34本目 歓迎された邪神
作品に興味を持って下さり、ありがとう御座います!
どうぞ最後までお楽しみ下さいm(_ _)m
探索者学園、通称『探学』。
そこは日本に四校のみ存在する、探索者協会が運営する教育機関である。
『えー、桜が美しく舞う今日──』
生徒及び職員や出入りする業者に至るまで、全てが協会関係者もしくはその家族であり、学習プランも通常科目に加え戦闘訓練やダンジョン学等、将来優秀なダイバーを生み出すことを第一として組まれている。
まさに将来の日本を守る若人の学び舎であり、流々と護が新たに飛び込む世界だ。
『こうして、才能溢れる皆様と──』
時は4月、学び舎に新たな風が吹く季節であり、探学では今まさに入学式が行われていた。
体育館には沢山のパイプ椅子が並び、クラス分け表に合わせ生徒達が着席している。
ちなみに着席している生徒達は皆、中等部から上がってきた生徒であり、流々と護は体育館のステージ脇に控えていた。
通常であれば入学する生徒は割り当てられたクラスの席に一緒に座り、HRなどで改めて自己紹介となるのだが、この二人の場合少々勝手が違う。
流々は勿論のこと、護も日本を守るトップランカーの一人であり広く顔が知られている為、下手すると流々以上に騒ぎになる可能性があったからだ。
その為、『特別入学』の体で全体に紹介してから生徒と交流させていこう、となったのだ。
『そして一歩大人へ近づいた──』
23世紀になっても式の挨拶の長さは昔と変わりなく、何名かの生徒の意識が彼方へ飛びかけた頃、漸く流々達の紹介に移った。
『えー、本年度は一般入学とは別に二人、皆様と同じく生徒としてこの学び舎に通います。恐らく知っている生徒も多いでしょうが、改めて御紹介します。九冬 流々さんと、虚柄 護さんです』
学園長の紹介に合わせ舞台脇から中央へ歩き静かに礼をする二人の姿に、新入生達の意識が覚醒する。
生徒達は虚柄 護という一流ダイバーの登場に歓声を上げた。それもその筈、何故ならここは探索者達の学園であり生徒達の目標は正に彼女だからだ。
野球の強豪高に日本プロ野球選手が入学してきたようなものである。
そしてそんな生徒の注目は、護に隠れるようにして立つ少女、流々に向いた。
小柄な流々だが当然タコ足は隠れていない。
「流々、そんなに引っ張ったらスカート脱げちゃうから離して」
「で、でででも・・・お姉ちゃん・・・」
「ほら、手を握っててあげるから」
「う、うん。ありがとう」
流々は差し出された手を両手で握り生徒達に向き直ると、ペコリと頭を下げる。
その様子に会場は静まり返る、そして──。
「「「「「ぅええええええええええええっっっ!?!?!?」」」」」
「ひゃうううううっっ!?」
驚愕の声に驚き、流々は再び護に隠れた。
生徒達の声がどういった感情から発せられたものかは分からないが、悪感情が込められている気配は無く一先ず安心した流々。
でもやっぱりちょっと怖いので、護に抱き着いて、大好きな香りに心を落ち着かせるのだった。
こうして世間を騒がせた姉妹は、無事学園に入学を果たした。
◆
始業式が終わり生徒達は教室へ移動する、そして流々と護は職員室で諸々の説明を受けていた。
校内には多くの子供達の声で溢れている。さぞかし沢山の生徒が通っているのだろうと流々は考えていたが、実は探学は探索者関係者のみの学園という特性上生徒数が少ない。従ってクラス数も多くて一学年100人程度しかないのだ。
この声の多さは、単純に職員室と初等部棟の位置が近い為である。
ちなみに探学は小学校から高校までエスカレーター式に進学するので、入学式も入学式と銘打ってはいるが顔触れに変化は無く、実質は新年度からの中高等部新規入学生を歓迎する会のようなものである。
「九冬さん、虚柄さん、お二人は同じ学年への入学となります。九冬さんにとっては年上ばかり、虚柄さんにとっては年下ばかりで最初は居心地が悪いかもしれませんが、生徒の様子からも分かる通り皆さん貴女方を歓迎しております。どうか安心して楽しい学園生活を送って下さいね」
「入ったら挨拶、入ったら挨拶、入ったら挨拶・・・」
「・・・感謝します」
