あの日婚約者の裏切りを目にして――そして今、愛しい人と共に生きています。~たとえ闇の中の関係だとしても~
あの日、婚約者アバロンが見知らぬ女を連れていかがわしい場所へ入っていくのを見てしまって、それから――私はもう彼を、否、この世のすべての男性を信じられなくなった。
彼との婚約はその後破棄となった。
あんなところを見てもなお続いていくような関係ではなかったのだ。
……終わりは必然だったのだと思う。
アバロンは後に既婚女性に手を出す行為を繰り返したことで国家警備隊に目をつけられ、十件目で拘束された。そして数年の労働の後、反省の色がまったく見られなかったために更生施設という名の黒い箱庭へ送られ、広く知られぬ環境にて処刑された。
そう、あの時私を傷つけた男は既にこの世にはいないのだ。
「ねえルル、今何考えてるの?」
――そう声をかけてきたのはこの国の王女メリッサ、とても美しい齢二十の娘だ。
「あ、いや、ううん何でも。ごめん」
「ぼんやりしてたわよ?」
「ごめん……」
「あのねルル、責めているわけじゃないの。でも心配だから。どうか……どうか、何かあるのなら伝えて? 一人で抱えては駄目よ」
闇に咲く薔薇のように美しいメリッサは私の今の恋人だ。
ただしこのことは世には出ていない。
表向き私たちは王女と従者であり、親友のような関係だと言われてはいるもののそれ以上だとは誰にも思われてはいない。
いうなれば、秘密の関係。
「ありがと。メリッサ。でも本当に大丈夫。……ちょっと昔のことを考えてただけだから」
「そう……ならいいのだけれど」
私は目の前にいる可憐な彼女が好きだ。
愛している。
誰よりも。
「いつもごめんね」
「いいえ! ルルは悪くないの! ああそうだ、そろそろちょっとハーブティーでも飲まない? 新しいのが入ったのよ昨日」
「え。気になる」
「じゃあ持ってこさせましょう」
王女メリッサの部屋、その中でだけの関係。
けれどもその関わりは何よりも深い。
そして誰の手によってでも壊せないもの。
「美しい色のハーブティーなの、ルルきっと気に入るわ」
私は彼女をずっと大事にしていきたい。
だって彼女は私の希望だから。
いつまでも大事に想い、そして、特別な人として身も心も護っていたい。
◆終わり◆




