8本目:邪神再降臨
作品に興味を持って下さり、ありがとう御座います!
どうぞ最後までお楽しみ下さいm(_ _)m
「ふんっ、ふんっ、ふふぅ〜〜ん♪」
僕は今日もご飯を探しにお家から30回くらい上に登りました。
ポテ子お姉ちゃんに教えてもらいましたが、僕のお家は「だんじょんげーと」っていうところから50回くらい下に歩いた所にあるみたいです。
そんなにとおい所まで、僕がどうやって流れてきたのか・・・フシギです。
「ポテ子お姉ちゃん、早く来ないかな! 『すぐ』って何回オヤスミしたら来るのかな?」
ポテ子お姉ちゃんはすごく優しかったです。
お家の外で初めてやさしくしてもらいました、おかしもくれました、いい匂いでした、大好きです!
ご飯を探してとことこ歩いていたら、少し前の方でいっぱい声がします。
「あれ? また人の声がする・・・さ、さいきん多いよぉ。今まで、こんな所まで来なかったのに・・・」
だれか居ると思うと、お胸からドキドキ大きな音がします。
怖いな、でもお話もしてみたいな。もしかしたら、ポテ子お姉ちゃんみたいに優しくていい匂いがするかもしれません。
「こ、こここ、怖ぃ・・・けど・・・行ってみよう、うん・・・」
ドキドキしながら僕が歩いていった先で見たのは、いつもより体が真っ赤っ赤で、大きな剣を持った牛さん。
そして、そんな牛さんに襲われているお兄さん、お姉さんでした。
◆
その日、探索者協会より依頼を受けた俺達は『邪神の呼び声』地下20階の探索に来ていた。
依頼内容はダンジョン異変と未確認モンスターの調査である。
だがランキングの高くない俺達は、5人一組になり且つ、異変調査に重きを置いていた。
因みに、ダイバーはトラブルを避ける為に基本ソロ活動である。
「えー、皆さんこんにちは。今回の探索は調査です。先日確認された異変と人型と思わしき触手モンスターの捜索です」
「普段より深い所に潜るから、5人でチームを組んでるぞ! 推しダイバーの活躍をずっと映したり出来なくなるけど『生命を大事に!』で行きたいからごめんだぞ!」
《地下20階だもんな、仕方ないw》
《そこ一人で歩けるなら、既に上位ランカーだもんな》
《ってか、未確認モンスターに会いに行くゆう時点ですごいやん!》
《俺なら行く前にチビッちゃうね》
《行く前にチビるんかwww》
中級と呼ばれるランクで構成された俺達。シーフ1名、ソードマン2名、マジシャン1名、ヒーラー1名と非常にバランス良く組まれており、なおかつお互いが顔見知りである為チーム内の雰囲気も良かった。
地下20階における最強のモンスターは以前ネネコダイバーを追い詰めたミノタウロスであるが、俺達ならば例えミノタウロスが5体出ても何も問題は無いだろう。
そう確信できるだけの実績が俺等には在った。
「ダンジョン内に特段違和感はないな。しいて言うなら遭遇率が低い?」
「そうだな! アタシのセンサーにも全然引っ掛からないぞ!」
「如何致しましょう? 一度戻り報告しますか?」
「そうだな・・・いや待てっ、奥に何かいるぞ。赤い・・・ミノタウロス?」
探索を続け、その先で見つけたのは色は違う赤褐色のミノタウロス。
色が違うという事はレア種だろうか? だが居るのはたったの1体、油断しなければ問題は無いと俺は判断した。
《赤いミノなんて初めて見たな》
《色違いの個体って、見つかったことあったっけ?》
《一応あるらしいぞ、殆どがスライムとスケルトンだけどなw》
「ヴフゥウウゥゥゥゥ・・・ヴフゥウウゥゥゥゥゥ・・・フシューー」
ミノタウロスの生臭い匂いが俺達の緊張感を一段階引き上げる、問題は無いと言っても油断はできない相手なのだ。
体格は通常のミノタウロスと何ら変わりない、少し頭から背中にかけて毛が濃い感じがある。
手にしている武器は自然武器ではなく、錆びた大剣。その錆びは手入れ不足か、はたまた──他者の血によるものか・・・。
角は通常個体と同じ赤茶色ではなく、黒曜石を思わせる黒。それは奪った命を吸い込んだかのように、一切の光を反射していなかった。
「油断せずに行くぞ。前衛は防御姿勢で接近、ひとまずは後衛でダメージを与えて様子見だ。支援はすぐ魔法を掛けられるように準備」
「「「「了解っ!」」」」
接近した後陣形を展開し、ジリジリと数センチ単位で接近を試みる。
油断は一切ない、すぐに盾を構えられるよう左手に神経を集中させていた。
あと一歩で剣の攻撃範囲に入る、ミノタウロスに動く様子はない。
俺は一斉に攻撃を仕掛けるべく、合図を送ろうと視線をもう一人の前衛に向ける。
──そこに、仲間は居なかった。
「──っ!? 馬鹿なっ⁉」
俺は気付いた、いつの間にかミノタウロスの足元に仲間が倒れていることに。
(幻覚かっ⁉ それとも何かの能力かっ⁉ あいつはどうなったっ、生きているのかっ⁉ どうしたら良いっ、早く判断をっ!!)
