形見をもらう
110話 形見をもらう
元モデル・俳優の刑部姫子(本名・岡松日出代)さんが、交通事故で死亡。
喪主は叔母の伊藤里絵さん。
わたしは、最近付き合いの多いテマリを呼び出した。
彼女なら刑部のモデル仲間で親交あった人物と説得力がある。しかも、毎度喪服のような姿だし。
わたしだけだと、モデル体系じゃないから、あやしまれると思い。テマリにも同行してもらった。
刑部の実家近くで、おこなわれる葬儀に出た。
刑部の実家は軍馬県にあった。
火葬まで付き合い叔母に話した。
彼女の形見を欲しいから家に行きたいと。
ほとんど刑部と付き合いのなかった叔母は、彼女の実家に連れて行くから好きな物を持っていって良いと。
言ってくれた。
刑部の母、叔母にとっての姉は亡くなって、住む者も居なくなり家は処分すると叔母は車中で言っていた。
前もって、依頼人の本陣貴成に羽子板禊と出会ったときの服装を聞いておいた。
その服が刑部の実家にあれば。本陣が会ったのは羽子板禊になった刑部姫子だという証にもなるだろうと葬儀に出たんだ。
好きな物を持っていって良いと、言ってくれた叔母は、車内で待ってるからとタバコに火をつけた。
その姿が、刑部のブロマイドの顔に似てた。
やはり親族だ。
だが、喪服で葬儀に出ていた叔母さん。
羽子板禊にも似ているなぁとも思った。
「愛さん、黒いワンピに赤いカーディガンって、それほど珍しいファッションではないから、あっても……どうなのかなぁ?」
「そうよね、やっぱり本陣貴成に来てもらえば良かったわ」
「あった、黒いワンピース……でも。一着やニ着じゃないです。ん〜十着くらいありますよ」
「赤いカーディガンは三着。テマリ、全部持ってきたバッグに入れて。あとで見せるわ。あと、下着ね、ブラとショーツは同じ薄いピンクでレースの薔薇の刺繍が入ったやつ」
「愛さん。それも、二つあるわ」
家から出てきたわたしたちが大きなバッグを抱えてたので叔母さんは少し驚いたようで。
アクセサリーか、なんか小物と思ってたらしい。
「モデルさんね、服が欲しかったの。良かったら家具とかも持っていってもいいわよ。姉も居ないし。全部処分するつもりだから」
「あ、いえ……充分ですので」
わたしは、本陣貴成に会社まで来てもらい服の見分をしてもらった。
本陣貴成は、オタクでせんのほそい痩せた男を想像していた。声もやわらかな感じだったし。
来たのは短髪を金色に染めたマッチョな男であった。
スポーツジムでインストラクターやボディビルダーのアドバイス、カウンセリング等をしていると。
「すみません。服に関しては、そうだと思うものもありますが、確かにコレだと断定は……が、下着はですね……ソレだったようなぁ……」
彼はニ着とも手に取りじっくりと観察。
って、あんた臭いまで嗅ぐな。
それは、本物の女優刑部姫子の下着だ。
「洗ってありますね……」
あたりまえだ!
「あのとき、彼女の下着からいい匂いが……」
「香水かしら……」
「あ……香水と……多分体臭も混ざった……」
「あの、そういう物は手には……」
「あ、いや。お手数かけてもらってすみません。この依品からは、彼女が着ていた物とは……」
「なるほどね。振り出しに戻ったわけね……」
「あの……獄門島さん本人ですよね」
「はい?」
「あ、いや名前から、もっとお年の方を想像してましたので、こんなに若い方だとは」
わたしだってマッチョマンだとは思わなかったわ。
トントン
「はい?」
「お茶をお持ちしました」
「入っていいわよ」
「えっ」
本陣貴成は、お茶を持ってきたメイド姿の金田一を見て、驚いた様子だ。
「緑茶で良かったですか? よかったらプロテインもありますよ」
そんな物もあるのか、ここは。
「いえ、お気を使わずに緑茶でけっこうです。な、なんでメイド服なんです?」
「わたし、社長に秋葉薔薇でスカウトされまして……」
「ここの探偵社は……」
「そんな娘ばかりじゃありませんよ本陣さん。で、どうします羽子板禊捜し、続けます? とりあえず羽子板禊の写真持って、あなたが出会った付近を捜しますけど…」
「あ、どうしましょう……」
彼は考えた末、ひざまずき。
「ボ、ボク。あなたとお付き合いしたいんですけど」
わたしじゃなく、金田一の足元に膝を着いたマッチョマンが手を胸にあて頭を下げた。
指輪でも持ってたらプロポーズの風景。
「ごめんなさい! わたし好きな人がいるんです」
「そうですか……それじや、獄門島さんボクと結婚してください」
「はあ……。あんた、なに考えてんのよ!」
『映画の登場人物を捜して』の巻 おわり
つづく