婚約者とその母親に拘束され奴隷のように扱われていましたが、その先にはとても素敵な道が待っていました。
「僕の婚約者となったのだから、君にはこれから僕と同じ家で過ごしてもらうよ」
青年エデルベグと婚約した私は強制的に彼と同居しなくてはならないこととなってしまった。
いきなり同居はハードルが高い。だから他の方法はないのかと色々相談してみたのだけれど、受け入れてはもらえず。彼は「同居するのが義務だよ」の一点張り。こちらの希望など欠片ほども考慮してもらえなかった。
そして私は無理矢理彼の家へ住まわされることとなった――のだが。
「貴女何なの!? 馬鹿じゃないの!? もっと奉仕の精神を持ちなさいよ!! 我が家に入るのなら、我が家の母たるあたしの言うことに従うのが当然のことじゃないの!!」
エデルベグの母親は凄まじく高圧的かつ感情的な人で。
「いいから、言った家事はすべて一人でこなしなさい! 一つでもできていないものがあったら許さないわ。その時は罰としてほうきで尻を叩くから! いいわね!」
彼女は私を奴隷か何かと勘違いしているようだった。
少しどうにかしてほしい。
そうエデルベグに訴えても。
「母さんに従ってれば何も問題ないよ」
彼はそれしか言ってくれなかった。
ここに私の味方はいない――孤独な日々には絶望がはりついて、心を黒いものが蝕む。
婚約も、結婚も、これではただの地獄でしかないではないか。
それからもしばらくこき使われ続けていたのだが、ある時父がたまたまちょっとした用事でエデルベグの家にやって来て私の現状を知ったことから、話は大きく動き始める。
「娘をあなたたちの奴隷にする気はありません、返していただきます」
父はそう言って私を連れ出してくれた。
まさかの救済。
これまでは特別好きということもなかった父だが、今は聖なる救世主に見える。
その後私はあそこでの日々についてすべて話した。
そして婚約を破棄することを決めた。
そのことを向こうへ伝えるのは父が代わりに行ってくれた、なぜなら私が言ったらまたややこしいことになりそうだったからだ。
こうしてエデルベグとの縁は切れた。
あそこでの日々は悲劇だった。
けれどもそこから離れられたなら、もう私は何にも縛られなくていい。
これからは自由だ。
「災難だったわね」
「ほんとよ。でも、母さんも、世話してくれてありがとう」
「いいのよ、それより体調を治してね」
「早く治す!」
「素晴らしい決意ね」
婚約を失うことなんて怖くない。
人生を失うくらいなら、他のものは何だって捨てられる。
異性なんていくらでもいるわけだし。
◆
あれから一年ほどが経った。
私には、今、親しい男性がいる。
彼はこの国の王子。
驚かれるだろうが事実なのだ。
「本日は来てくださってありがとう」
「いえ」
「実は、とても美味しそうなケーキが見つかりまして」
「ケーキ!」
「お好きでしたよね」
レベック王子はいつも私のことを考えて行動してくれる。
前に話した言葉も覚えていてくれるし。
私のことをよく見てくれて覚えてくれているので、一緒にいるとたびたび嬉しさを感じることができる。
些細なことでも覚えていてもらえるというのは嬉しいことだ。
「あ、覚えてくださっていたんですか! 嬉しいです」
「そうですね、以前言ってらっしゃった気がしまして」
「そうなんですよ! 好きなんです!」
「味が好みに合えば良いのですが……ええと、では、早速持ってこさせますね」
「は、はい」
「何種類か用意していますよ」
「ええっ、豪華ですね」
そうそう、そういえば、エデルベグは母親と共に法に触れる行為を行ってしまったために逮捕されてしまったそうだ。
今は自由を失い。
自分も、母親も、穏やかな日々の中で生きることはできなくなってしまったようだ。
かつて他人の自由を奪った彼ら。今は自由を奪われて、自由を奪われる苦しみを少しくらい分かってもらえたかもしれない。もっとも、あんなことを平然とできる人たちだから学ばないかもしれないけれど。ただ、少しくらいは分かってほしい。
縛られる苦しみを、奴隷のように扱われる苦しみを――できれば少しでも分かってほしいのだ。
◆
あれから数年、レベック王子と結ばれた。
「これからもよろしくね」
「はい! よろしくお願いします」
今日、私たちは新しい一歩を踏み出す。
この道の先に何があるかは分からないけれど、それでもなお、私は彼と共に進んでゆきたい。
「共に歩みましょう」
「レベックさんの力となれるよう日々努力します」
「ええっ。それは……いいよ!? そんな気遣わないで!?」
「しかしレベックさんは王子という位ですから、将来の国王かもしれませんし」
「ま、まぁ、それはそうだけど」
「共に歩みます!」
「ありがとう! そう言ってもらえると心強いよ」
人生なんて分からないものだ。
今は強く深くそう思う。
けれども想像しなかった道へ進むというのもまた人生の面白味なのかもしれない。
だから私はこの道を行く。
◆終わり◆




