森の魔女リフェイラは二百年未婚だった。しかしある夜森で一人の少年に出会い……?
我が名はリフェイラ、森の魔女。
若々しい少女に近いような見た目ではあるが、これでも二百歳はゆうに超えている。
しかし未婚である。
魔女の中にも人間などと結婚している者やしていた者は存在している。
それは罪ではない。
あくまでいつか別れが来るというだけのことで。
悲しみが約束されていることは事実だが、だからといって関わってはならないわけではないし結ばれれば罪となるわけでもない。
ただ、私はなかなか良い人とは出会えずここまで来た。
だから恐らく死ぬまで恋も愛もしることはないだろう――そう思っていた、あの日までは。
◆
その日、魔女の夜会へ向かっている時、森で火をつけようとしている少年を目撃する。
「何してるんだ!? こら! やめろ!!」
泣き出しそうな顔でマッチをすりかけている少年を咄嗟に制止した。
だって、火なんてつけられてしまっては大変だからだ。
そんなことをされてはこの森の愛おしい多くのものが燃えてしまう――木々も、生き物も、思い出も。
それだけは避けたいし、万が一そんなことになったら耐えられない。
だから必死になって止めたのだ。
止めなくてはいけない、その思いが何よりも強かった。
「こら!!」
少年を地面に押し倒す。
「……どうして、止めるの」
彼は第一声そう言った。
目もとは泣き過ぎて腫れていた。
「何だと?」
「止めないでよ」
「馬鹿者! 危ないだろう、火をつけるなど!」
「……もう僕は要らないんだ。だから死ぬだけ。消えるだけ」
「事情は知らないがとにかくそれはやめろ」
「でも……」
「いいからやめろ! 火は駄目だ!」
その少年はオレイフと名乗った。
彼は理不尽な理由で婚約破棄され、悲しくて、それで死を選ぼうとしていたそうだ。
……人一人の自殺に森のありとあらゆるものを巻き込もうとするなど、なんという迷惑な人間か。
私は取り敢えずオレイフを自宅へ連れて帰ることにした。
「ありがとうございました。……リフェイラさん」
そうでもしないとまた何かやらかしそうだったから……。
「まぁよい、今夜はここにいろ」
オレイフは大人しかった。
想像していたよりも控えめな少年で。
いつも小さくなっている。
何かに怯えて育ってきたかのような様子だ。
「……あの、夜会は良かったのですか?」
「ああいいさ。もう欠席と連絡しておいた」
その後、一緒に過ごしてゆく中で、オレイフについて知ることができた。
彼は幼い頃から両親の不仲のとばっちりを受けて殴られたり暴言を吐かれたりしていたようだ。
いつも怯えた様子なのはそのせいもあるのかもしれない。
また、彼は基本自分に自信がない。
己を駄目な人間だと思い込んでいる。
それももしかしたら育ってきた環境のせいなのかもしれないと思う。
「リフェイラさん! 本当ですか!? ここで手伝いをさせてくれるって……」
「ああ、望むならな」
「……はい、そう言っていただければ嬉しいです」
「ではそうしよう。決まり、だな」
「はい! 感謝しますリフェイラさん! 貴女は恩人です!」
それから私はオレイフと二人で暮らすようになった。
◆
あれから十年。
私とオレイフは今でも一緒に過ごしている。
「魔女の方って、本当に、老けないんですね」
「ああそうだな」
「リフェイラさんはあの頃と変わらないままの見た目です……!」
オレイフはもう大人になった。
立派な男になっている。
あの頃の少し強く掴めば壊れてしまいそうな彼とは別人のようだ。
「一方で、自分は大人になってしまいました……」
「人間なのだからそれが普通じゃないか」
「ま、まぁ、それはそうですけど……」
「何を言いたい?」
「でも! 自分、ずっとリフェイラさんのもとにいたいです! 先に死ぬのは嫌だなぁ……って思って」
出会った頃は死にたがりだったオレイフも、今では死を望まなくなって――それは良かったと思う。
「まだまだ先の話だろう?」
「そうですけど……」
「オレイフ、今を楽しめ」
「は、はいっ」
「未来のことはあれこれ考えなくていい」
「はい!」
我が名はリフェイラ、森の魔女。
若々しい少女に近いような見た目ではあるが、これでも二百十歳はゆうに超えている。
今はパートナーがいる。
そのパートナーというのが、オレイフである。
◆終わり◆




