アイドルとエイリアン
113話 アイドルとエイリアン
まだ暗い早朝。
犬上明菜のマンションから駅前へタクシーに乗ろうと歩いてた。
それは、交差点の真ん中に立っていた。
暗いけど何か普通じゃないのが立っているのはわかる。
信号と街灯の明かり。
クルマは通ってないからか、交差点の真ん中に。
そいつは立っていた。
そいつは、わたしに気づいたのか。こっちにゆっくり近づいてくる。
耳だと思うが顔の横に大きな先がとがった形がわかる。
猫背で腕が長くて地面すれすれだ。
ヒタヒタという足音。靴音ではない。裸足。
そいつは人では、ない「ナニカ」だ。
逃げよう、こいつはヤバい。
プッパー!
交差点にクルマが!
「ハネた!」
ドシンという鈍い音。
なんと、クルマはそのまま猛スピードで走り去った。
ひき逃げ。
でも、ひかれたのは人ではないもの。
そいつはハネられて、わたしが居る反対側の歩道に跳ばされた。仰向けに倒れてる。
どうしよう。「ひき逃げ事件」と警察に通報するべきか。いや、ヤツは人ではない。
うわぁ。ヤツが立ち上がった。ひかれたのに、なんともないのか?!
顔の横についた大きな目の瞳が動き。
こっちを見てる。
ヤツが倒れていた場所は街灯の下だったので姿がよく見えた。
やはり大きな耳。目がカメレオンみたいで、あっちこっちに動いているのが見えた。
その目が、わたしの方で止まった。
鼻らしき突起はなく目の下にキバが出た一文字の口。服らしいのは着てない。
そうだ、このバケモノを写真におさめなくてはと。スマホを出そうとしたら。
走り出し、もう目の前に。
ハヤッ!
「イヤァア!」
悲鳴とともに足が上がった。
素早くよけた、わたしはヤツの頭にかかと落としを放っていた。
猫背で、少し小さかったので見事にヤツの後頭部に決まった。
目の前でヤツはうつ伏せで倒れた。
今だ、逃げよう。
と、走った。が、すぐに肩を掴まれた。
その手には長いかぎ爪があった。
今度は後蹴り。
高さからヤツの股間のあたりだ。
痴漢とか相手が人間の男なら悶絶するだろう蹴りだが、しかし相手はバケモノ。
ん、振り返るとヤツは股間をおさえて悶絶していた。
こいつも股間に急所が。
写真はあきらめて逃げた。
午前9時朝の社長室。
「そんな事があったんですか」
わたしは金田一に即興で描いたバケモノの絵を渡した。
「マジスゴい体験だけど、そいつバケモノの着ぐるみ着て獄門島ちゃんを脅かしたんじゃないの。だから股間蹴られて……。ハロウィンちかいし仮装してたとか?」
「八ツ墓村さん、ヤツは、クルマにハネられても平気だったし。着ぐるみでは、ありえない素速さも……。生物感あって着ぐるみには思えなかった……」
「こいつエイリアンじゃないですかね。最近噂の」
「エイリアン、金田一ちゃん。チンピラの首落としたという……アレね」
八ツ墓村さんは、社長室のソフトクリームマシンで、コーンにアイスクリームを乗せながら。
「おっと、7段成功。最高記録達成。あ」
と、ソフトクリームのてっぺんが落ちそうに。 彼女はてっぺんをパクっとやった。
「あ、ソレ僕のじやないの?」
「社長、私ならイイじゃないですか。ハイどうぞ。いいかげんソフトクリーム乗せるの上手くなって下さいね」
「なんでかなぁ僕、基本器用なんだか、ソレだけは苦手で……。まあそのバケモノの話も驚くが。どうなの犬上明菜は?」
「はぁどうにも……彼女、尾行をまくのが上手いんで、どうしても……。あの子、空でも飛ばないと逃げ切れないトコでも見失うんです。さすが、数多のベテラン探偵もお手上げのターゲットですね。こういうのは、わたしよりベテランの青沼さんとかの方がいいんじゃないですか」
「空飛んで消えるなら獄門島ちゃんだろ」
「飛んだとか、言ってませんけど……。それにわたし、飛べませんから追えません」
「ああ、こいつ大昔現れたという宇宙人に似てますよね」
わたしが描いたヘタクソなバケモノの絵をしげしげとながめていた金田一が言った。
「キバが、あるとこは日本、交府であったUFO事件の宇宙人にも似てますけど、たしかそいつは服は着てました」
マニアの彼女らしい。が、その絵はあのバケモノを上手く表現してるとはいえないので、そんなに詳しく話されても。
やっぱり写真撮っとくべきだった。
「あの……社長。彼女のマンションの近くに現れたり、あの新熟でのUFO騒ぎの時に突然姿を消したり犬上明菜とUFOは何か関係があるのでしょうか……」
謎の飛行機事故のただ一人の生存者というのも気になる。
「さあ、どうかなぁ。ソレを調べてるのが獄門島ちゃんの今の仕事だ」
「UFOとアイドル。昔あったなぁそんな歌。ユーフォオ!」
と、社長は頭の後ろから手を上げて変なポーズをした。
わたし、その歌ぜんぜん知りません。
つづく




