愛する人ができた彼から婚約破棄を告げられました。しかしその後彼の愛する人は亡くなってしまい……。
私には三つ年上の婚約者がいた。
彼と結ばれ生きてゆくものと、そう思って疑っていなかった――ずっと、それが運命なのだと思っていたのだ。
だから別の道なんて考えてみたことはなかったし、それが自分の運命なのだからそれでいいと思っていた。
――でも、そんなものは幻でしかなかったのかもしれない。
信じていたもの、運命と思っていたもの、当たり前にやって来ると思っていた未来――すべては確かにそこに在るものではなくて。
彼は別の女性を愛した。
私ではなく、他の人を、驚くほど情熱的に。
「俺はドレーヌだけを愛している! だからもうお前とは縁を切る!」
その日、彼は、いつになく熱い言葉の発し方をしていた。
もしかしたら愛する女性ドレーヌが隣にいたからかもしれない。
かっこいいところを見せたかったのかも。
「え……」
私はただただ驚いた。
彼の暑苦しさに。
「婚約は、本日をもって破棄とする!!」
「えええー!」
「俺はお前を選ばない、お前みたいなパッとしない女はどうでもいい。もう二度と俺の前に現れるな! 俺はドレーヌと二人だけの世界で生きていきたいのだ!! ……分かったな?」
しかもやたらと上から目線。
確かに彼は年上だ。
でもさすがに威張り過ぎではないだろうか。
しかも、これまではそんな感じではなかったから、なおさら驚かされる。
人ってこんなに変わるんだ……、と。
「急過ぎやしませんか」
「うるさい!! 俺の言うことに従っていればそれでいいのだ」
「ええ……」
「はい、だろう!」
「……はい」
「もっとはっきり言え。二度と近づかないな!?」
「はい」
「……分かったようだな。ではこれにて、さらばだ。永遠のお別れ、だな」
こうして彼との関係は急に終わってしまった。
しかし、その翌日、ドレーヌは川の増水に巻き込まれてしまい流されて行方不明となってしまった。
それはつまり、死んだということだ。
しかも、亡骸すら見つからない。
だから最期の別れを告げることすらままならず。
――それによって彼は壊れた。
ドレーヌの死以降、彼は急激に幼児退行してしまい、一日中家の前に座ってぬいぐるみ遊びをするようになった。
彼は大人の大きさのままなのにぬいぐるみ遊びをずっとしている。
近所の人たちは「どうかしている」とか「急にそんな風になったから怖い」とか言っていた。
確かに、もともとぬいぐるみ好きだった人であれば何も思わないけれど、急にそんな風になってしまった人を見たら少々不気味さを感じるかもしれない。
ぬいぐるみのうちの一体はドレーヌと呼ばれていた。
彼のぬいぐるみ遊びの世界では、彼はドレーヌと結婚していた。
村一番の仲良しな夫婦だそうで。
いつも笑い合いお茶を楽しんでいる夫婦らしい――彼が一人で喋っているのを聞くには。
さて、私はこれからどうしようか。
どうやって生きていこうか。
でもきっと楽しいことはたくさんあるはず。
だから今は前を向ける。
◆終わり◆




