55本目 欲望の汚泥
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「るる、こんなところでどうしたの?」
「む、虚柄さんっ。どうして貴女が此処に!?」
「・・・」
流々が見詰めていた先、ボス部屋の奥から姿を現したのは護だった。
護は流々を見付けると軽く手を振りながら此方へ近付いてくる。怪我をしている様子はなく、また衣服も多少濡れたあとはあるが損傷した様子は無い。
「ここはどこかしら、ちょっとおs『ボンッ!』──」
「え・・・」
突如護の頭が吹き飛んだ、犯人は尼崎の横にいる流々である。
何を思ったか、流々は足元のあった石を全力で護に投げつけたのだ。
結果は説明するまでもなく頭部爆散。流々は「ふんっ」と鼻息荒く、クトーと共に護だったものを睨みつけている。
クトーが何も言わないことから何か理由があった事は察せられるが、目の前で人間の、それも教え子の頭が爆散した尼崎の心情は言葉で言い表せれない。
彼女の髪や顔は何か赤やピンクの色々を盛大に被り、その顔は無表情。ただ顔色が『え、人間の顔ってそんな色になるの⁉』と言いたくなるような色に染まっていた。
「くくくく九冬さああああああん!?!?!? 何をっ、いったい何をっ!? い、今目の前で頭がボンッてっ、頭がボンッて!! 姉妹喧嘩ですかっ、いえ喧嘩だとしてもお姉さんを殺すだなんてっ、私はどうしたらああああっ!?!?!?」
『落ち着け、それは護では無い』
「あわわわわわわわっ──えっ?」
百面相していた尼崎はクトーの言葉に冷静さを取り戻す。
振り返ると護だったものは黒い液体に変わり、せり上がってきたかと思えばそれは再び護の姿を取り戻した。よく見れば尼崎の顔を汚していたアレコレも液体に戻り護?の元へ戻っている。
そのあまりの非現実さに、尼崎は「服にシミがなくて良かったぁ、あははははぁ~」と感想を漏らす。
『再度言うがあれは護では無い、モンスターだ。故に流々、少し落ち着け』
「ふぅううううっっっ!!!!!! あれ、お姉ちゃんじゃないっ! でもお姉ちゃんと同じ! 許さない!! ふううううっっっ!!」
「ど、どうしたんですか?」
目の前のあれが護で無いことに流々はすぐに気付いていた、普段の護るならば流々を見つけるとすぐにしゃがみ"ハグ待ち"ポーズをとる。
それが無かった故に流々は疑問を持ち、見破るに至った。尚、ここ迄1.5秒である。
あれは大好きな姉ではない。当然攻撃するのに躊躇いなどないが、それでも流々の目をもってして寸分違わぬ姉の姿に攻撃をしてしまった。
流々が未だ誰も聞いたことが無い声を上げ、怒りを顕わにした。その肌には炎に似た紫色のヒョウ柄が浮かぶ。
「あはは、バレちゃった」
「ふぅううううっっっ、許さない! 僕、怒ったんだんだから!」
気を逆撫でする様な飄々とした様子に、ゲシゲシと地面を踏みつける流々。
その仕草は如何にも子供らしく可愛らしいものだが、踏みつけた地面には蜘蛛の巣状の罅が入っており、それを見た尼崎はまた顔を青くしていた。
そうしている間、護の姿をしたモンスターは動かずジッと流々の様子を『観察』している。
「あなた、かわいい。つよい。うらやましい、うらやましいわ」
「うるさいっ、お姉ちゃんのお顔やめて! 僕きらいっ、君きらいっ!」
「ひどい。きずつくわ」
『あれは何だ、知っているか?』
「いえ、私の記憶にも無いモンスターです。何より人語を介するモンスターなど・・・」
怒りと緊張が漂う空間にベシンッ!ベシンッ!とタコ足が床を叩く音が響き、その様子を護の姿をしたモンスターは愉快そうに『観察』していた。
このモンスターは"汚泥"。
人の美貌、才能、人望、家柄、恋人、人脈、その他諸々の人が生まれ持ったどうしようも覆せないものに対する怨み妬み嫉妬の感情が固まった、人の感情を持った異界のモンスターである。
コールタールにも似たこのモンスターが生まれてすぐ持った感情は"混乱"。人の心にゲル状の体を持った汚泥は何故自分は人間の姿をしていないのか、ただただ混乱した。
それから暫く経ち己が人間でないことを理解した汚泥は、どうすれば人間になれるかを考えた。そして人間を観察し始めた。
『感情』を、『話し方』を、『仕草』を、『癖』を。
そして、観察が終わるとその人間を──喰った。
喰い、『容姿』を手に入れた。
そうして人間に溶け込み『人間関係』を手に入れた。
だがまだ足りない。
これは自分ではない。自分はもっと美しく、才能に溢れ、人望羨望を集める人間だった筈だ。
人間に成り代わったことで、汚泥の暴走が始まった。
一人づつ観察していても時間がかかると考えた汚泥は2つに分かれ人間を観察、そして喰った。
