刑部姫子
109話 刑部姫子
「本陣貴成様のお宅で」
〘はい〙
「わたし、寿探偵社のものです。お依頼になった件でお話をお聞きしたいのですけど」
本陣貴成は、映画のスタッフではなく、まったく無関係の映画ファンだった。
映画を観て劇中の羽子板禊という登場人物にひかれてしまい。
好きになり、その後映画ブルーレイソフトを買い何度も観ていたと。
〘劇中には、相手役とのラブシーンとかもありましたから、飛ばして観てました。ホント、羽子板禊にハマりましたよ〙
彼はスクリーンでの出会い。と、その後の推しキャラへの夢中生活を嬉しそうに話した。
実は、わたしも演じてる役者より、その物語のキャラクターが好きになることがある。
彼のコトも、わかならくはない。
〘依頼のきっかけは、おたくの社長さんにも話しましたが。僕は街中で羽子板禊に会ったんです〙
会った。架空の人物だよね。役者の刑部じゃないの?
〘はじめは、似てる人だなぁと〙
「あの、ソレは刑部姫子ではないのですか?」
〘普通はそう考えるでしょ。僕もはじめは……。でも違うんですよ、その人は。で、彼女、たまたま同じ電車の同じ車両に乗り。同じ駅に降りました。これは、なにかの縁じゃないかと僕は声をかけたんです。羽子板禊に似てますねって。そしたら、彼女が笑みを見せて。なんでわたしの名を知ってるのかと……〙
おわぁ。なんか、この人ヤバいんじゃない。
社長は、この人と話して依頼をうけたのよね。
〘あ……聞いてます?〙
「はい、羽子板禊に似た人に声をかけたんですよね。そしたら……」
彼は、そして彼女を誘って呑みに。行ったと。
〘驚きました。似てるだけじゃなく本人だと言うんですから彼女。あ、べつに酔ってませんでしたよ居酒屋でしたけど〙
「本人、どういうことです? 彼女は刑部姫子だったんですか」
〘いや、小劇団で女優している羽子板禊だと〙
「それは、やはりあなたと同じ映画を観たその女性が、同じようにハマり女優名に羽子板禊を使っていた女性じゃ……」
〘それを僕も聞いて見ました。そしたら、彼女は映画は知らないと。自分は本名で、そのまま使ってる女優名だと〙
彼は羽子板禊を飲みに誘い。その後ホテルに行き一晩すごしたって。
それ、妄想じゃないの?
〘朝目覚めたら彼女は、先に……。このとき僕は夢を見ていたんじゃないかと。でも、ここはホテル。酔って、なんてコトはない。彼女と会ったのは酔う前だし。ちゃんと人の感触も……。僕、はじめは彼女が好きなあまり頭がおかしくなって幻想を見たんじゃないかと。この話をしたら、どこの興信所もうけてくれず、おたくの社長さんだけが依頼を〙
この話聞いたら普通は、うけないよね。
「やっぱり、刑部姫子という可能性はなかったのですか?」
〘ええ。僕、本物の刑部姫子を映画が公開当時見てるんですよ。映画の舞台挨拶ですけど。髪型も化粧も違いましたし。喋り方や何まで、やはり女優さんだぁと感心しました。あの時、だから、僕が会ったのは刑部姫子ではなく羽子板禊だと。どこかに存在してるんです羽子板禊という女優が。だから……〙
なるほど、映画の女優と同じような女優か。
なら、少しは。
でも、本陣貴成が出会ったミソギが刑部姫子ではなかったというコトは、まだ。
パンフにあった刑部のモデル事務所に。
「彼女は、やめてますから、いませんし。モデルやめて女優になると。なんてったかなぁタレント事務所に。でも、噂ではもうやめて女優活動してないと聞きました」
モデル事務所の社長さんが、教えてくれた。
女優をやめたのか。
でも、だからと言って彼女が羽子板禊になり、街中を歩いてないとは。
むしろ、女優をやめた後に彼女は。
刑部姫子が女優として名が売れたのは羽子板禊を演じてからだ。だから。
彼女にとっては、忘れられない役だろう。
その姿、そしてミソギになり。
って、コレ、依頼人の彼だけでなく刑部も、なんかおかしくなったんじゃないかしら。
「途中物語」って、なんなの。
なんだか、観てみたくなった。
この仕事上見た方がいいのかも。
家で金田一に聞いて映画配信でタイトルを探し見た。
こういうコトも自分一人じゃ出来ないわたし。現代人としてトホホよね。
