婚約していた王子には捨てられ、両親のもとへも戻れず、どうすれば良いものかと思っていたのですが……?
生まれ育った国アナベルの王子であるガートン・フォフス・アナベルと婚約していた私だったが。
「貴様とはもうやっていかないことにした! よって、婚約は破棄とする!」
彼は突然そんなことを言い、私との関係を無理矢理終わりへと導いた。
……噂によれば彼には親しくしている女性が他にいるとか何とか。
ただ、彼はそういうことは特別口にはしなくて。
彼はただ私との関係を終わらせた――それだけであった。
こうして、まともな理由も聞かせてもらえないまま婚約破棄された私は、城から追い出されることとなる。
しかし実家へ戻ることもできなかった。
なぜって、私の両親は私の婚約が遅めであったことをずっと怒っていたのだ。
ようやく婚約できてその怒りは収まったのだけれど。
そんな両親のもとへ「婚約破棄された」なんて言って戻ったら、どんな目に遭わされるかは目に見えている。
王子には捨てられた。
でも両親のもとへも戻れない。
こんな状態で、一体どうしろというのか……?
そんな風に困り果てていた私は、森で少し自然に浸ることにしたのだが――そのままうっかり眠りに落ちてしまい、森の中で眠る怪しい女になってしまった。
が、そこで奇跡が起こる。
『貴女はこれまでまっとうに生きていらっしゃったのですね、しかし報われなかった、幸せな環境で暮らすことはできなかったのでしょう』
目を覚ました時、すぐそこにいたのは木の精。
大樹に顔を描いたような姿をしている。
ある意味化け物のようでもある。
しかしその橙色の瞳からは優しげな色が放たれている。
「え……あ、貴方は、一体……」
『貴女に幸福を与えましょう』
「すみませんちょっと意味が分からなくて」
『この手を取ってください』
差し出される枝のような手。
夢か現実か、もう分からない。
「……はい」
私はぼんやりしたまま差し出された手を取った。
その瞬間光に包まれる。
『ようこそ楽園へ! ここでは貴女に幸せばかりがもたらされることでしょう!』
「ら、楽園……?」
『ええ! 疑う必要はありません。なんせここにはただひたすらに幸せしかないのですから!』
こうして私は不思議な世界へと連れていかれてしまった。
でもそこは本当に幸せに満ちた地であった。
誰もが優しくしてくれて、欲しいものは何でも短期間のうちに手に入って、美味しいものを食べられて――そこでの日々は楽しいことばかりであった。
私はこれからもこの地で幸せに生きてゆく。
どうせ帰る場所もないのだ、ちょうどいい。
――ちなみにガートンはというと、あの後親しかった女性を妻にしようとするもプロポーズした途端「そこまで深く付き合う気はなかった」と言われ逃げられてしまったそうだ。
で、ガートンは絶望。
そこから急激に体調を崩し、二十代後半にして落命してしまったそうだ。
王妃はそれによって女性に対し激怒。
呪術師を雇い、彼女を呪わせる。
その呪いによって女性は顔面の皮膚に異常が出る状態となってしまい、治療しても無意味なため生きていく希望を失い――やがてある夜に突然自ら死を選んだそうだ。
結局誰も幸せにはなれなかったみたいだ。
私だけが幸福を掴む。
私だけが満たされて生きてゆく。
――そう、それが結末。
◆終わり◆