44本目 邪神の初配信【57層目】
作品に興味を持って下さり、ありがとう御座います!
どうぞ最後までお楽しみ下さいm(_ _)m
57階層は先程と打って変わって、55階層までと同じ鍾乳洞然とした風景が広がっていた。天井も凡そ五メートル、天井を這う意味も無いため二人は降りて歩いている。
「上の階とは違うと言うより、さっきの階層だけが違うのかしら?」
「うん、そうだよ。おとーさんが、たぶんあそこは『篩』なんじゃないかって言ってた!」
「成る程、つまり此処からはモンスターも強いのね」
「分からない、でも美味しくないからキライ」
味を思い出したのだろう、流々は顔を顰める。
だが護は、何でも食べる流々をもってして『不味い』と言わせるモンスターが逆に気になった。
《おとーさんってなんぞ?》
《奏 寧々子:良かった、良かったああ。普通のダンジョンだあああ(´;ω;`)》
《工藤 炎樹:はっ、ここは?》
《メンバー続々復活w》
《アレはきつい、アレ以外なら何でも良いわ》
《蟹は美味しいけど、流々ちゃんの口振りからしてドロップはクリスタルか》
《だろうね》
《ここには何が出るんだ?》
「んー、あれ!」
視聴者の質問にタイミング良くモンスターが登場する。
少し奥の暗がりから、二足歩行の何かがペタペタと歩いてくる様子が見えた。
ペタ…ペタ…ペタ…
ペタペタ…ペタペタ…
ペタ……ペタ......
「・・・・・・」
正面から来ているはずなのに右から、右を向けば前後から足音が響く。そして何より、近付いてきている筈なのに気配が凄く遠い。
それが一分か、はたまた十分か時間感覚さえも狂わされる足音が静かに響き、遂に相手が姿を現す。
「マ゙アアアアアアアア」
「マ゙ァ゙ァ゙ァ゙ァ゙ァ゙ァ゙ァ゙」
「マ゙ァ゙ァ゙アアアアアアアア」
出目金をモデルにした溶けた魚顔に、暴食を極めた様な身体。そこに居たのは、先程のアレとはまた別種の嫌悪感を抱かせるモンスターだった。
姿形だけならば、それはマーマンだろう。だがその顔があまりにも醜悪である。
《いやああああああ!?》
《ぎ・・・うおえっ!!》
《き、きめぇ・・・》
《だ、だから、いきなりのSAN値チェックは、止めろとあれほど・・・》
《こ、こんな奴等、見たこと無・・・おえっ》
「・・・ねぇ、流々。あれ、食べたの?」
「え、うん」
「これからは、お姉ちゃんがいっぱい美味しい物食べさせてあげるから。だから変なものは食べちゃダメよ?」
「分かった!」
護はそれを伝えると高速で接近し肉迫する。
そして拳をギリリと軋むほど握り締めると、勢いを殺さず拳に乗せて振り抜いた。
──轟っ!!
