九郎田茜
29話 九郎田茜
背の高い草むらから手が出た。
女の手だ、手のひらは白いが、日焼けした手だ。
「紙ないの持ってる?」
やはり、さっきの声だ。幽霊とは、思えない。
わたしはティシュペーパーを出し渡した。
街で配ってるアレだ。
ちなみに未使用のヤツ。
しばらくすると、草むらの中から女のコが出てきた。
「ありがとう。出してから紙を持ってないのに気づいたの。最悪、パンツで拭くつもりだったんだ。まえにさぁその辺の葉っぱで拭いたら、かぶれて、えらい目にあったのよね。紙、全部使っちゃったけど」
「いいわよ」
白い夏服のセーラー服着たちょっと日焼けした女のコは、おカッパ頭。
セーラー服の襟とスカートは黒。襟の線は白三本のオーソドックスなセーラー服。
スカーフはしてない。
「あなた、島の学生?」
「え、あ、そうだけど」
「この島に高校があるの?」
「え、あたい高校生に見える? 中学生だよ。島でたった一人の」
「時間からして、今は……」
「授業中って………。つまんないからサボってんの。生徒一人にジジ、ババの先生が四人も居てさ。退屈なんだよね、その老人たちの授業がさ。あっ、なんか飲み物持ってる? ウンチしたら喉がかわいちゃたよ」
わたしは、船に乗る前に漁港の自販機で買った水のペットボトルを渡した。
「ありがとう。おねえさん、なんでも持ってるね」
なんでもって、水とティシュくらいしか。
「愛さ〜ん。どうしたのぉおお」
「ナニ、あの人お姫様?」
高台の平たい石の上に立ってカオルが日傘を上下してる。
ロリータファッションなんて、島じゃありえないわよね。
「アレは、友だち。あの服装はロリータというファッションよ。外国のお人形さんみたいでしょ」
「そうなんだ。本島のお姫様か、なんかだと……」
「行こ、二人に紹介するわ」
どうやら、この廃村は彼女のサボり場で、よく来るらしい。
朝食になにか、わるいものを食べたらしいと
この子。
で、お腹こわしたと。
「何者、この子?」
「島のただ一人の中学生だって、名前は……聞いてなかった」
「言ってないし。あんたたちは、本土から来たんでしょ」
「あたしは病院坂薫。はじめまして」
薫は白い手袋をしていた。
もちろん夏季用のだ。
セーラー服の子は、その手を珍しそうに見ていた。
「その手袋は、暑くないの?」
「カオルを見て、お姫様かって」
「あんた、あたいと同じくらい?」
「そう見える? でも、もう学校は、おわってるのよ」
「そーか。おねえさんか。カワイイから……」
そうなのか、わたしはさっきまで学生と思ってたけど、考えて見たら平日だし。
でも、行ってれば高校生くらいよね。
「女」より「少女」だカオルって。
病院坂薫の記憶がないから、聞いたかもしれないけど。学生ではないと。今、知った。
わたし。
「あたいは九郎田茜」
「アカネちゃんか。わたしは、獄門島愛。よろしく」
「そっちのオバさんは?」
「オバさん……じゃないわよ。私は、そこの獄門島ちゃんと、ほぼ同い年よ。八ツ墓村歩美。『アユ』と呼んでいいわよ」
ほぼ同い年? わたしは、一回り上と思ってるんだけど。
「あんたたち島へ何しに? しかも、なんで、こんなに町外れの廃村に?」
「それはね、上陸するトコ間違えて、裏の釣り場から上がっちゃたの」
間違えてというのはウソだが。
「この島に来るのに釣り船で来たから」
「そーなんだ」
ググッグー
「私じゃないわよ」
誰も八ツ墓村さんとは。音はあきらかに。
「あーサボってたから給食食べそこねた」
「ねえ、アカネちゃん。町へ行けばコンビニとかあるよね」
「コンビニ……」
「無いの24時間やってる店」
「この島に24時間やってる店なんか、ないわよ」
「雑貨屋が漁港に『マー姉ちゃんの店』がある」
「お姉さんのお店?」
「違うよ、そういう名の店だ。けど、飯食うならサカナ屋だ」
「魚屋さんがやってる食堂?」
「違う。サカナ屋という蕎麦屋だ。島で一軒の食堂。まえは、寿司屋とか、あったけど今はそこだけだ。『マー姉ちゃん』の婿さんがやってる」
と、いうわけでアカネちゃんに漁港まで案内され店を教えてもらった。
彼女は去った。
家でお昼ご飯を食べると。
お昼なら、ご馳走したのに。
島で唯一の食堂。サカナ屋。
店名が出てないので、わかりづらいとアカネちゃんが。
目の前の店。
普通の家とは違うが、店名、看板もないから
知らないと入らない。
「こんにちは~食堂ですよね」
八ツ墓村さんが、横のスベリのガラス戸を開けた。
「おかえりなさいませご主人様」
「メイド?!」
つづく