そうして成り代わった汚泥達は再び2つに分かれ、観察し、成り代わり、再び分かれ、観察を繰り返す。
人間側がその違和感に気づいた時、一つの国と幾つもの村の住民全てが汚泥に成り代わられていた。
人類史上類を見ない被害を齎した汚泥はダンジョンの奥深くに封印される事となる。
これが『欲望の汚泥』、その世界において災害級指定されたモンスターである。
「相手は不定形モンスター、九冬さんでは相性が悪いです!」
『しかしこ奴は護の姿をしている、あちらにも何かあったと見るべきではないのか? それに、変身能力であったならば外に出て成り代わられると厄介だ』
「じゃ、じゃあどうしたら良いんですか!?」
「あいつ、きらいっ!」
今尚石を投げる流々と、爆散しては戻るを繰り返す汚泥の攻防は続く。
流々は「きらい! きらい!」と声を荒げ泣きべそを掻きながら、汚泥を排除しようとしている。その様子を見ていた尼崎はあることに気付いた。
「・・・動かない? クトーさん、あのモンスター動いてなくないですか?」
『確かに。歩いて此方に近付きはしたが、彼処から一歩も動かぬな。もしやあれ以上此方に来れぬのではないか?』
「ちっ・・・」
図星だったのだろう、汚泥の顔が舌打ちと共に醜く歪む。
「ほらほら。そんなの、いみがないわ。あ、でも、たたかれるの、にがてなのよ。ちかづかない、でね!」
「誰がそんな見え透いた誘いに──『うにゃああああっっっ!!』──えっ、九冬さん!?」
『待てっ。流々、誘いに乗るな!!』
汚泥に突撃していった流々は、クトーと共に暗がりへと消えていった。
慌てて駆け寄る尼崎はそこに大きな穴があるのを発見する。それは六層へと繋がるスロープだった。
「そんな、まさかダンジョンが拡張している!? じゃああのマーマン達はボスじゃなかったという事ですかっ」
汚泥こそが今回の騒動における真の原因であることを確信した尼崎は追うか、退くかの選択を迫られた。
当然この場合、退くのが正しい判断である。追ったが負ければ、この情報を誰にも伝える事が出来ず被害が拡大してしまう。
幸い流々は日本でも最強に近いダイバー、生き残る可能性が高い。何なら数時間後には「お腹空いた!」とダンジョンから出てくるんじゃないかと思ってしまう程だ。
だが尼崎は担任として大人として、幼い教え子に任せて退くのは正しいのか? 尼崎の答えは『否』である。
例え自分より強くとも体を張って助け導くのが大人の正しい姿。尼崎の信じる正しさが撤退を拒んだ。
そもそも尼崎が一人で地上に戻れない可能性もある。しかし追ったところで役には立たないだろう。そう思える程に、汚泥は言い知れぬ雰囲気を纏っていた。
悩んでいる間にも刻一刻と時間は過ぎていき、尼崎は顔に悔しさを滲ませる。
その時、背後に迫る影があった。
◆
【深淵の境界ダンジョン】
「貴女は・・・」
「おねえちゃん、ど──」
ゴシュッ!
護は5階層に現れた流々、もとい汚泥の頭を握りつぶした。
当然汚泥にその様な攻撃は通用せず、一呼吸の間に汚泥は流々の姿を取り戻す。
「ひどいわ、まだしゃ──ぶぺっ」
「ちょっと、すこs──ブッ」
「まて、まっt──ぶはっ」
「ちょ、ちょっと、まちなさいっ!!」
「・・・何よ」
護の容赦なさに、流石の汚泥も待ったをかける。
汚泥は護達がダンジョンに突入する前からその様子を観察しており、護と流々が姉妹でお互いをとても大切にしている事を知っていた。故にそれぞれが最も油断する、もしくは躊躇する姿をとったというのに・・・結果はどちらも失敗。
汚泥は二人の一切の躊躇無い攻撃に混乱せざるを得なかった。
「あなたたち、どうして、こうげきできる!! このこは、あなたの『たいせつ』でしょ!? りかい、できないっ!!」
汚泥は護が理解できなかった。
今までも同じ様な状況が無かったわけでは無い、だがその全てにおいて相手は躊躇し隙を見せた。だがこの女は何だ。
今まで数え切れない程の人間を観察し続けた。だからこそ分かる、この二人は『特別』だと。
お互いが自身の命よりも大切な関係、絶対攻撃できるわけが無い。そう確信していた。
だがいざ話しかけてみれば、二言目には命を狩りにくる。汚泥が混乱するのも無理は無かった。
「な、なんでっ!? ぐぺっ!!」
「何で? そんなの言うまでもないじゃない。お前が流々と全く違うからよ」
「なんだとっ!!」
汚泥は人間を観察し模倣、成り変わるモンスターだ。その精度は極めて高い。
毎日長い時間を共に過ごしたパートナーすらも欺くその技術に、汚泥は絶対の自信を持っていた。
「デタラメ、デタラメだっ! どこがちがうっ、なにがちがうっ!!」
「あ゙、何処が違うだと? 巫山戯んなよ、全然違うだろうがっ。ブッ殺すぞ」
「ひぃっ!?」
攻撃の手を止めた護は、必死に反論する汚泥を気迫で黙らせ『ビシッ』と指を突き付ける。