何が起こったのか分からない。だが自分達が対処できるレベルを超えている事だけが分かった、分からされた。
《嘘だろっ、全く見えなかったっ!!》
《スロー再生にしたら、ギリギリ動いてるのが見えた。嘘だろ・・・》
《スロー再生でかろうじて見えるって、人間が対処出来るわけないってっ!!》
《アカンって! はよ逃げなっ!!》
《な、なぁっ、あのダイバー生きてんのかっ⁉》
《助けられなくても仕方ないってっ!! 一人でも多く生き残らないとっ!!》
「後衛に逃げるように言わなければっ!! おいっ、俺等は置いて逃げ──ぐはっ⁉」
指示を飛ばそうとした時、一瞬ミノタウロスの姿がブレた。
咄嗟に、本能的に盾を構えた。盾が間に合ったのは奇跡だろう、だがその行動はほぼ意味をなさなかった──盾ごと壁に吹き飛ばされた。盾は原型を留めていない。
あり得ない、そう思いたい光景だった。信じられない事に、あのミノタウロスの動きは幻覚でも能力でもなく、ただの身体能力。
──地面に、罅割れた蹄の跡が残っていた。
そう、ただただ、生き物としての格が違ったのだ。
《い、一応探協に連絡は入れたけど・・・》
《だ、ダメだぁっ!! 間に合うわけがないっ!!》
視聴者も生きるための手段を模索してくれていたが・・・探索者をしている以上覚悟していた結末、それが迫っていた。
もう配信を止める余裕も力も無い、仲間を見ればシーフがおとりをしている間にヒーラーがもう一人のソードマンを回復していた。
シーフの彼女だけでも逃げて欲しい、彼女だけならば逃げられる可能性が高いからだ。
仲間内でも緊急時はそうするよう決まっていた、だが彼女は──誰よりも仲間を大切にする彼女にはその選択がとれなかった。
「ばかやろう・・・だけど、そんなお前等だから・・・」
良いチームだった。気の良い親友達、そして愛する女性。
自分には勿体なすぎる人達だった。
「みんな・・・今までありがとう。情けないリーダーで・・・申し訳ない・・・だがっ、せめてっ!!」
俺は最後の力を振り絞り、立ち上がり盾を投げつけた──シーフを切り捨てようとしていたミノタウロスの剣は、衝撃で空振った。
「ヴオオオオオオオオオオッッッッ!!!!!!!」
「俺が最初だっ!! 来やがれっ、牛野郎っ!!」
一瞬でも、仲間が逃げる隙が出来るのならば。
愛する彼女が生き残る可能性が増えるのならば。
その意思が伝わったのか、はたまた邪魔に思っただけなのか。ミノタウロスはリーダーに矛先を向けた。
「ダメっ!! ダメだぞっ!!!!!!」
「いやっ、いやああああああああっ!!!!!!」
「すまない・・・生きてくれ」
俺の目前に迫る赤い影。振り上げられる冷たい鉄の塊。
「結局・・・気持ちは伝えられなかった、な・・・」
それは風を切り、今一つの命を絶たんと振り上げた、そして──
──降ろされることは無かった。
「ヴォッ?」
「えっ?」
殺戮の場に間抜けな声が重なる、状況がよく分っていない1人と1匹。
だが1人、他の仲間より離れた位置にいたシーフだけは何が起こっているのかを理解していた。いや、理解はしていなかった。ただ見えていた。天井に触手を伸ばす謎の生物が居るのを。
《なんやあれっ⁉》
《天井に何か居るぞっ! ってあれ? 天井って結構高かったよな?》
《ってことは、あれってめっちゃデカいんちゃうんっ⁉》
俺とミノタウロスは同時に上を見上げる、そして『それ』に気付いた。
ぬるぅと動くその触手、だが吸盤の付いたそれは触手というよりタコの足の様だ。
振り上げた剣を掴んでいたタコ足は一瞬にしてミノタウロスの腕に絡みつき、徐々に体を締め上げていった。
「ヴオオオオオオォォォォォッッッッッッ!!!!!!」
ミノタウロスは自身がどういう状況にあるのか、ようやく理解したらしい。そうミノタウロスは今、捕食されているのだ。
絶対的な強者であり、自身もそう信じて疑わなかったであろう存在は徐々に体が浮いて行き、ゆっくりとタコ足に巻き取られながら・・・天井の暗闇に姿を消した。
──ゴキュッ
最後に音が聞こえた、きっとそういう事なのだろう。
自分達を死の寸前まで追い詰めた存在はこうして何の抵抗も出来ずに捕食され、そして自分たちは生き残ったのだった。
だが、まだ助かったとは言えなかった。何故なら、そのミノタウロスを捕食した存在が天井に居るのだから。
──ズル・・・ズル・・・
何かが天井を這う音だけが聞こえた。
