婚約者が女と会っていました、関係を終わりにします。~彼の浮気癖は一向に改善していないようですね~
婚約者の彼エルトンは私を愛していると口では言っていた。しかしそのわりには私の希望を無視するといったことが目立っていて。特に、自分の用事での外出に関しては少しも私の都合を考慮してくれない人だった。
だが、はじめのうちはそういう性質の人なのだろうと思っていて、敢えて責めるようなことはしないでいた。
しかしある時友人から聞いてしまう――エルトンがいつも同じ女と二人で路地裏に入っていく、という話を。
もちろん嘘の可能性だってあった。その友人が私と彼を引き裂こうとしているということだって考えられるわけで。しかし、敢えてそんなことをするだろうか、と思う部分もあって。だから私は実際にこの目で真実を確かめてみることにした。それが一番確実で早いと思ったからだ。
――その結果、エルトンは本当に女と会っていた。
「あなたは一体何をしているのですか?」
「げっ! お、お前、どうしてここに……」
三回目に直接声をかけてみた。
「婚約者がいる身で女連れとは酷いですね」
「は、はぁ? 勘違いすんな、こいつとはそんなんじゃねえ!」
「ですが先日路地裏でそういう感じのことをなさっていましたよね、見ていたのですよ」
「嘘つけ!」
どうやらごまかす気でいるようだ。
ならばはっきりと攻め込んでやろう。
「証拠写真だってあります」
「なッ!?」
「……逃げられませんよ、エルトンさん」
「ぐ、ぐうう……くそが……」
「ではそういうことで、手続きさせていただきますので」
「ま、まさか! 婚約破棄か!」
「そうですよ? 当たり前でしょう、貴方への信頼は今やゼロなのですから」
エルトンも隣にいる女も青い顔をしている。
でも躊躇なんて一切ない。
そもそも先に罪深いことをしたのは二人だ、私だけが気を遣ってあげる必要なんてないはずだ。
「情報も流します、そして、婚約は破棄です。……さようなら、エルトンさん」
私は二人からしっかりと慰謝料を取り、エルトンとの婚約は破棄。
そして彼の行いについて世に流した――もっともそれは勝手に流れてしまったというような形に近いのだけれど。
ただ、それによってエルトンも女もそういう人間だとして皆から見られるようになって、社会的な評価を著しく落とすこととなった。
でも自業自得だ。
私だけが嫌な思いをさせられるなんて嫌。だって私は何もしていないのに傷ついたのだ。なのにあの二人の罪がひっそりと慰謝料の支払いだけで終わるなんて許せない。彼らも傷つけばいいのだ、そもそもの原因は自分たちの罪なのだから。
その後私はどうなったかというと。
「貴女はとても美しい人だ……恋人となっていただきたい……いかがだろうか?」
「お前最高な女だな! 好きだ!」
「結婚しない? 僕と。うちは金持ちだから、きっと君を幸せにできるよ。それに僕は一途だしね。浮気とか絶対にしないよ!」
複数の男性から求婚された。
ただ、その時はあまり男性と関わりたくなかったので、すべて断った。
申し訳ないけれど。
でも仕方がない。
それに、将来を考えていない状態で誘いに乗るというのも相手を振り回すようで無礼だろう。
今はまだ将来など考えられない。
だから断る。
それは普通のこと。
そしてある意味相手への誠実さだと思うのだ。
◆
エルトンとの婚約破棄から数ヶ月が経った頃、行きつけの花屋にて若い男性店員と仲良くなった。
そして関係は徐々に進展していく。
「よければ今度、食事にでも行きませんか?」
「いいわね!」
ついにお誘いが来て。
「良かった。……ああ良かった、勇気を出して言ってみて。緊張しました。では! どうかよろしくお願いします!」
「よく考えて見たらそういうのって初めてよね」
「はい」
私たちはまた新たな一歩を踏み出す。
「ああそうだ、じゃあ、これを機にそっちもため口にしてくれないかしら」
「えっ」
「その方がもっと親しくなれた気がすると思うの」
少しずつでも確実に。
私たちの距離は縮まっている。
「あ、そうですね。では……これからはもう少し親しげに……これから、改めてまたよろしく」
「ええ!」
「……変じゃない、かな?」
「もちろんよ、変なわけないわ」
「違和感があって……」
「大丈夫、きっとすぐに慣れるはず!」
「そうだね。頑張ってみるよ。あ、でも、ちょっと変でも許してね」
◆
あれから数年、私は彼と結ばれた。
結婚式も無事挙げられて。
祝福の中で私の暮らしは新しい環境へと移行してゆく。
ちなみにエルトンはというと、あの後結婚するも不倫を何度も繰り返したそうだ。
早めに縁を切っておいて良かった……。
で、どうなったかというと。
五回目の不倫の際についに妻に「もう許せない」と言われ離婚の手続きを始められてしまったそうだ。
そして会社にもその行動を報告されて。
その結果、不倫された経験のある社長をとんでもなく怒らせてしまい、クビにされてしまったそうだ。
エルトンは家庭と仕事を同時に失ったのだった。
◆終わり◆