貴方の過ちは母親をコントロールできていなかったことです。~調子に乗っている彼女は好き放題しています~
「貴女ねぇ、あたくしの素晴らしい息子には相応しくないと思うのよ」
婚約者レビッツの母親が敢えて二人きりのタイミングを選んでそんなことを言ってきた。
思えば、前々から若干嫌われていた気がする。
レビッツの母親は私と息子が結ばれることを嬉しくは思っていない様子だった。
とはいえ、直接こういうことを言われたことはなかったので、少々驚いた。
「そういうものでしょうか」
「ええそうよ。だってね、貴女、息子やあたくしに忠実じゃないでしょう? そういうところが大減点よ」
大減点?
なぜ婚約者ではなくその母親にそのようなことを言われなくてはならないのか。
それに、人に勝手に点数をつけるなんて、大丈夫か?
勉強でもないのに。
「忠実……しかし私は奴隷ではありません」
「そういう思い上がりが問題なのよね」
「え」
「女は奴隷みたいなものよ。男の家に貰ってもらうのだから、奴隷ではないにしてもそのくらいの振る舞いをするように意識してするのが最低限の礼儀でしょう」
レビッツの母親の思考はよく分からない。
結婚というのは二人が協力して生きてゆくという道ではないのか。
「そうでしょうか……私はそうは考えていませんが」
「生意気なのよ!!」
急に叫ばれて。
「そういうところが駄目なのよ! 貴女は! そういう生意気なところが最低だし、貴女みたいな人は女として価値がないの!! ……あーあ、親の教育の悪さはどうしようもないわねぇ」
しかも親まで悪く言われて。
もう嫌だ。
耐えられない。
そう思っていると。
「レビッツは貴女には渡せないわ! よって、婚約は破棄とするわ!」
急にそんなことを宣言されてしまった。
レビッツの母親は今鬼のような顔をしている。
この世の怒り憎しみを掻き集めて作ったような顔だ。
「息子の前から消えなさい!」
「え……あの、ご本人の意思は?」
「あたくしが決めたことがすべてよ!」
「ええっ」
「それに、良い子なあの子は、偉大な母の言うことに反対したりは絶対にしないわ」
「そ、そうですか……」
「分かったかしら?」
口角の片側を持ち上げ勝ち誇ったような意地悪な顔をするレビッツの母親。
ああ、彼女はどうして、こんなにも意地悪なのだろう……。
ま、何を言っても無駄か。彼女はきっと私の言葉なんて聞こうとしないだろう。結局、終わりと言われれば終わりと思うしかない。世の中そういうものなのだろう。
「いいわね?」
「……分かりました」
「ふん、じゃ、そういうことだから。すぐに消えなさい。さようなら、無能女。精々クズに拾ってもらうことね」
レビッツの母親は最後まで性格悪女だった。
◆
あれから少ししてレビッツから連絡があり、彼は謝ったうえで「母が勝手なことを言っただけで別れる気はなかった」とか「もう一度やり直してほしい」とか言ってきたけれど――私は丁寧にお断りした。
だってそうだろう? 戻ればまたあの女と関わらなくてはならなくなる。威張られ、意地悪され、不快な言葉をかけられ。そんなの嬉しいか? いや、絶対、嬉しさなんてないだろう。
もう嫌みを言われるのは嫌だ、不愉快過ぎる。
だからレビッツとはやり直さない。
断ると、彼は悲しそうな声になっていた。
でも可哀想とは思わない。
だって、親をきちんとコントロールできていない彼にだって非はあるのだから。
◆
あれから数年、私は、前年の収穫祭で出会い知り合った二個年上の男性と結婚した。
夫となった彼は、領地を持つ裕福な親のもとで育った人だ。けれども嫌みなところがあるかといえばそんなことはなく、むしろ余裕の感じられる良い性格をしている。そして彼の両親も、善良な人たちだ。この親あっての息子か、と思うような、そんな良い人たちである。
彼らは私を温かく受け入れてくれている。
ありがとう。
そう言いたい気持ちだ。
そうそう、レビッツはというとあの後心を病んだそうだ。
というのも、私の次に愛した女性と楽しく暮らしていたところ母親が出てきてその女性を傷つけ、それによって関係が壊れてしまったそうなのだ。
その件でレビッツは怒り、怒りが強すぎたために精神が崩壊し、女性と別れることとなった直後から急激に無気力になってしまったそう。
愛する人を失い、壊れてしまったようだ。
一方、レビッツの母親も、女性に裁判を仕掛けられたことで段々心が壊れてゆき――徐々に眠れなくなっていって、憂鬱な時間が続くようになり――最終的には外出ができないところにまで心身の調子を崩してしまったそうだ。
まぁ彼女に関しては完全に自業自得だが。
◆終わり◆