「観た。で、どうだった?」
たまたまお昼に入ったカフェ月光で、八ツ墓村さんと出会った。
「そうね、わたしにはなんてことない群像劇だったかな。主演は脚本家志望の大学生と女優志望の高校生。羽子板禊は、ただの脇役だったのね」
「女子高生が、叔父の作った小劇団で女優を夢見るのが本筋の映画よね。私は叔父さん役俳優のファンだったから。刑部はどうでも。そのまあ美人の脇役である刑部姫子に惚れ込むのは、わからなくもないけど。まあなかなかいい演技してたわ。獄門島ちゃん」
「そうね、漫画なんかにも、脇役キャラ萌えする人がいると聞くわ」
「あ、ソレわかる。赤より、青よねっていう」
「なんですそれ?」
「戦隊ものよ、主役の赤より脇のクールな青」
「なんか、ちょっと違いません」
「まあ、そんなのどーでもいいわ。引退した刑部姫子は見つかったの?」
「それが実家に帰ったとこまで情報をつかんだのですが。そこから先は」
「実家へは、行ったの?」
「いや、だから。その実家が何処だかわからないんです」
「はあ〜。まさか、まえの仕事みたく宇宙人だったとか、いう」
「あのときのタレントは、まともに人でしたよ……」
捜していた「人物」は宇宙人だったかも。コレは真相は不明だったけど。
今回もそんな終わり方かしら。
「獄門島愛ならやれる」
「なんです……」
「実はさぁ妙ちくりんな仕事をうけた社長の言葉」
「なんですか……それ」
「とりあえず、おかしな仕事でも、お仕舞いまでぇもってくでしょ獄門島ちゃん。社長は獄門島ちゃんを信頼してるのよ。だから、妙な仕事でも受けるのよ」
「なんだか変な信頼のしかたですね……仕事はわたしの力だけでなくカオルやテマリの力も……」
「あの特異な連中との縁も獄門島ちゃんだからじゃないの」
「いやいや、他の人も彼女たちに会ってるし。わたしなんて……」
「謙遜しなさんな。ねえ、映画で共演した役者さんたち彼女の実家知ってるかもよ」
なるほどと、昼食後に俳優さんたちにアポをとってみた。
刑部は、映画出演の後に数本のTVドラマに出演している。
はじめに会ったのは刑部がTVドラマで殺されるOL役を演じたときの上司役だった女優に。
撮影スタジオで、撮影の待ち時間のとき会えると。
「あの八ツ墓村さん、秘書の仕事は、大丈夫なんですか?」
「大丈夫よ」
「もしかして芸能人に会えるから……」
「ほら、マネージャーさんが、おいでおいでしてるよ」
「探偵社の方で。なんでも共演した刑部姫子のことが聞きたいと。わたし、なにも知らないわよ。あのコのコトなんて」
ベテラン女優の花咲麻衣子だ。
べつに、わたしはそーゆー体質ではないが、スゴいオーラを感じた。
「あの、彼女。女優を引退して、実家に帰ったそうなんですが、その実家がわからなくて」
「ごめんなさい。知らないわ」
「さすが、名脇役のベテラン女優よね。半端じゃなかったわ。女優オーラ」
「ええ、たまたま花咲が今、ドラマで共演してる若手女優の秋山美々子を紹介してくれた。彼女は他のドラマでも刑部と共演してたと」
「刑部さんの実家ですかぁ〜。知りませんねぇ」
うまいこと、べつのスタジオにOL役で共演していた高橋リエとも秋山美々子のおかげで会えた。
「刑部姫子の実家。彼女のマンションには行きましたけど。実家は……M87星雲とか言ってましたね。アハハ……彼女ウルトラヒーローの親戚なんだって」
疲れた。
ホントに宇宙人説が出た。
「八ツ墓村さん、彼女は知り合いには実家のこと話してませんでしたね」
元マネージャーや専属事務所だって知らないかったのよね。役者仲間じゃ。
「刑部姫子が消息不明って、余計に怪しいわよね。やはり、依頼人が、会ったのは……」
「八ツ墓村さん、依頼人は刑部ではなかったと」
「あれは刑部が演じてたのよ。羽子板禊になるなんて簡単じゃない詳細だってまるわかりよ彼女なら」
「あの……刑部が羽子板禊になり、ファンに会ってなんの得が……」
「思い出の役になりきって街をさまよってたらファンに会えて嬉しかったんじゃない」
そうね八ツ墓村さんの推理もあながち間違っていないかも。
翌日、刑部姫子が自動車事故で亡くなったのを知る。
つづく