高速の拳が空気の壁を強く叩く。
それは全力ではないとはいえ、ダンジョンの壁を破壊する程の威力が籠もった拳であり、並のモンスターが受け止めきれるものでは無い。だがこのマーマンもどきはそれを易々と受け止め、更にはそのまま宙返りをして衝撃を殺す芸当すら見せた。
《うそおおお!?》
《護様の拳を受けて、生きてる、だと・・・》
《えっ、まさか護様、全力じゃ無いよね? そう言って!?》
「当たり前じゃない。でも、手加減もしてなかったわ。コイツら、強い」
護は流々が今までこんなのを食べていたのかという、やり場のない怒りをぶつけるつもりで攻撃を仕掛けたが・・・予想に反し、このモンスターは強かった。
「別に倒してしまっても良いけれど、今日は流々の配信だしね。バトンタッチするわ」
「うん、分かった!」
流々は護の挙げた手にポンッとタッチすると、まるで「散歩に行ってくる」とでも言うような軽い足取りで前に出た。
《流々ちゃん、大丈夫か?》
《怪我するなよー》
《心配だけど、見たいという気持ちもある》
《分かる》
流々は正面、先程護が殴りかかったマーマンもどきに近付く。その距離があと五メートルとなったタイミングで、流々は急に右側のマーマンもどきを向く。正面のマーマンもどきがそれに釣られ流々の視線を追った時、そのマーマンもどきの姿が消える。
「マ゙ッ!?」
僅かに聞こえたマーマンもどきの声と、激しく肉のぶつかる音。残ったのは上から叩き潰された右側のマーマンもどきだけだった。
流々はそれがドロップに変わるのを確認すると、反対に向き直り残ったマーマンもどきも同じように倒す。
視聴者達の心配を余所に、戦闘は僅か数秒で終了してしまったのだった。
《えっと、何が起こったんだ?》
《何もわからなかった》
《正面のマーマンが消えて、左右のマーマンが倒れた?》
《消えた一匹はどこ行ったんだ?》
「上よ」
ダイバーフォンが流々の頭上を向くと、そこにはぐったりとタコ足にぶら下がるマーマンもどきの姿があった。
「あれが余所見をしたタイミングで流々が捕まえて、他の奴に叩きつけたのよ。上から叩かれたら衝撃を流せないから、ああなるのも当然ね」
《鈍器で叩いたのか》
《それも最新型のダイバーフォンのカメラがフレーム落ちする速度でな》
《成る程、よく分からん》
《流々ちゃんガチつぉい・・・》
《流々ちゃんには集団で攻めるほうが不利なのか?》
《いや、単騎だとタコ足に捕まるぞ》
《まだ集団の方がマシか》
《奏 寧々子:きゃあああっ、流々ちゃんカッコいい!》
《ネネコちゃん、ガチファンになってるw》
最後に流々は持っていたマーマンもどきを床に叩きつけドロップに変えると、嬉しそうに護にトトトと駆け寄った。
「にへっ、倒した!」
「お疲れ様、その足って結構伸びるのね?」
「うん上の天井近くまで伸びるよ。でも伸ばし過ぎるとコケちゃうから、下で伸ばすくらいしか出来ないよ」
「どういう構造なのかしら?」
「さぁ?」
自分の身体を流々自身もよく分かっていないが、人間部分の健康診断はひとまずクリアしているので良しとした。
《さっきのマーマンから何がドロップすんの?》
《同意、気になる》
《丹波 薫:是非資料として確保して頂けると助かります》
「丹波さんがドロップ欲しいって言ってるわよ」
「うん、僕は良いけど・・・採れるの、臭い鉄の塊だよ?」
《臭い鉄ww》
《何だそのパワーワードw》
《逆に気になってくるわ》
「じゃあ持ってくるね」
そう言って流々はマーマンもどきのドロップ品を取りに行く。そして戻ってきた流々の腕には、プルタブの付いた金属の背の低い円柱状の物『缶詰』が3つ抱えられていた。
「・・・缶詰ね」
「カンヅメって何?」
《流々ちゃん、缶詰知らないのか》
《食べ物だぞ》
《保存食って言ったら分かるかな?》
「これ、食べるの!? ・・・もっと美味しい物いっぱいあるよ?」
《違う、外側は食べないんだw》
《ガチで憐れまれてるww》
《そっか、容器込みでドロップするものって少ないもんな》
「お姉ちゃん、どうやって食べるの?」
「ここのプルタブを起こして引っ張るのよ。指を切らないように注意して」
「分かった、やってみる!」
護の説明に従い流々は徐ろにプルタブに指を掛ける。その顔は、初めて口に入れる食べ物に対する期待に溢れていた。
《奏 寧々子:待って流々ちゃん。さっき、それ臭いって言ってなかった?》
《そういえば言ってたような・・・》
《待て、なんか嫌な予感がしてきたぞ》
《ちょっ、それまさかアレじゃっ!?》
寧々子達の静止も虚しく、そこコメントが流れた時には缶詰は開かれる寸前だった。そして──。
ブシューーーーーーー!!
