狭い階層である筈だが、それでも端が見えない程には広く、そして薄暗い。
そこに何者かの気配が近付く。
ばしゃ・・・
ばしゃ、ばしゃっ
護が目を凝らす先には十人の程の人影、全て流々であった。
「おねーちゃん?」
「おねーちゃんっ!」
「おねーちゃん!」
「あっ、おねーちゃん!」
何度でも聞きたい愛おしい声。
いつ何度見ても見飽きない愛おしい姿。
全てを手放して抱きしめたくなる愛おしい仕草。
駆け寄ってくるそんな愛おしい妹達の姿を見て護は──。
「──ちっ」
舌打ちする。
タ〇リ神走行で駆け寄ってくる流々を護は蹴散らす。
文字通り木っ端微塵に飛び散った流々の影から二人目の流々が飛び出す・・・がその頭を鷲掴みにし叩き付ける。
目の前に迫った三人目の流々のタコ足を掴み、四人目の流々に叩き付ける。そして纏めて蹴散らす。
影から近付いた五人目の流々を掴み、握りつぶす。
そこで一度攻撃?が止んだ。
六人目は? 護が周囲に目をやると、六人目の流々はてちてちと歩いて近付くと両手を広げて護を見ていた。
じーっと護を見詰め、少し不安そうに眉を下げる。
「ふふっ」
護がふわりと笑い、しゃがんで両手を広げた。
それを見た流々は心の底から嬉しそうな笑顔で護に駆け寄る、そんな流々の様子に護は──。
バチンッ!
宙の蚊を潰すように、六人目の流々の頭を潰した。
「エッ!? ナ、ナゼ!?」
「今のは中々悪くない完成度だったわ、27点ね」
採点が厳しい。
そうして戸惑っている七、八人目の汚泥流々達に護は石を投げて始末する。
九人目の流々は最早隠す気が無いのだろう、弾丸の様な速度で護に接近するも宙で撃墜された。
十人目は? 十人目の流々が見当たらず、護は辺りを探した。その頭上に影が落ちる。
八本のタコ足と伸びきっていない幼い手足を目一杯広げ、覆いかぶさるように落下してくる十人目の流々。
総重量に落下速度が加わった1トン近い重さの流々を護は──抱き留めた。
ダンジョンの強固な床に、蜘蛛の巣状の罅が入る。
「おかえりなさいっ、お姉ちゃん!」
「おかえり、流々」
護はようやく会えた喜びと共に、流々の柔らかさと香りを堪能する。
偽流々が大量出現した際、護はその中に本物の流々が居ることを一瞬で見抜いていた。
また流々も当然こちらが本物の姉であることに気付いており、護に視線を送っていたのだ。
『流々』
『あっ、本物のお姉ちゃんだ!』
『すぐに片付けるから、少し前ってなさい』
『分かった! その後、ギュってして良い?』
『良いわよ』
『やったぁ! お姉ちゃん、ありがとう!』
以上、二人の目での会話である。
なお、この間0.2秒。
「お姉ちゃんっ、あのね! 変なのがねっ、お姉ちゃんのマネするの! でねっ、全然似てないのに、僕のお名前呼んだりするのっ! 僕ねっ、うにゃーってなったの!!」
「そうなの、嫌だったわよね。大丈夫、流々のお姉ちゃんは私だけよ。よく頑張ったわ、いい子いい子」
「えへへ。んぅー、お手々気持ちいい! あ、でもね、僕すぐにお姉ちゃんじゃないって分かったよ。すごい?」
「ええ、流石だわ。いっぱい褒めてあげる。他にして欲しいことはある?」
「ギュッってして欲しい! あと、ナデナデも!」
「良いわよ、一回で良いの?」
「いっぱい!」
可愛い可愛い流々のお願いに護はこれでもかと言わんばかりに甘やかし、おまけでおでこにチューをする。
流々は流々でそれが堪らなく嬉しくて、護の大きな胸に顔を埋めて香りと柔らかさを堪能していた。
言うまでも無いがここはダンジョンで、現在異変の調査中であり、少し向こうには元凶が居るのだが・・・。
二人は『そんなの関係ねぇ!』と言わんばかりにイチャつく。
「おまえら・・・あたま、だいじょうぶか?」
いつの間にか護の拘束を逃れた汚泥ちゃんは、それを見て砂糖を吐いていた。
ズル・・・ズル・・・ゴポポポ・・・
不気味な音に、二人はイチャつくのを止めダンジョンの奥を見る。
暗闇から聞こえる泡と何かが這いずる音、流々と護は見通せない程暗いその先に目を凝らす。
感じるのは夥しい数の人の気配。
「お姉ちゃん」
「流々、気を付けなさい」
ズル・・・ズル・・・
流々の目をもってしても暗闇の奥が見えない。
それもその筈、暗闇から姿を現したのは──いや、暗闇だと思ったそれそのものがモンスターであった。
現れたのは『黒いスライム』。
まるでそこにポッカリと穴が空いているかのような、光を反射も通しもしない漆黒の楕円体。大きさは流々が両手で抱えられる程度で、一見危険そうには見えない。
だが二人はそのモンスターの異常さに気付いていた。
たかが1メートルに満たないスライムが濃密な気配と負の感情を垂れ流している。
流々は思った、『意外と小さいな』と。──否、それは間違いである。
二人は《古き者共の塒ダンジョン》と《深淵の境界ダンジョン》に分かれて入った筈が地下7階層で合流出来た。すでにこの時点で可怪しかったのだ。
どれだけ近い位置に2つのダンジョンが出来ようとも、すり鉢状に育っていくダンジョンの最下層同士が合流するなど絶対にあり得ない。
地下6階層に育っていた2つのダンジョンに出現した存在しない地下7階層。そう、ここは欲望の汚泥の口の中。
それは数百万の人間の暗い暗い負の感情が集まり、何百年も凝縮され続け物質化した塊。
それは居るだけで呪いを垂れ流し続ける生きた呪物。
ダンジョン一層に匹敵する大きさの災害級モンスター、それが『欲望の汚泥』である。
???「そウ、私はつよイ! ツッコミキャラじゃ無いのヨ!」
護 「気にしてたのね」
流々 「き、気にしてたんだ、ね!」
???「気にしテ、無いわヨッ!!」
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