潜入探偵
10話 潜入探偵
たいした説明もなしで呼び出された。
「はじめまして姫乃樹美香です。獄門島さんですね」
「はじめまして獄門島愛です。そちらは?」
「わたしを助けてくれた諏訪大さんです」
「助けてくれた?」
「琴吹社長さんからお話は?」
「あるオジさんを助けてこいとしか……」
「そうなんですか。社長さんは話してないんですね。彼は、わたしと父が拉致されそうになったトコを助けてくれた方なんです。その時に父は」
「申しわけない、ボクの力不足で、美香さんのお父さんが」
「そんなぁ申しわけないなんて。通りすがりのあなたが」
なに? この人、恋人とかじゃないの。
背はわたしくらいで、男としては低い方かな。
年齢はいくつかなぁ。若くも年にも見える。年齢不詳。
中学生という姫乃樹美香よりは上だろうけど。
ちょっとホリがふかい昔のソース顔っていうの。
「通りすがりって、諏訪大さんは姫乃樹さんとは赤の他人なんですか?」
「あ、はい。そういうことになりますが」
と、隣の姫乃樹美香を見て。
「彼女しか、救えなかったのがボクにとって屈辱で、だから最後まで助けてあげようと」
赤の他人か。正義感の強い人ね。ウチの会社にスカウトしたいわ。
あ、イヤどちらかといえば警察官向きかな。浮気調査は可哀想だ。
赤いブルゾンが似合ってる。手にはめてるグローブは、バイク乗りか。
わたしたちは監禁されてるという製薬会社の本社に社長が運転する大型ワゴン車で向かった。
「ホントにココに捕まってるの。他に移されてない?」
「そう言われると……」
「大丈夫だと思いますよ社長。私もココと」
なんだかそう。
「ボクも大丈夫だと……この建物の前で二人は拉致されそうに。ボクは美香さんのお父さんが連れ込まれてから、ココを見張ってますから」
ほお、ますます探偵向きだ。が、通りすがりで、そこまで?
なんだか、怪しいヤツだな。
まあ悪い奴には見えないが。
「ココで待ってるから、頑張ってね。獄門島ちゃん」
「社長、『ちゃん』は……。イザとなったらお願いしますよ」
「あの、わたしも行きます」
「美香さんは、危険です」
その目は惚れてるな諏訪大。ここまで、やるのは正義感と、いうより愛かしら。
「わたしが行った方が、父も」
「お父さん、見知らぬわたしたちが行っても、信用しないかもね。一緒にいこう。諏訪大さん、あんた彼女を守ってね」
会社の門は、やはり閉まってる。見たところ警備員は見当たらない。
門は、2メートルくらいかな。登れないコトもない。
大手会社のわりには、センサーらしき物もない。
産業スパイとか、警戒してないのか。
平和ボケした日本の企業だ。
暇なわたしは、こういうコトもあろうと忍び込む知識を蓄えてある。ヘタな防犯システムなどには、しっかからない自信はある。
しかし、手薄だなこの会社。ホントに大手企業の建物か。
意外と簡単に中に潜入。
「さすが、探偵さんですね。泥棒の知識と技術もあるんですね」
「勘違いしないでね。べつに悪用はしてないから」
「探偵というと、映画やアニメなんかじゃスーパーマンよね」
「あーゆーのはリアルじゃないのよ。さて、何処に監禁されてるかな……」
「コレを、人が居るか、わかります」
「なにソレ?」
諏訪大はスマホを出し。
「アプリです。深夜ですから。人が居るとしたら警備員でしょう」
そんな、スパイアイテムみたいなアプリがあるの。
スマホ、あなどれないわね。
「ココに人が。二人居る」
「しっ、警備室よ。ほら、書いてある」
「おい今、声がしなかったか」
ドアが開いた。
「誰か居たか?! 俺はなにも聞いてないぞ」
「誰も居ない……」
二階に上がるも、どの部屋にも人は居ない。
「獄門島さん、その傘いつも持ってるんですか? カワイイですねアヒルさんの目がまんまるで」
中学生だな、こういうのが気になるか。
今日は傘カバーに付いたヒモで刀のように背負ってる。忍者みたいだ。
いつものショートブーツは音が響くのでスニーカーにした。足が軽い。
「この傘は母の形見なの」
「え、お母さん亡くなられたんですか。わたしも早く……。だから父を助けたい」
「大丈夫。ボクが」
「ありがとう……諏訪大さん。見ず知らずの他人なのに。あのぉ下の名前は?」
「言いませんでしたっけ」
「姓しか……」
「諏訪大……真珠郎です。変な名前ですけど」
「真珠郎さんですか、カッコイイ」
おや、またお美しい名前だこと。
「この階には人が居ません上に行って見ましょう」
ココ、4階建てだよね。居るのは4階かぁ。
つづく