「・・・ゴクッ」
誰一人声を出さず、息を殺して暗い天井を見る。
すると暫くして、タコ足でぶら下がった何かが、降りてきた。
まるで蛇を思わせる動きで垂れ下がってきたもの、それは──。
「・・・女の子?」
そこに現れたのは一人の幼い少女であった。
タコ足が生えていることから、人間ではないだろう。だがモンスターと断ずるには、あまりに人間過ぎた。
そして、異形の姿をしていて尚、その少女は可憐だった。
「ぁ・・・だ、大・・・丈・・・・・・ケ、ガ・・・ぁうぅ・・・」
少女は、よく分からないがもじもじしていた。
どうしたら良いのだろうか、このまま立ち去っても良いのか? 俺は現状を理解しかねていた、そんな俺に助け舟を出した者達が居た──視聴者である。
《あっ! この子、ネネコちゃんを助けてくれた子やんっ!》
《ホンマやっ! 今回も助けてくれたんか?》
《あの時は人間だと思ってたけど、こうして見るとやっぱり人間じゃないよな。可愛いけど》
《触手があっても、俺はいける》
《俺もいけそうな気がするw》
《お前等、最強か・・・》
《タコさんっ、ネネコちゃんを助けてくれてホンマありがとう!!》
「君たちは彼女の事を知っているのか? 良ければ教えてくれないか?」
俺は視聴者と簡単なやり取りをし、この少女が自分たちの探していた未知のモンスターであったことを知った。
「どちらにしても、まずはお礼だな。それと敵意が無い事を伝えなければ・・・」
《お菓子持ってない?》
《お菓子あげたら良いよ、前の時チョコに興味津々だったw》
《いや、流石にチョコなんて高級品持ってきてないか》
《たぶんクッキーとかでもいけるんちゃう?》
《言葉も・・・たぶん通じる思うで》
「なるほど、感謝する。みんな、お菓子を持っていないか?」
「あっ、持ってるぞ! アメとクッキーだけど!」
「俺もブロッククッキーだけだな」
「私はドライフルーツがあります」
各々持っていた甘味を袋に集め、俺が代表して渡そうと近付いた。
するとタコの少女はビクビクと、こちらを怖がる様子を見せる。
「ひぅっ!?」
「す、すまない。分かったこれ以上は近づかない! この袋に甘いものが入っている、助けてくれたお礼だ。持って行ってくれ!」
「──っ⁉ ぉ・・・ゕしっ!!」
袋をキラキラした目で追いかけるタコの少女、もうどう見てもモンスターには見えなかった。
その様子は年相応の子供のそれだった。
「ここに置く、持って行ってくれ!」
近くの岩に袋を置き離れると、少女は触手を伸ばし袋を引き寄せる。
それを大事そうに胸に抱えると、タコの少女は嬉しそうに、それはもう嬉しそうに笑いながら凄い速度で立ち去ってしまった。
《行ってしもた》
《もうちょっと話したかった!》
《そもそも会話してないけどな》
《っていうかむっちゃ可愛かったんやけど!》
《分かる、小動物っぽいというか》
《軟体系小動物少女》
《新ジャンル作るなw》
「行ってしまったか、できれば話をしたかったが・・・あの様子ではまだ話せないな。・・・ん?」
タコの少女の消えていった先を見やる、任務も大切だが俺は仲間を病院に連れて行くことを優先し断念する事にした。
仲間の状態を確認しようと振り返った時、先程菓子の袋を置いた岩に別の物が置いてあることに気付く。
「何だ・・・これはっ⁉」
岩に置かれていた物──流々がお菓子のお礼にと置いていった物──は木の実、『快癒の実』だった。
それは外傷を癒し体力と気力を回復させる、ダンジョンでしか取れない高級アイテムだった。
それが全部で5個、つまりチームの人数分。
「ありがとうっ・・・」
あのタコの少女が何なのか、それは結局分からなかった。だがきっと敵ではない、そう理解した俺の手の中にある快癒の実には、へたくそな字で「ぁけ゛る」と書かれていたのだった。
◆
この日以降、《邪神の呼び声》に潜る探索者はお守り代わりにお菓子を持つようになる。
『お菓子を持っていれば女の子のモンスターが助けてくれる』と噂になり、皆が流々を一目見ようとこぞってダンジョンに潜るのだが・・・それが結果的に流々の、そして自身の命を脅かす結果となる事をこの時点ではまだ誰も気付いていなかった。
作者コメント:今の所ミノさんに食べられる以外の未来無し。
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