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true177の短編小説10作詰め合わせ【4】

俺のポンコツ彼女は、目を離したらすぐやらかしてくれる。

作者: true177

 世界中にどこまでも広がっている大海原。見渡す限り果てしない陸地。宇宙から傍観すると、人間は微生物だ。

 しかし、奥地や過疎地をくまなく探し回ったとて、俺の彼女は一人しかいない。


美紀みき、そっちの角持ってくれないか……?」

「スーパーから買ってきた米袋より重かったよ!? 一人で持ち運べるわけ……」

「だから二人で運ぶんだよ」

「……そっかぁ……」


 象に踏みつぶされる心配を払拭した効果か、脆弱性が散見される我が恋人はようやくベンチから立ち上がった。

 美紀の休憩時間は一時間に設定されている。労働基準法を遵守する意思がうかがえる……と褒めたいところではあるが、肝心の俺は休みなし。ブラック企業なら訴えている。


「……持つって言っても、固定してない棚掴んでどうするんだよ。外れたら付けなおしてもらうぞ?」

「……分かってたよ? 分かってたけど、成岡なるおかくんの集中力を確かめるテストをしただけだからね?」


 日光で熱されてでもされていたのだろうか、美紀は反射で木材から手を引いていた。

棚は片方がネジで留められているだけの製作途中で、いつ折れてもおかしくない。

 進行がここまで遅れる予定ではなかった。二人で協力する前提のプランでは、もう一時間前には作業を完了しているはずだった。


 ……美紀が、ここまで使い物にならないなんてなぁ……。


 五キロの米袋に悪戦苦闘する彼女が材料を運搬できるはずが無かった。寸法を測らせようとしてもポンコツで、目盛りの読み間違えで危うくゴミを量産する一歩手前まで進んだ。

 これが自宅の改修に俺が呼んだなら仕方ない。日曜大工の初心者を連れ込んで、予定通りに進まないと嘆く方が変質者扱いされる。


 ところが、ここは美紀の部屋である。ブルーシートに床面が覆われてはいるが、紛れもなく彼女が寝起きする部屋だ。

 美紀の手伝いに来させられているのは俺だと言うのに、当の本人が働かなくては意味が無い。無銭で労働しているのだから、有難いと少しは思って欲しいものだ。

 業者に発注してもらえば安いと何度も説得したが、頑なに『二人でやろう』と言って彼女は聞かなかった。安易に甘い言葉を信用してしまった自分を殴ってやりたい。


 気晴らしに彩られた木目が、コーラの凝固跡のように見えてきた。小窓が開いているだけの部屋では、蒸し暑くてたまらない。


「……ここ、ネジ留まってないよ? 私が直しとこうか?」

「残り全部やってくれてもいいんだぞー?」

「……成岡くんは無理難題ばっかり押し付けてくるね」

「どの口がほざいてるのやら」


 この会話を切り取ると堕落女子高生の我がままだが、学校での彼女は神聖そのもの。髪として崇めたたられている。主に男子からだが。

 壁際に放置してあったドライバーセットから適当な物を取り出して、美紀がネジ留めに入った。


 ……ネジくらい、やり方を教えなくても大丈夫だよな……。


 螺旋に注意すれば、回す方向は読み取れる。

 俺はノコギリを取りに部屋を出ようとして、情けない助けを呼ぶ声に引き止められた。


「……あれ、回らないよ……?」

「右回りか左回りか、合ってるんだろうな……?」

「おかしいな、右に回してるんだけど……」


 文字通り右と左を把握していない恐れのある美紀だ。大概逆回しで空回りしているのだろう。

 薄っぺらい知識で華麗に美紀を救おう、と俺は彼女が必死に押さえつけているネジを覗き込んだ。


 ドライバーの先端とネジ穴が、一致していなかった。


「……バカかアホか何かか? プラスならプラスドライバー、マイナスならマイナスドライバーを使わないと……」

「でも、こんな感じで刺さってるよ?」

「それはネジ穴が潰れてるんだよ……」


 容量限界を超えた鉄の棒を押し込まれて、マイナスネジは見るも無残な姿に変わっていた。これでは、ネジが回るはずも無い。


「……どうしよう……」


 視神経が昔のブラウン管になっていそうな目をする美紀。ネジを一個潰したくらいで、オーバーリアクションが過ぎる。


 ……これも含めて、美紀ってことだからな……。


 プライベートでは怠惰の神様であることも、失敗を巨大化してしまうことも、全て最初から知っていた話である。


「……ネジ一個壊しただけで気にするなよ。失敗は誰にでもあるんだからさ」

「……それじゃあ、次壊しても文句は言われないね?」

「わざとじゃ無かったら」


 今度は逆回しで『ネジが締まらない』と苦情を入れてきそうだ。


「流石に、プラスドライバーをマイナスネジにはめ込もうとするのは初めてだけどな……」


 俺の彼女は、放っておけない。

最後まで読んで下さり、誠にありがとうございます!

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