「ふぅ・・・良いわ説明してあげる、よく聞きなさい。まず流々はね、私を呼ぶ時『お姉ちゃん』の『ゃ』の語尾が僅かに上がるのよ。もっと猫がニャンと鳴くように可愛いのよ、お前はそれが全く出来ていない、その時点でマイナス10万点。あと笑う時も僅かに左の頬の方が上がるのよ、私はいつも流々の右側に立っているからね。きっと嬉しいから笑うけど視界から私が少しでも消えるのを嫌がってそうなるの、どう? 可愛いでしょ? 可愛いと言いなさい、殺すわよ? マイナス10万点だわ。それだけでじゃ無いわ、流々は言葉よりも目でいっぱい話すの。そして私を見つけたらすぐに駆け寄ろうとするのよ。でもタコ足が重くて走れないから赤ちゃんみたいによちよち歩いてきて、目の前に来てから抱きついて良いのか悩むの。そして悩んだ後に「抱きついても良い?」って目で聞いてくるのよ。そんな世界中のどんな宝石よりも綺麗な流々の瞳に比べてお前の目は何だ、苔の生えた泥団子か? それでよく流々を真似たとか言えるな、マイナス10万点だ。それにお前が真似してる流々はダンジョン突入前のものだろう? その時点でマイナス10万点だ。流々は昨日私が爪を切ってあげたの、瓜のような形をした小さくて可愛い爪よ。つまりダンジョン突入から数時間経った今は爪も0.02ミリくらい伸びてるはずなのよ。そんな流々の成長を考慮できていないからマイナス10万点、いや、追加で10万点の計マイナス20万点だ。あと、流々は一秒経つごとにどんどん可愛いくなっているのよ、ただでさえゴマ粒ほども真似できていないくせに1秒ごとに増していく流々の可愛さを計算に入れていない? お前世界に喧嘩売ってんのか? 例え神が許してもアタシが許さないからな。いや、それを許した神ごとシバき倒すから覚悟しろよ!! まだまだあるわよ、流々は立ち止まっている時右手側の二本目のタコ足で遊ぶ癖があるのよ。少しだけだけどフリフリ先っぽを揺らすの、しかもそれに流々本人は全く気付いていないのよ。で、右側で何か揺れてるなって振り向いたら動きが止まるから、結局何だったのか分からず首を傾げるのよ。その仕草が堪らなく可愛いのよ。お前にはそれが無い、マイナス10万点。あと、仮にも流々を真似たと豪語する気ならその臭いを何とかしろ。流々は美しい森の中にひっそりと存在する澄み切った泉のような優しい緑と水の中に僅かに甘い香りを含んだ良い香りがするのよ。胸いっぱいに吸い込めば幸せになれるの、慣れていないとキマっちゃうから注意なんだけどね。まぁそもそも誰にもそんな事、許しはしないけど。とにかく流々はお前みたいなヘドロを三日三晩煮詰めた様な胸糞悪い臭いなんかしないのよ、マイナス10万点。他にも色々あるけど流々の姿を真似するなんて大罪を犯した時点で極刑。全部含めてマイナス100億点だ、死ね」
止めてあげて、汚泥さんのHPはもうゼロよ!
絶対の自信を木っ端微塵にされたうえ、護の狂気にSAN値をガリガリ削られた汚泥は涙を流し体操座りで蹲っていた。
そんな汚泥に護が迫る。
「ま、まて! まて、まて、まて! まてって、いってるだろ! まってくだ、さいっ、おねがい、しますっ!!」
「今度は何?」
目前で止まった護の手を見て、汚泥は息を吐く。
「このまま、こうげきしても、いいのか!? いもうと、あずかってる、ぞ!」
「流々を!?」
ようやく汚泥が満足する反応が得られた。
そう、これだ。これが普通の反応なのだ。普通は大事な人の姿を見れば気が緩み隙ができるし、バレても攻撃を躊躇う。一瞬で看破し確信して躊躇無く攻撃に移るこの姉妹が可怪しいのである。
「かえして、ほしい? なら、いうこと、きけ!」
護の狂気に心が折れそうな汚泥は必至である、だがこうも確信していた。『この二人を食えば、自分は最強になる』と。
あとは人質を使って言う事を聞かせるだけ。明るい未来を想像し、汚泥は強気になっていた。
だが、汚泥の希望はまたも粉砕される。
「そっちに流々が居るのね、という事は戻るよりも早く会えそうだわ。おら、行くわよ。さっさと案内しなさい」
「ぐああああっ!! あたまを、はなせっ! いもうと、どうなっても、いいのかっ!?」
「流々がお前なんかに捕まるわけ無いでしょ。精々が誘い出すまでが限界、まぁ居るには居るんでしょう。おら、行くわよ」
「はなせええええっっっ!!」
本来攫う側であるはずの汚泥は、護に顔面を鷲掴みにされ共に六層へと姿を消していった。
汚泥「こわい! おまえ、こわいっ!」
護 「この程度分からずして何が姉か」
汚泥「それ、あねじゃない! おまえ、こわい!!」
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