22本目:漆黒の一閃
作品に興味を持って下さり、ありがとう御座います!
どうぞ最後までお楽しみ下さいm(_ _)m
僕は天井を伝って、人がいっぱい並んでる一番後ろに移動します。
多分だけどさっき僕を投げたニョロニョロさん達がまだ居る筈です、おじさんの人は僕にそのニョロニョロさん達を倒して欲しいって言ってました。
みんなで食べるのかな? 美味しいもんね!
おじさんの人の正体は、たぶんポテ子お姉ちゃんです。お姉ちゃんと同じ匂いがしました。
ポテ子お姉ちゃんだと気付くまで、本当に怖かった・・・。怖くて怖くて泣いちゃいそうでした、また「きもちわるい」とか「しんじゃえ」って言われるのかなって思ったらお耳塞ぎたくなります。
でもよく考えたらお外に出てから一度も言われたことがありません。ということは、やっぱり僕がお母さんを悲しくさせちゃったんだなと改めて分かりました。
「僕が、いなくなって・・・幸せになってたら、いい、なぁ・・・ぐす」
幸せは、良いこと。お姉ちゃんも言ってました。
だから僕が居ないのは、きっと良いことだったん、だな・・・と・・・。
他の事を考えよう、考えていないとお胸が潰れてしまいそうです。
ギュッとする気持ちをがまんして、僕はポテ子お姉ちゃんの事を思い出しました。
ポテ子お姉ちゃんは何であそこに居たんでしょう? 何でおじさんの人になっていたんでしょう?
「ポテ子お姉ちゃんは、実はポテ子おじさんだったのかも! だって、お胸無かったし!」
今度、どっちで呼んだ方が良いか聞いてみないといけません。それよりも今は、ポテ子お姉ちゃんのお願いを叶えてあげないと!
人の列の最後尾まで来た僕は、しゅるるとタコさんの手を伝って下に降ります。
そこにはまだ人が居たみたいで、降りてきた僕を見てびっくりしていました。
「な、何だっ、何か降りてきたぞ!?」
「またイカが増えたのか!? もう勘弁してくれ・・・」
「待って、違うみたい。人? ・・・いえ、子供?」
みんなの視線が僕に集まります、ニョロニョロさん達も僕を見ています。怖いので、そんなに見ないで欲しいです。
居心地の悪さを感じていると、僕を見ている人の中にポテ子お姉ちゃ・・・ポテ子おじちゃんが居るのを見つけました。いつの間に来たのでしょう? 足速いです。
「ポテ子おじちゃん! おじちゃんも、こっち来たの?」
「えっ、隊長このモンスターの子と知り合いなんですか? っていうか、近づいて大丈夫なんですか?」
「し、知らんっ!! と言うか俺はまだ20代だ、おじさんじゃねぇ! お前誰だ、敵なのかっ!?」
「よく見たらこの子、凄く可愛くないですか?」
あれ? ポテ子おじさんじゃない? すんすんすん・・・あれっ、匂いが違う。違う人だ!?
おじさんの人も僕もビックリして、二人一緒に後退りました。
よく見たら、髪短いお姉さんがさっきまで僕が居た所に手を伸ばしていました。
「あーん、逃げちゃった・・・」
「いきなり触ろうとするからや。ていうかいきなり触るとか、お前勇気ありすぎやろ。モンスターやぞ?」
「ていうか・・・後ろのイカが動かないんだけど、何で?」
「ねぇ、この子って噂の子でしょ! 助けて貰おうよ!」
僕も人が怖いですが、おじさんの人達の中にも僕が怖い人が居るみたいで、大きな声を出しています。
でも中には僕に目線を合わせて声をかけてくれるお姉さんもいます、この人は怖くありません。たぶん優しい人なんだと思います。
どうしよう、このままニョロニョロの人と戦っていいんでしょうか?
僕はニョロニョロさんとおじさん達を何度も交互に見て考えます。
ポテ子おじちゃんにも頼まれたし、とりあえず先にニョロニョロさんをペチンとしてしまおう! そう思った時、おじさん達が傷だらけなのに気付きました。
さっきの優しそうなお姉さんもよく見たら、腕が変な方向に曲がっています。
(たぶん凄く痛い、かわいそう・・・あっ、そうだ!)
そういえば美味しい木の実が残ってたはず。
僕は秘密のポケットから木の実を持てるだけ取り出して、お姉さんの前に置きました・・・出来るだけ離れたところから。
「き、きのみっ、きのっ! こっ、これ・・・あああああ、ぁげっる!」
「えっ? く、くれるの? ・・・これっ、快癒の実!?」
「ひゃああああああっ!?」
いきなり大きな声出さないで欲しい・・・こ、怖かった。
でもこれで怪我は大丈夫。あの木の実は凄く美味しいから、食べたらケガも治るよね。
僕は後をお姉さんに任せて、ニョロニョロさんの方へ近付きました。
僕は改めてニョロニョロさんを見やります。ニョロニョロさん達は、いーち、にー、さーん・・・えっと、とりあえずまだいっぱい居ました。
お姉さんに木の実を渡してる間に何かしてくるかなと思ったのですが、みんなブルブルして動きません。
「・・・寒い? ううん、怖がってる? 僕を怖がってる? ・・・何で?」
ニョロニョロさんの表情はよく分かりません。でもあの目、よくお母さんが僕を見ていた時の目です。
お母さんは僕にあの目を見せた時、決まって『ばけもの』『きもちわるい』と僕を呼びました。
そういえば、おじさんの人達もニョロニョロさんに向かって、同じ事を言っていた気がします。つまりお母さんには、僕がニョロニョロさんと同じ姿に見えていたんでしょうか?
──僕は、お母さんにとって何だったんでしょう?
僕はお姉ちゃんにギュッとしてもらった時や、撫でてもらった時、絶対にお顔を見ません。だって怖いから。
お姉ちゃんは絶対にそんな事思ってない。そう信じてるけど、聞いたことはありません。だから実は本当は、お母さんと同じで思っていたのかもしれません──僕は『ばけもの』だって。
お姉ちゃんは優しいから、がまんしていたのかも知れません、ポテ子おじちゃんも、さっきのお姉さんも。
なんだかどろっとしたきもちが、きもちガ、きモチガ・・・。
『──憎いカ?』
「・・・?」
ふるふると、僕は頭を振って何も考えない様にしました。
今やらきゃいけないことは、ポテ子おじちゃんのお願いをきくこと、その後僕を待ってるって人に会ってまたここの下に戻ること、ただそれだけです。
いつもと違って、今回ニョロニョロさんは数が多いので、掴んでペチンは難しそうです。だから違う方法でいこうと思います。
僕は胸いっぱいに空気を吸って、それを思いっ切りニョロニョロさんに向けて吹き出しました。
プシッ──シューーーーーーーッ!!
空気と一緒に吹き出たのは、真っ黒なお水。その正体は『墨』。
墨をお口の中でいっぱいギリギリまで固めて吹き出すことで、何でも切れるお水になります。
顔の動きに合わせてできた、黒い細い横一本の線。
墨が出終わると石の壁も、水晶の柱も、ニョロニョロさんも上半分がゆっくりとズレていき、後には崩れる音だけがダンジョンに響きました。
いつもならいっぱいお肉がとれて嬉しいのに、今日はなんだかモヤッとしました。
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最後まで読んで下さり、ありがとう御座いました!
また次の更新も宜しくお願い致しますm(_ _)m