玉蟲先生
98話 玉蟲先生
「いつもながらママのオムレツは美味しかったな」
双子の妹のアヤとあたしは一緒の部屋。
夕食後、部屋に戻り。
で、二段ベッドの上がアヤであたしが下。
ジャンケンで決めた。
ベッドの向かいに机がふたつ並んでいる。
この位置だとベッドは北で南枕だ。
あたしは当然南枕なんだが、上のアヤは北枕で寝ている。
風水だか、なんかの本に書いてあったらしい。北枕は、実はベストだと。
だから、あたしの頭の真上にアヤの足が。
別に透けて見えるわけじゃないけど、なんとなく気になる。
とーちゃんの臭い足じゃないからいいけと。
ママは、ママでいいが。
とーちゃんは、とてもパパとは呼べないタイプのおっさんだ。
「アヤ、玄関で言いかけたお姉ちゃんの話。気になるんだけど」
アヤは宿題をしているので机にむかってる。
あたしはベッドに寝ころんで、スマホで漫画を。
「あ、ごめんなさい。アレは、忘れて」
「なんだよ、あそこまで言いかけて忘れるわけないじゃないか」
アヤは椅子に座ったまま。背を向けて。
「なんでかな……つい言っちゃたの。お姉ちゃんから聞かされたあと、念を押されて。『絶対に誰にも言うな』って。言ったら素っ裸にして冬の九十九里の海に投げるって……」
「お姉ちゃんが、あんたにそんなコトするわけないじゃない。お姉ちゃんは、あたしよりあんたがかわいいんだから。あたしならやりかねない」
「そんなことないわ、お姉ちゃんの目が怖かったもん」
「ん〜でも知りたいなぁお姉ちゃんが合気道やめた理由……まさか、玉蟲先生にセクハラされたとか」
「……」
「玉蟲先生って、女子に教えてるときと、男子に教えてるときとの目が違うんだよなぁ」
「どう違うの?」
「目が笑ってるというか、ときどきヱッチな視線感じるんだ」
「玉蟲先生って、もうすぐ定年と聞くわ。わたしたちみたいな子供にイヤらしぃ視線だなんて……」
「アヤは聞いたことないか、玉蟲先生の噂」
「知らない。玉蟲先生とは、国語の授業でしか。まあ入学した頃に、合気道やらないかと誘われたけど。べつにイヤらしい目は……」
「わたしらは部活で毎日会ってるからな。女子の先輩が言ってた。先生の奥さんは二十以上歳が下でね。先生はロリ婚なんだって」
「えー初耳ぃ。先生の奥さんそんなに若いの」
「ホントかどうか、知らないが元教え子らしい。時代からして、お姉ちゃんの同期かも」
「そうなの」
「あくまで、噂だよ。お姉ちゃんカワイイから、ねらわれてたかも。で、玉蟲先生のセクハラで。違うかなアヤ?」
「違うとか、近いとか、言えません。お姉ちゃんの怖い目を思い出しちゃた。わたし素っ裸にされて九十九里に投げられたくないから」
へぇ~っくしょん!
「あなた、風邪? 最近温度がコロコロ変わる季節の変わり目だから気をつけてね……実は、今日。妊娠検査薬使ってみたの。そしたら……」
「おお、この歳で親父になるのか……でも、子供にお爺ちゃんとか、言われたらどうしょう」
「話は最後まで聞いてよ。妊娠はしてなかったの。季節の変わり目で体調崩したのは、わたしね。明日、病院へ行ってくるわ。でも、まだなれないわ名前、玉蟲玉江。なんか、自分の名前呼ばれた気しないの」
「そうか……。まだ、なれないのか」
つづく