入学時の扱いとしては流々は飛び級、護は二年遅れの入学という形になる。
これにはいくつか理由があり、まず流々を入学させるにあたり保護者兼ストッパーとして護の存在が必要だった為、二人を同学年にしていた。
二つ目の理由として、単純に護が高校二年の学習能力に追いついていなかったから。
三つ目の理由として、護に実戦経験者として生徒たちの模範に、そして追々一般生徒の受け入れを検討している為看板として長く学園に居て欲しかったからである。
ちなみに情操教育向上の為二人は別クラスである、二人は別々の意味で人として成長が必要な為である。
先程の短い会話からも察せられる通り、色々問題があるのだ。
二人が入学するにあたり詳細な情報が学園側に伝えられており、職員にも情報が共有されていた。その為、護の『大人嫌い』についても当然聞かされており、女性教諭は護の様子を伺っていたのだが・・・実際話してみると想像以上だった。
「流々、緊張し過ぎよ」
「だ、だって、ご挨拶は大切だってお姉ちゃんが!」
「そうね、でもそんなにガチガチだと口が開かなくなるわよ?」
「そうなのっ!?」
「ふふ、冗談よ」
女性教諭の目の前では、溢れんばかりの愛情と慈愛の眼差しで流々に接する護の姿がある。
先程教員達に対し何の感情もなく、ただ単語で応対していた姿は何だったのか。別人かと思うほどの豹変ぶりである。
「あぁ、心配だわ・・・」
護はちゃんと人の輪に入れるだろうか。そもそも入ろうとしてくれるだろうか、入れても馴染めるだろうか。
子供好きである女性教諭の心配は尽きない。
彼女の心情はさておいて、説明も終わった為流々達はこれから自分達が過ごすことになるクラスへ移動する事になった。
「それではお二人を教室へ案内しますね」
「お姉ちゃん、教室って何?」
「流々と一緒にお勉強する子供達がいっぱい居る部屋よ、決まった時間ちゃんと席に座って先生の言っていることを聞くの。意味のないことも話してるけど、大人しくするのよ? チャイムが鳴ったら動いていいから」
「意味ないの? うん、分かった!」
二人の会話を聞いていた女性教諭は眩暈がした。
「あぁ、すごく心配だわ・・・」
同じ学年の教室は同じ階に並んでいるらしいので、二人は教室に入る間際まで手を繋いで歩いていた。
探学の校舎は小中高で分かれており、造りも若干異なる。
詳しくは階段の高さ幅だったり手すりや手洗いの位置であるが、体格が小学生低学年程度しかない流々にとってこれは少々使い辛いらしく、微妙に合わない歩幅のせいで躓きそうになるのを度々護が手を引っ張り補助していた。
それを見ていた女性教諭もハラハラしっぱなしであ
る。
折り返しの階段を四回上った3階の踊り場から左右に廊下が続く。
片側の壁には窓があり光が差し込み、反対側は部屋なのだろう、扉と窓がいくつも並び人の声がした。
よく見ると扉の上に横長の長方形の板が等間隔に飛び出ており、一番手前の板には『1-A』と表記されている。どうやらここが教室のようだ。
先を見ると、二人の到着に気付いたのか『1-C』の扉から50代くらいの男性教諭が扉から姿を見せ、こちらを見て待っている。
「では九冬さんは私と1-Aへ、虚柄さんはあちらの先生と1-Cにお願いします。私が先に入りますので、呼んだら入ってきてくださいね」
「は、はい。お姉ちゃん、また後で、ね!」
「流々、しっかりね。怖かったらいつでもお姉ちゃんの所に来るのよ?」
「う、うん!」
最後にぎゅっと抱き合い、二人は別々の教室へ。
今生の別れのような雰囲気を出しているが、別々の部屋に1時間ほど離れるだけである。
二人は新しい世界への扉を前に流々は期待と緊張を半々に、護は殆ど興味を示さずに、中から呼ばれるのを待つのだった。
《1-A教室》
「はい、皆さんお静かに。クラスメイト同士挨拶は済まされたかと思いますが、これからもう一人クラスメイトを紹介します。くれぐれも騒がないように! では九冬さん、入ってきてください」
『は、はは、はいっ!』
担任である女性教諭の声に促され、流々は扉を潜る。
よほど緊張しているのか右手と右足が同時に前に出ている、かくかくと手足を動かし女性教諭の横に立った流々はクラスメイトに向き直った。
