獄門島愛
1話 獄門島愛
東俠都渋屋区夜々木の某マンションの二階に、わたしの仕事場がある。
ちなみにわたしの部屋もこのマンションの五階に、ある。
この五階の住人は、わたしの職場の寮みたいになってるが、寮ではない。
職場の人間が五階を占領したかたちになってる。その話は、これからおいおい。
「寿探偵社」
これがわたしの職場。「寿」と、あるが結婚相談所ではない。そういう名の会社だから。
「あ、田守、獄門島さん、来てる?」
「さあ、朝から見てませんけど?」
わたしは、ちゃんと朝から来てます。そして自分のデスクに着いてます。
「そうなんだ? もう昼になるよね。田守くん、見つけたら社長室に来るように言っておいて」
あの、わたしは。
「社長、獄門島はここに」
「ん、ナニ? 田守くん、なんか言った」
「いえ、ナニも」
「そう。じゃ、お願い」
社長は琴吹流60代独身。フサフサのロマンスグレーのロン毛で後ろ髪を束ねてる。
口ヒゲが黒いのでグレーのロン毛の髪はカツラとの噂あり。もしくは染めてるのかも。
朝からナニもしてない。もう昼前だ、社長室へ行くか。
「あ、獄門島さん。居たんですか。社長が」
「知ってます。今行くところです」
「あ、獄門島さん。今夜のおかず悩んでます?」
「まあ……」
田守盛太、時々人の考えてる事を当てる。が、だからなに?
「獄門島さんは自炊ですか。ボクなんか面倒だから外食ばかりで」
「そう。体こわさないでね」
彼は入社したばかりの新米だ。社長の甥で高卒だから若い。まだ成人してないはず。
「いやぁあぁああん。シャチョー、来てそうそうん〜ん。そんなトコさわっちゃいゃ〜ん」
「朝から待ってたんだよぉ。ちゃんと出勤してね……」
って、何やってるのかしら? 昼間っから社長。今のわたしのことじゃないよね。
わたしは遅刻せずに来てますから。
変な声が外に丸聞こえ。
ノックした。
「だ〜れ〜ここには誰も居ないよぉ」
って、じゃあんたは誰なんだ。
人を呼んでおいて、社長。
「獄門島です。お呼びと聞きました」
ドアが開いた。
「資料は、この中に。捜してくれる。じゃ」
あっ、閉まった。そんな資料だけわたされても。
今、ちらっとだが中に裸の女が見えた。
あれは秘書の。
渡されたA3の封筒には、ファイルが。誰を捜すのか?
わたしは封筒を持ってマイデスクに戻った。
資料は、ホントはデスクのパソコンに送られるが、わたしはパソコンオンチなので、資料は毎回手渡しファイルで。
本当の探偵は、映画やドラマみたいに警察に協力して殺人事件とか解決したりしません。
失踪した人捜しや、浮気捜査等が主な仕事だが、わたしにまわってくる仕事は変だ。
一応今回は人捜し。まともだと思ったが。
名は東海林奈波という女。
何者かしら?
中国、上海から帰国後、現在行方不明。捜して。
って、コレだけ? ノートファイルの意味ない。クリアファイルでいいだろコレ。
捜す相手のプロフィールもない。
無理。
つづく