婚約破棄された日、あの悲しみの日、貴方に出会った。そして――。
婚約破棄された日、あの悲しみの日、貴方に出会った。
思えばもうあれから数ヶ月が過ぎて。
早いものだなと思う。
でも、今でもこうして手をそっと握り合っていられて、貴方の隣にいられて嬉しい。
今もこうして、同じベンチに座って誰よりも近くにいられている。
こんな幸福はない。
まるで夢みたいだ。
だからこそこの時間がいつまでも長く長く続いてほしい。
できるなら、一瞬を永遠に。
できる限り引き延ばしてほしいとすら思う。
「あのさ、ちょっと……」
「……なに?」
顔を横向けて、目線を合わせる。
顔と顔がこの上なく近づく。
それでも不快感はない。
愛する人、貴方となら。
「実は、その、言いたいことがあって」
「恐ろしいこと?」
「いやそれはないと思う……」
「そう。じゃあ良かった。何でも言って」
貴方は少し躊躇うような顔をしたけれど。
「結婚してほしいんだ」
数秒の間の後、そう言った。
「これからもずっと一緒にいたい、共に生きていこう」
「……冗談?」
「いや、本気」
「……そんなこと、本気で言っているの?」
「そうだよ」
「……そう、そうね」
かつて私を捨てたあの人は、他の女と私を比べた。
そして言ったのだ。
私のことを、誰にも選ばれない価値のない女、と。
「ありがとう、嬉しいわ。……そうしましょう」
でも、そうはならなかった。
諦めていたけれど。
選ばれる時は来た。
「……良かった。なら、改めて。これからよろしくお願いします」
「こちらこそ、よろしくお願いします」
こうして私は幸福への第一歩を踏み出す。
「これから、楽しいこと、たくさんしよう」
「ええ」
「きっと幸せにする、できる限り。そう誓うよ」
「ありがとう、嬉しいわ」
結婚しても楽しいことばかりではないということは知っている。けれども、それでもなお。今はただ、小さなものでもいいから夢をみていたい。愛おしい人との光に満ちた未来を、束の間でも、想像してみたい。
「私も、貴方のためにできることはするから」
「気遣いありがとう。……でも無理しないでね?」
「もうっ、何よその言い方っ」
「ああいやごめん変な意味じゃないんだ」
「ふふ、冗談よ」
「そっか。なら良かった」
ああ、そうだ、ちなみに――かつて私を切り捨てた彼は、今はもうこの世にはいない。
何でも、異性関係のことで揉めたそうで。
ある時その揉め事が大きくなり、一人の女性の兄とそのあまりよろしくない感じの仲間たちから殴る蹴るの暴行を加えられたそうで。
その時に負った首の怪我が原因となって死に至ったらしい。
……確か、いつか、そんな話を聞いた。
「幸せになろう」
できるなら、この時が永遠になりますように――。
今はただ、そう願う。
◆終わり◆




