カオルが来た
316話 カオルが来た
「愛さ〜ん、連れて来たよ」
「こんにちは愛さん。こちらが、椿さんね。はじめまして病院坂薫です」
「はじめまして茂木林椿です」
黒いロリータの人の次は白いロリータの人。
ヘアードレスから靴まで真っ白だ。
いくつの人だろう見た目は、わたしと同じくらいだ。
それにしても綺麗。お人形さんみたい。
美少女って言葉はこの人のためにあるんじゃないかしら。
彼女が靴を脱いで家に上がる。
「ごめんなさい、知ってたら白いスリッパを」
「気にしないで、この赤いスリッパであたしの白が引き立ちます」
お父さんたちが帰ってきて夕食の支度を。
「なんか、なつかしいわぁウチも昔は農家だったんだよ」
「いつ頃? テマリの家って……」
「中学生になる直前まで」
「良かったわね。やっぱり農家にロリータは……」
「いや、別に農家の娘がロリータでも問題ねぇよ。ウチの孫の椿がそういうかっこしてたら、わしは自慢してまわるわ。ワハハハハハ」
「お爺さんは派手好きだからねぇ。昔はお爺さんと私はおそろいの真っ赤なアロハ着て狩井沢の商店街を歩いたもんだよ」
「お祖父ちゃんたち、今でもアロハシャツ着てるよね」
「椿も、そのおねえさんたちにならって、そのロリータファッションとやらを……黒、白。だから赤はどうだ」
「あら、おじい様、赤はもう。あたし、青とか黄色とか、見てませんわ」
「そうか、黒ちゃん。青とか、緑がいいかな。黄色が居たら信号娘だな。3人で売り出したら売れるんじゃないかキャンディ娘みたいに」
「おじい様、『黒ちゃん』というのはNGです。キモい芸人と同じなので」
「『黒ちゃんです』ってか、そうだな。アレと一緒にしたら可哀想だ!」
「なんか、お祖父ちゃん。酔ってないですよね。昨日とは違う感じ。こんなに明るくて陽気なお年寄りでしたっけ?」
「お爺さん、若い子がたくさんいて嬉しいんだよね。え〜と、獄門島さんだっけ。この人は、いまだに女の娘アイドルが大好きでね。今の推しは『フィリア』の犬上明菜ちゃんなんだよ。ねぇお爺さん」
「母さん犬上明菜ちゃんは十年に一度の逸材だ、今はあのコにかなうアイドルは居ねぇなあ父さん」
お父さんまで。知ってたけど。犬上明菜は、わたしも好き。
「ああ、このまえ公会堂に来て生明菜ちゃんを見てチビッたわ」
「明菜さんはどこでも大人気ね」
あの白いロリータファッションの子を見てたら、わたしもなんかああいう格好したくなっちゃた。
「良かったらイイお店紹介しますよ」
「え、わたしの心、よめるんですか?」
「そんなことは、出来ませんわ。あなた、あたしを、ここに来てからよく見てらっしゃるから、それ憧れの視線よね」
「あ、そんなにわたし見ててたの。恥ずかしいねぇ」
「お父さん、今夜はご機嫌ですね。一本開けますか」
「おお、沙織さん。気がきくのぉそれじゃ」
農家の家庭料理は美味しかった。
さて、わたしたちは椿さんの部屋に。
「今日は現れるかしら」
「どうですかね。あいつ気まぐれと言うか。来るかなと思えば、ひと月来なかったり。毎日来たり」
「椿さんは、声を聞くときは目を閉じてるの?」
「開けたこともありますけど、なにも居ませんでした」
病院坂さんが、わたしを見つめている。
この人の能力については、なにも聞かされてない。
「会話もするの?」
「あまり会話らしいことは、やめて。とか、いやらしいとか、あっちの言うことに文句とか拒否が多いです」
「椿さんは、長いあいだよく妖精の誘いに乗らなかったわね」
手鞠さんが。
「わたしが苦手なタイプだったからかしら。なんでもかんでも自分で決めちゃうような。わたしの話なんか聞こうともしない」
「一方的な男はイヤよね。わたしもそういうヤツに学生の頃、あゴメン。そんなコトはどうでもいいか。で、カオルの意見は?」
「う〜ん相手が見えないから残像は無いわ。椿さんが純真で無垢な、今どきそういない子なのはわかったわ」
「そういうトコをヤツは気に入ったのよ。で、ヤツは、あなたをからかい続けてるのよ」
「子どもの頃からよ、テマリ」
「愛さん、中学生は、まだ子どもです。妖精ってヤツは、いたずら好きな子どもみたいですけど元は自然の精霊。太古の昔は神とも。最終的には椿さんと一体になり妖精以上のナニかになろうとしてるのでは」
「妖精以上のナニかってテマリ?」
「ナニかです……」
「ナニそれ」
「ごめんなさい。勉強不足です。お金とらないから勘弁してください」
「いやいや、そこまで期待してないからテマリ」
「愛さんあたしも、そいつの話を聞いてみたいです」
「あのレコーダーの声は聞いたよね」
「直接聞いてみたいんです。今夜、椿さんの布団の中に隠れていていいですか?」
「かまいませんけど、今夜も来るかどうか」
この人と同じ布団の中で、なんかドキドキだ。お風呂でキレイに洗わなくちゃ。
つづく




