馬に乗って疾走していたら転落してしまい、その時負った傷によって婚約破棄されてしまいました。
その日、私は、馬に乗って疾走していた。
しかし珍しく愛馬が暴れて。
物凄い勢いで地面に落ちてしまい、そのまま意識を失った――。
◆
「ルーフィア様! ああ、ルーフィア様、良かった! 生きていらっしゃって!」
次に目を覚ました時、私ルーフィアは自宅のベッドの上にいた。
傍には侍女が。
心配そうに、でも目覚めに少し安堵したように、佇んでいる。
「……私は」
「馬から落ちられたのですよ」
「ええっ……」
「覚えていらっしゃらないですか?」
「ああ、いえ……そうでした、思い出してきました……段々」
ぼんやりしていた記憶は徐々に戻ってきた。
そうだ、私は愛馬に乗っていて転落したのだ。
でも生き延びた。
死ななかった。
とても幸運だった――そう思っていたのだけれど。
「ルーフィア、傷がついたか。ならもう俺には相応しくない。よって、婚約は破棄とする」
顔に傷がついたために、婚約者ベレから関係の解消をはっきりと告げられてしまった。
「お前の取り柄は美しいことだけだった、しかし、その美しささえ今回の件で失われてしまった。顔に傷などつけて、馬鹿だろう。だがまぁそうなったならこちらの対応は簡単だ。ただ切り落とすだけ、だからな」
ベレはいつになく冷ややかな面を私へ向けていた。
「そ、そんなことを仰らないでください! お嬢様はお怪我なさっただけで……」
「うるさいぞ侍女」
「……ですが」
「この俺がもう要らないと言っているんだ、侍女ごときが口ごたえするな」
そう、この男、自分の家柄が良いものであることを過剰に誇っていていちいち偉そうなのだ。
「ではな、ルーフィア。さらば」
「……さようなら」
こうして二人の関係は思わぬ形で終わりを迎えた。
でも仕方ないか。
愛せないなら。
顔に傷がついたことが許せないなら。
それに、そんなことを言う人と結ばれても、きっと幸せにはなれないだろう。
「お嬢様をあんな風に言うなんて……許せませんっ」
「仕方ないわ、顔に傷がついたのは事実だから」
「ですが……!」
「いいのよ、気にしないで。でもありがとう、そう言ってくれて、怒ってくれて」
婚約破棄は確かに悲しさもある。
でもこれで終わりではない。
きっと私を本当の意味で受け入れてくれる人だっているはずだ。
もしそういう人に出会えたら、その時にその人と未来を見据えればいい――私はそう思う。
◆
あれから数年が経った。
私は今、真っ直ぐに愛してくれる人と共にある。
「ルーフィアさん、今度どこ行く?」
「どこ、って」
「デートみたいな」
「そういうこと。ええと、でも……」
あるパーティーにて知り合ったカフスとは、馬の話で盛り上がり、それから段々親しくなった。
そして今、婚約している。
正式に話し合いもして、既に婚約者同士となっているのだ。
「お出掛けは嫌?」
「いえ、そういうわけでは。ただ、少し考えたいの。ぱっと思いつくのは難しいわ」
「そっか。じゃあ僕ももう少し考えてみるね」
「ごめんなさいね。私も考えるわ」
「二人で考えればきっと良い案が出るよ!」
「そうね」
カフスは広い心の持ち主だ。大抵のことは受け入れてくれる。そんな彼だから、私の顔の傷も受け入れてくれた。事情を説明すれば聞いてくれたし、心ない発言をすることはなく。むしろ気を遣いつつも、ある程度自然に、関わってくれた。
「うーんと、じゃあ、海の街とかどうだろう?」
「南の?」
「そうそう」
「綺麗よね、あそこ」
「魚も食べられるし!」
「いいわね」
「じゃあそれで決まりにする?」
「ええ……」
「もうちょっと考えたそうだね」
「少し考えてみたのだけれど、やっぱり、どうしても良い案を思いつかないわ」
そんなカフスとなら、きっと、良い関係を築いてゆけることだろう。
今はそう信じている。
彼となら真っ直ぐにどこまでも歩めると。
ちなみにベレはというと、あの後理想的な恋人ができたそうだが、ある時山賊に襲われて顔に傷を負ってしまいそのことを理由に恋人から別れを告げられてしまったそうだ。で、ベレは心を病んだそう。やむを得ない状況でついた顔の傷を理由に捨てられたため、なおさらショックが大きかったようだ。
でも、それも、彼がやってきたことだ。
少しは分かっただろうか? 傷くらいで切り捨てられる痛み。多少は理解できただろうか? 自分がしてきたことが罪であるということを。
◆終わり◆