「いやああああああ!?!?!?」
「鼻があああああっっっ!!!!!!」
『ぐあああああああっっっ!?!?!?』
缶詰を放り投げゴロゴロと転がり苦しむ二人と一匹。少しでも臭いから逃げようと服で鼻を擦るが、しかしその服も缶詰の汁を被り猛烈な悪臭を放っていた。
《あぁ・・・》
《南無》
《南無・・・》
《やっぱり、シュールストレミングだったか・・・》
《マーマンの正体はニシンだった》
シュールストレミング、それは23世紀においてもなお頂点に君臨し続ける世界一臭い缶詰である。
その後十数分に渡り苦しんだ三人の怒りが、集まってきたマーマンもどきにぶつけられたのは言う迄も無い。
・・・・・・・・・・・・。
・・・・・・。
・・・。
「お鼻の中がまだ臭いよぉ、お姉ちゃん。涙が出るよぉ!」
「それはお姉ちゃんにも、どうにもしてあげられないわ・・・うっ、まだ臭い」
『我もこの星へ来て初めて食らった苦しみだ・・・』
シュールストレミングの直撃を食らい、常人よりも五感が鋭い二人はそのショックから現在とんでもない問題が発生していることに気付いていなかった。
「おとーさん大丈夫? 直接かかったよね、ごめんね」
『これは事故だ、流々が気にする事ではない。それよりも早く風呂に入りたいな』
「貴方が入ったら茹蛸になるんじゃない?」
『なるわけがないだろう、我は仮にも邪神だぞ』
お前に鼻があるのかという疑問はさておき、配信中だったことを思い出した護は視聴者を置き去りにしていたことを謝罪しようとタブレットに目をやった。そこで初めて事態に気が付く。
《タコがしゃべってるうううう!?》
《なんだあれっ、新種のモンスターか!?》
《待て、気のせいか流々ちゃんがお父さんって呼んでなかったか?》
《奏 寧々子:流々ちゃん、そのタコさん何っ!?》
《なるほど☆ポテ子:あちゃ~・・・》
《工藤 炎樹:あらぁ、そのタコさんっていつも抱いてるぬいぐるみ・・・よね?》
《丹波 薫:お二人共早くタブレット見て下さいっ、探教の電話が発火しそうなくらい鳴り続けてるんですっ!!》
《二人共早くタブレット見てくれ!!》
《情報プリーズ!!》
「・・・あっ」
護は瞬時に現状を理解した、そして流々を振り向く。
「どうしたの、お姉ちゃん?」
『何があった?』
護は静かにタブレットを見せる。
《丹波 薫:やっと気付いてくれましたねっ!? 早く何か説明を! あと、早く帰ってきて下さい!》
「・・・あっ」
『成程な』
二人も状況をようやく理解した。
しかしどう説明するか、一番重要なのはクトーに危険がないと知らせることだが・・・まぁ信じようが信じまいがクトーは流々から五メートル以上離れられない、その為自動的に着いてくることになるのでどうしようもない。
悩んだ末に三人は一番シンプルな説明を取った。
「おとーさんです!」
「流々の保護者よ」
『流々の父、クトーである』
《納得できるかああああああ!!!!!!》
《説明短っwww》
《余計に謎が深まったw》
《お父さんって、マジでお父さんなのか!?》
《丹波 薫:お二人共っ、早く、早く帰ってきてえええええ!!》
《あぁ、きっと探協に猛烈コールがきてるんだろうな・・・・・・》
《え、流々ちゃん人間なんでしょ? じゃあそのタコはなに?》
《なるほど☆ポテ子:三人共、丹波さんが本気で泣きそうなので、早く帰ってあげて欲しいっす・・・》
やはり無理だったかと、流々達は探索を中断し即時帰還する事にした。
こうして流々の初めての探索配信は終了する。
流々と護にとってこの日は、その気はなくとも邪神には常に混沌と混乱が付きまとう事を実感できる一日となった。
未開封のシュールストレミングは炎樹にプレゼントされました ← 食べてみたいらしい
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
最後まで読んで下さり、ありがとう御座いました!
また次の更新も宜しくお願い致しますm(_ _)m




