41目 母娘
作品に興味を持って下さり、ありがとう御座います!
どうぞ最後までお楽しみ下さいm(_ _)m
流々と胡愛の号泣騒ぎから二時間後、学園の応接間では先の騒動の主要人物達と保護者、担任の計八名が顔を合わせていた。
ちなみに芦屋、猪名川、高砂の三名は両手にバケツを持ち、担任のソファーの後ろに立たされている。
「先生・・・このバケツ結構重いんだけど、何が入ってるのっ」
「砂利です、話し合いが終わるまでそのまま反省していなさい」
「る、流々ちゃんの為やったんやってっ! 堪忍して、ホンマ重いっっ!」
「さなえちゃん、俺のバケツだけサイズと数がおかしくないかっ!?」
猪名川はスキルの無断使用も含め重めの処分である為、両手を前に出した状態で空気イスのポーズを取らされている。
なお手足頭含め砂利入り大型バケツが9つ乗せられていた。
「さて、まずは工藤さん、お仕事中お呼びだてして申し訳ありませんでした。どうやら、生徒達が胡愛さんと九冬さんを強引な手段で仲直りさせようとしたみたいでして・・・」
「まぁ、そうだったのですか・・・」
探索中に呼び出された炎樹は防具を装着したままだった。
余程急いできたのだろう、不安と緊張が表情に見えていたが、担任である尼崎 さなえの言葉を聞き一先ずは安心して息を吐いていた。
「うちの子のと流々ちゃんの仲が悪いことは聞いていたのですがぁ・・・色々ご迷惑をお掛けして、申し訳ありませんでした」
何が良い悪いかまだ分かっていなかったが、まずは保護者として頭を下げた炎樹。だがその姿に慌てて隣にいた胡愛が反論した。
「ち、違うわママ! 別に私、あの子と仲が悪いわけじゃないっ。それに何も悪い事もしていないし、されてもないわっ!」
「でも、流々ちゃんの事避けてたんでしょう?」
「そ、それは・・・」
胡愛の言う通り、二人は険悪なわけでも喧嘩をしていたわけではない。ただ胡愛が避けていただけだ。
「流々ちゃんに何かされたのぉ?」
「・・・されてない」
「何処か嫌いなところがあるのぉ?」
「ない・・・むしろ可愛いと思う」
「ならどうして、ママに教えてくれないかしらぁ?」
「・・・・・・」
問い詰めるつもりは無くとも、どうしてもその様になってしまう。
その事に責められている気持ちになった胡愛は再び涙ぐみ、徐々に理由を話し始めるだが、胡愛が口にした理由は予想外のものであった。
「だ、だって、だってママが流々の話ばっかりするんだもんっ!!」
当然、面食らったのが炎樹。まさか自分の名前が出るとは思いもしなかった。
「ま、前にイカのモンスターが出た時、ママもそこに居るって知って凄く心配したのにっ、何も無かったみたいな顔して帰って来るし、ずっと流々の話ばっかりするしっ! 流々の事、娘にしたいなんていうしっ!」
「胡愛ちゃん・・・」
胡愛が自身も理解していなかった気持ち、それは『嫉妬』。
投げつけるように言葉を吐き出し漸く気付いた自身の気持ち。胡愛は愛する母を取られると勘違いし、流々に敵意を剥いていたのだ。
「胡愛ちゃん、ごめんね。ママ、胡愛ちゃんがそんな風に思っていたなんて知らなかったわ・・・」
「ママは、私より流々の方が良いんでしょ・・・こんなすぐ怒る私より、素直で可愛い流々の方が良いんでしょ? だって、前の家から追い出されたのもっ、ママが嫌な思いしたのもっ・・・」
「そんな事ないわ、胡愛ちゃ──『それにっ!!』」
「それに・・・パパが死んじゃったのだって、きっと・・・私のせいよ・・・」
工藤家は母子家庭である。それは胡愛が10歳の頃、彼女の父がダンジョンで事故死した為だ。
彼女の父はDランクダイバーであり、決して弱くは無いが強いとも言えないダイバーであった。
当然強くないダイバーはチームで探索するのを推奨されているが、成功報酬制であるダイバーは当然ソロ活動の方が実入りが良く、彼女の父もソロ活動で稼ぎ家庭を支えていた。
だがイレギュラーで発生したモンスターに遭遇し、死亡する。
Dランクダイバーの事故死は多いとは言えないが少なくもない出来事であり、今回それがたまたま彼だっただけの話なのだが、当時色々とあった胡愛にはその事故が『自分のせいで起こった』と思い込んでしまう。
「ぐすっ、私が居なかったら、ママ達は前の家に住めてたし、パパが居なくなる事も無かったっ! 私知ってるもんっ、ママがパパの写真見て時々泣いてること知ってるもんっ! 全部、私のせいよっ、うわああああんっっ!!」
胡愛の溜め込んでいた想いや不安が、慟哭と共にさらけ出された。
その悲痛な叫びに一同は目を伏せる。
否定することは簡単である、だがそんな言葉も悲しみに染まった幼心には言い訳か慰めにしか聞こえない。
結局、本人が成長し時間をかけて受け入れる意外に、胡愛の心を救う方法は無いのである。
それを理解している炎樹は泣き叫ぶ胡愛をただ抱き締めた。
「ごめんね、ごめんね胡愛ちゃん・・・ママ、全く胡愛ちゃんの事分かってあげられてなかったわ・・・」
「うあああああんっっっ!!!!!!」
「パパの事も、前の家の事も、胡愛ちゃんに信じて貰えるようにママ頑張るからっ、だから今はこれだけは信じて。ママは一度も胡愛ちゃん以外が良いだなんて思った事ないわっ!!」
炎樹は胡愛の頭を包むように抱き締め、優しく撫でながら語りかける。
腕の隙間からは、胡愛の炎がちらちらと燃えているのが見える。
「ママね、お仕事で何日か空けることもあるでしょう? あまり一緒に居てあげることも出来ていないわぁ。でもママは胡愛ちゃんをあまり一人にしたくないの、寂しい思いをさせたくないのよ」
子を思う母の思いが胡愛にどこまで届くか分からない、だがそれでも口に出さなければ伝わらない。
これで胡愛の悲しみを少しでも減るならばと、炎樹は思いを伝える。
「本当は胡愛ちゃんに弟妹を産んであげたかった、でももうパパは居ないの。そう思ってた時に会ったのが流々ちゃんだったのよぉ。流々ちゃんは素直だし、何より胡愛ちゃんに似てる。きっと仲良くできる、胡愛ちゃんも寂しくなくなるって、そう思って娘にしたいって思っただけなのよ・・・」
「ぐすっ、ぐすっ・・・マ、ママ・・・」
「でも胡愛ちゃんが嫌だって言うなら止めるわ。だって、胡愛ちゃんはママのただ一人の娘で、一番大切な宝物なんだもの──それより優先するものなんて無いわ」
「ママーッ、うええええええんっっっ!!」
子供は大人が思っている以上に様々な事を考えて行動している、ただ経験が伴わない為に大人の予想もつかない事を考えることもある。
その事を改めて知った炎樹は、もっと沢山言葉を交わそう、もっと娘の事を知ろうと心に誓う。
そして今はただ、愛情と謝罪を込めて我が子を優しく抱きしめるのであった。
作者コメント:ツンデレ娘の大号泣からしか得られない栄養ってあるよね。
**********************************
最後まで読んで下さり、ありがとう御座いました!
また次の更新も宜しくお願い致しますm(_ _)m




