架空の人
108話 架空の人
ナニコレ、捜すのが映画の登場人物って。
俳優じゃなくて?
映画は「途中物語」という群像劇。
それぞれの登場人物の人生の、あるいっときの出来事が同時期に起こる様を描いた映画だ。
物語の中心舞台になるのが、解散寸前の売れない小劇団。演出家や脚本家、俳優たちの物語。
成功する者や挫折する者。
と、ファイル内にあったチラシに。
抽象的な絵だけで俳優の写真はない。
この映画たしか、わたしが高校を卒業した頃の映画だ。観てはいない。
仕事は映画の内容に関係ないだろうと思う。
群像劇だから、いろんな登場人物がいる。
捜すのは、劇団の看板女優で羽子板禊。映画で演じたのは刑部姫子というモデル出身女優。
この女優も現在は引退して芸能活動はしてない。
彼女を見つけて欲しいというのなら普通の依頼だが。彼女では、なく彼女が演じた登場人物を捜せって。相変わらず、わけのわからない依頼をうける。
羽子板禊という登場人物は、霊能力者だった。
映画やTVドラマに出演し売れ始めた彼女だが、恋人で劇団の主宰者で演出家の男のために劇団からは離れない。
彼女は劇団の最後の公演に力を使い協力するという登場人物だ。
コレは依頼書にあったメモ書き。
映画を見てないから霊能者が、公演にどう協力するかは知らない。
霊でも入れて客席を満席にするのか?
それでは、儲からないだろう。が、変な話題に は、なるかも。
まあ内容のコトは、どうでもいいわね。
役者じゃなく登場人物って、どーやって捜すの。
「当時の写真とか残ってないんですか?」
わたしは、社長室に相談しに。
わたしの前の社長と秘書の八ツ墓村さんが、ソファに座ってソフトクリームを食べながら。
「あれ、資料の中になかったっけ?」
「ファイルに入ってたのは依頼書と映画のチラシだけです」
「そうだった。あ、ゴメン」
社長はスーツのポケットからブロマイドを出して。テーブルに置いた。
「演じてた刑部姫子があまりにキレイだから、つい見とれててポケットに……」
なるほど彼女が刑部姫子か。たしかに美人だ。
「この人は刑部姫子より羽子板ミソギの方が合いますね名前。妖しい魅力がある……」
「ホント、神秘的な美しさね。私もそう思うわ、獄門島ちゃん。水商売似合いそうよね。私と同じ店にいたらナンバー2になれそうよ」
「そうかなぁ……」
「社長は、こっちのコが、いいわけ!」
「コラッ、ドコ握って言ってんの八つ墓くん」
「どっちでもいいです社長。じゃコレ、持ってきます」
「あ、待って獄門島ちゃん。ソレ役にたたないわよ。私、その娘の映画観たけど。ぜんぜん違うメイクで髪型だったから、そのブロマイドとは違った感じだし、顔よ」
「八ツ墓村さん、見たんですか『途中物語』」
「ええ、その映画にはね、ミソギに惚れてる後輩の脚本家と、その彼に惚れる新人女優とで三角、あ、劇団の主宰者の男をふくめて四角関係なのよ……。ここんとこまるくおさまるのが良かったわ。私の友だちに映画のパンフ持ってるコがいるから、借りてきてあげる」
「それは、ありがたいです。あ、あの社長ぉ。この依頼者は、なぜ演じた女優ではなく登場人物を探すんです?」
「さて? そのわけを知るのもキミの仕事なんだよ獄門島ちゃん」
「はあ? なら、依頼人の資料下さい」
「依頼書に名前書いてあるよ」
わたしは、ファイルの依頼書を出した。確かに氏名と住所、電話番号が。
家電だ。まあいい、調べてみるか。
本陣貴成。映画の関係者かな? それとも映画のファン。
デスクに戻り、とりあえず電話をしたが留守電で、まったく出ない。
サギ電話が多いので最近は家電を留守電にしたままなのが多い。
携帯でも登録してないからと出ない人もいるしなぁ。
電話って最近は詐欺の道具みたいになってない。
三日後に八ツ墓村さんからパンフを。
「それ、いらないからあげると言われたの。返さないでいいわよ獄門島ちゃん」
八ツ墓村さんは、よくわたしの姓を口にするから、いちいち言わなくてもと言ったことがある。
「なんだか言いたいだけなの獄門島ちゃん」
と、そういえば、社長もよく。
いや、朝の挨拶でも田守くんや金田一さんも、よく言う。目の前で言うのだから名を言わなくても。
「獄門島さん、お茶です」
「ありがとう金田一さん」
ああ、わたしも。なんだか、言いたくなる名前ってあるんだ。
社長には琴吹社長とは、めったに言わないな。
デスクに戻りパンフを見た。
なるほど、女優顔という感じだが、あのブロマイドの刑部姫子と羽子板禊は別人に見える。
このへんも俳優ではなく登場人物を捜してくれという。
んーだからと言って架空の人物を捜せるか。
〘ハイ、本陣です〙
出た、本陣貴成!
つづく