クラスは全員で30人程だろうか、多くの者が口を開けこちらを見ており誰も声を発さない。
「こ、こここ、こんにち、わ。く、九冬 りゅるでひゅっ! す、好きなものはっ、お姉ちゃんですっ!」
「「「「「・・・・・・」」」」」
「あ、あれ?」
誰も何も言わない、流々は何か間違えたかと心配になる。
どうしたら良いのか分からなくなり、隣の女性教諭に声を掛けようとしたその時──。
「「「「「うおおおおおおおおおおおおっっっ!!!!!!」」」」」
「「「「「きゃああああっ! 可愛いいいいっっっ!!」」」」」
「ひゃあああああっっっ⁉⁉⁉」
突然の歓声に流々は驚き教卓に隠れるが、クラスメイトは流々の事が怖くないのか一斉に群がった。
「えっ、マジでこのクラスなん!?」
「ねぇねぇっ、君いくつなのっ⁉ 本当に高校生⁉」
「どうしてランドセルなの⁉ すごく可愛いんだけどっ!」
「ニュースの子ってアンタだろ! すげぇ強いよなっ、あのモンスター倒すところスカッとしたぜ!」
「きれいな髪色っ! なぁなぁ、少し触ってエエ?」
「あわわわわわわ・・・あわ、あわ・・・あ・・・ぁ・・・」
「みんな、騒がないの! 席に戻りなさい!」
ダンジョン脱出後、それなりに人と交流し人慣れした流々であったが、それでも興味津々に詰め寄ってくる人はまだ怖かった。
ましてやこの人数に、逃げ場のない教卓の下、そして年上の男女。涙ぐむのも仕方ないことである。
「・・・ぐす」
「ヤバいっ。みんなっ、この子が怖がってる。解散っ!」
「あぁ、ごめん! みんな着席、着席!」
中等部でそういった訓練でもあったのか、一人の指示に全員が即座に従う。
しかも流々が涙ぐみ始めた為、それに気付いた彼等の行動は過去最速であった。
それを見た女性教諭は「まったくもぅ」と溜め息をつく。
「ご覧の通り九冬さんは諸事情により、あまり人と接することなく育ちました。皆さんはその辺りに配慮して接するように! 九冬さん、ごめんね。何か伝えることはありますか?」
生徒たちの行動を予想していた女性教諭は生徒たちに注意を促したあと、流々の前にしゃがみ込み流々に話し掛けた。
流々はごしごしと涙をぬぐい、教卓の下から這い出て再度クラスメイトに向き直る。
「ぐす・・・流々です、12さいです・・・髪はさわっても良いです、でもカバンはお姉ちゃんがくれた宝物だから、さわっちゃヤです・・・ぐすっ、ぐすっ・・・」
「・・・なんかごめん」
「超悪いことした気がしてきた」
「12歳って、あんなに幼かったっけ?」
囲まれた恐怖が抜けずまだ少し涙ぐむ流々だったが、口々に謝罪を伝えてくれる様子からきっと悪い人達では無いのだろう事は感じ取れる。
話し終わり、最期にペコリと頭を下げた流々は沢山の拍手でクラス迎え入れられた。
だがその中に燃える様な強い視線が含まれていることに、流々は気付いていなかった。
《1-C》
「・・・流々が泣いてる気がする」
護は別の教室に居る流々の感情の機微を、何となく感じ取っていた。
すぐにでも傍に行きたいがそれは流々の為にならないと考え直し、気持ちをぐっと堪えてひとまず目の前に集中する。
護は流々に甘い、激甘だが甘いだけの姉では無いのだ。
「えー、入学式に出ていた生徒は知っているかと思うが、今年から虚柄 護さんが妹さんと一緒に入学している。この学校でも数少ない上級ダイバーだ、迷惑の掛からない範囲で色々勉強させて貰うように」
「虚柄 護です、1-Aにいる妹共々宜しくお願いします」
相変わらず護の言葉には殆ど感情が乗っていない。
しかし護は元々探索配信で人となりが知られており、その感情を見せない姿がクールだと意外に評判がいい。
護自身はその感想に至る視聴者の気持ちが全く分からないが、悪くなるよりは良いし素のほうが楽なので、「まぁ良いか」と気にしない事にしていた。
なお、男子生徒は護という美少女の登場に大いに盛り上がっていたが、護は大人以上に男のそういった感情が大嫌いな為、男子生徒にはもれなく絶対零度の視線がプレゼントされるのだった。
男子生徒諸君に明るい学園生活が訪れる事を願うばかりである。




