病院坂薫
14話 病院坂薫
「愛さん、『黒のっぺ』って知ってる?」
今、わたしの前でフルーツパフェを美味しそうに食べながら話す白いロリータファッションの娘をわたしは知らない。
と、いうか憶えてないのだ。
わたしから、「タイムパトロール」の記憶を消したつもりの未来人。
その記憶は消えなかったが、代わりというか、いくつかの記憶がなくなってた。
その一つが、彼女の記憶だ。
わたしとは親しいのだろう。
声をかけてきた彼女は、どんな名前で、どんな子なのか、わからない。
見た目は派手なファッションの変わった子だ。
年齢はいくつだろう。ちょっと見は少女で中学生くらいか、高校生?。
だが、子供が平日の街中をうろついてるはずもない。かなりの童顔なのか。
「美人、美女」より「美少女」という方が、しっくりくる。
長いまつ毛の大きな瞳の目が、わたしを上目づかいで見ていた。
「愛さん、聞いてます? 会った時から変ですよ」
「あ、ゴメン。仕事のコトで、ちょっと考えごとを」
「忙しかったかな。お茶に誘ってごめんなさい」
「イヤ、ぜんぜん」
仕事なんて、まったくない。
「ゴメン、なんだっけ?」
「黒のっぺ。知ってる? と」
「くろのっぺ。なに?」
「知らないよね。だって、あたしが勝手につけた呼び名だから。のっぺらぼうは知ってるよね」
「ええ、それなら。顔に目も鼻も口も無いお化けでしょ」
「そうそれ」
彼女はパフェのメロンを手で取って食べてから。
「世の中に顔のない人間が居るのよ。普通の、のっぺらぼうは、まだ見たことがないけど。
黒のっぺは顔がなくて黒い影があるだけの人間……影というより闇の空間かな、星のない夜空のような」
「ソレが黒のっぺ」
「そう。まあ極たまに見る程度なんだけど。そいつらを宇宙人とか言う人もいるわ」
「わたしは、そんな人は見たことないな」
「そうよね『見える人』が見てるだけだからね」
なるほど、そういうコトか。見える人とは、アレか霊感とかが強い連中。
そうか、彼女は霊能力者か。
探偵のわたしにいても、おかしくない知り合いだ。
「その黒のっぺがどうしたの」
「最近、家の近所でよく見かけるのよ」
「近所に住んでるの?」
「それは、わからないわ。住んでるのか、友だちの家に遊びに来てるのか。あたし、彼らの居場所をつきとめる程、暇じゃないし。そこまで関心ないもの。世の中には、人じゃないモノなんて沢山いるから、いちいち気にしてたら疲れちゃうの」
「そうか。見える人あるあるみたいなのね」
それから、あたり障りのない世間話とかしてパーラーを出る時に。彼女がお茶代を払ったので、わたしの分を出すと。
「いらないよ、お茶に付き合ってくれたお礼よ」
奢ってもらった。
「ありがとう。 あの最後に、あなたの名前確認していい?」
「え〜ナニ。変な名前だから偽名だと思ってるの。愛さんに合わせたジョーダンじゃないわよ」
「あ、いや。そうじゃなくて……わたしの名前も冗談じゃなく本名だから」
やっぱり忘れたとか、言えない。かなり親しそうだし。
「忘れないでよ。病院坂薫よ。じゃバイバイ、またね」
日傘を開き、去っていった。
病院坂薫か。ダメだ思い出せない。
タイムパトロールのバカヤロー。
つづく




