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プロローグ

「アマンダ・ジャコビー、貴様は王太子様の婚約者でありながら、自身の屋敷に仕える従者と関係を持った。さらに罪のない男爵家の令嬢をいじめぬいた。王太子様の心を傷つけ、王家に背いたその罪、貴様の死をもって償うがいい。貴様は断頭台送りだ！」

裁判所の判事の声に、アマンダはその場で崩れ落ちる。

「そんな、判事殿、アマンダは決してそんなことは……！」

「ジャコビー元伯爵、見苦しいぞ。証拠は揃っているというのに。娘可愛しさに嘘の証言をした貴様の罪も問うように、国王陛下も王太子様も求めていらっしゃる。貴様の屋敷に仕える使用人共々、ジャコビー一族はすべて、斬首刑に処す！」

え……！

これは想定していた結果ではないわ。

王太子の婚約者の身でありながら、浮気をして断頭台送りになるのは、アマンダだけのはずでは!?　父親のジャコビー伯爵は、爵位剥奪で終わるはずではなかったの……？

失敗したと悟る。

入念に準備をして、アマンダが舞踏会の場で断罪される姿を見た時。

これでようやく復讐できたと思ったのに。

「刑は即日、行使される。これから二時間後、貴様たち全員は広場にて斬首刑だ！」

判事が木製のハンマー「ガベル」を叩いた。

◇

鋭い刃が落とされる時よりも、木製の血濡れた階段をのぼり、跪いた時の方が、恐怖を感じた。

父親と兄は尽力してくれたと思う。

だが間に合わなかった。

でも彼はあれを両親の元に届けてくれたはずだ。

あれにより残されるみんなは救われる……。

静かに目を閉じた。

家族の姿が脳裏に浮かぶ。

でも、もうこれでいい。

例え自分の死と引き換えであっても。

復讐は果たされたのだから。

「それでは使用人、005の刑を執行する」

それが最後に聞いた言葉だった。

◇

自分の悲鳴と共に目覚め、心臓が止まりそうになる。

い、今のは夢……？

自分の首に触れ、生きていることを理解する。

なんて、なんて恐ろしい夢なの。

止まりそうと思った心臓は、今は激しく鼓動している。

でもそのことで自分が生きていると実感できた。

夢というにはあまりにも生々しいもの。

これはなんというか、前世の記憶なのでは……？

そう思った瞬間。

激しい頭痛に襲われる。

走馬灯のように頭の中で記憶が巡り、そのままベッドに倒れ込んだ。

◇

乙女ゲーム「恋する時間を君と共に」。

高校生の頃にハマり、大学進学と共に、一度は卒業したゲーム。

しかし私の大学生デビューは失敗に終わった。

つまりは生来のオタク気質を隠し、リア充として溶け込もうとしたが、それは無理だった。結局、再び乙女ゲームで遊ぶ日々に逆戻り。でもってゲームの課金のためにアルバイト三昧。

そのアルバイト先は……そう、乙女ゲーム「恋する時間を君と共に」のグッズを作っている会社！　事務作業の手伝いで、作品に直接関わることはなかったが、社内には沢山のグッズが飾られ、この空間にいるだけで幸せだった。

熱心な働きぶりが認められ、卒業後、その会社にそのまま就職。でもって気づけばアラサーとなり……。恋人もなく自宅と会社の往復の日々だったが、企画部に異動となり、「恋する時間を君と共に」のマグカップの企画をまかされた。

嬉しくてかなり熱をいれて取り組んでいたはずなのに。

気づけば、乙女ゲーム「恋する時間を君と共に」の世界に転生していた。

悪役令嬢アマンダ・ジャコビーとヒロインであるトレイシー・ノヴェロは、既に存在している。

では私は誰に転生したのか――それは悪役令嬢の専属メイド！

その名はセリーナ・ナイトレイ、23歳。

名前はちゃんとあるが、モブ……だと思ったが、そうではないことは、覚醒しセリーナ自身の記憶を知ることで理解する。

悪役令嬢アマンダは、なぜ悪役令嬢になってしまうのか。

その理由はゲーム内でこう説明されている。

「ヒロインの攻略対象である王太子は、アマンダの婚約者。宮廷音楽家はアマンダのいとこ。公爵家の嫡男はアマンダのクラスメイト。隣国の第二王子はアマンダの憧れの人。商人から男爵家の爵位を得たノヴェロ一族の娘であるトレイシー（ヒロイン）が、格上の伯爵家の令嬢であるアマンダと関連のある人物に手を出すことが許せず、アマンダは悪役令嬢として、どの攻略対象を選ぼうと、邪魔をします」

でも、これは……表向きの設定だったのだと、私は知ることになる。

だって、アマンダを悪役令嬢に仕立てのは……セリーナだ。

つまり、私だった！

お読みいただきありがとうございます！

晩御飯までに完結させるつもりです。

ページ下部にイラストバナーで、一番星キラリの悪役令嬢作品を紹介しています。

ぜひページの下の方までスクロールして見てください～！

一押しは……表紙絵解禁！

～読者様の感想に応え、続編公開開始～

　『　断罪の場で悪役令嬢は

　　自ら婚約破棄を宣告してみた

　　　　　～回避成功編～　　　』